沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

基本を忠実に

深町雄三

北部地区医師会病院内科 深町 雄三

今回、若手コーナーに寄稿させていただくこ とになりましたが、私は既に50にもなろうとい う歳で、初期の目的に反することになるかもし れません。「若手医師のために」ということで ご容赦ください。

医師免許を取って働き出したすぐは、やるこ と全部が楽しくて、特に内視鏡や心臓カテーテ ル検査などなど、ついつい華やかな(に見え る?)手技や検査にばかり目が行ってしまいが ちです。しかし実地臨床で患者様が「私は心臓 病でカテーテル検査が必要です」「十二指腸潰 瘍瘢痕で通過障害を起こしているようです」な どと言って外来に来てくれるわけではありませ ん。特に救急外来では意識障害で本人の情報が 全く得られないことすらあります。問診・理学 所見・一般検査である程度の目処を付けないと 何をやっていいのか、どんな検査を組むべきか など道筋を付けることさえ難渋してしまいま す。成書を読むと、いろいろな先生が問診、理 学所見や一般検査の重要性を指摘されていま す。今回私は検査の中でも基本的な尿所見につ いて、以前在籍していた病院での自らの失敗を 踏まえて注意を喚起したいと思います。

検尿は住民検診、学校検診などでも広く行わ れています。精度は高くありませんが、スクリ ーニングには重要な検査です。どんな病気が見 つかるでしょうか?まずはコントロール不良の 糖尿病、次に尿蛋白から腎障害などがすぐ頭に 浮かびます。その他には?と質問すると多くの 研修医の先生は「・・・」と詰まってしまいま す。尿検査はまずその外観を診ることから始ま ります。色はどうか、混濁はないか、異常な臭 いはしないかといったテストテープを使う前の段階が忘れられています。

(症例1)

10歳女性、だんだんと増強する激しい腹痛で 救急搬送。初診医はAcute Abdomen で Surgical Abdomen と判断し外科へそのまま廻 しました。虫垂炎のRupture による汎発性腹膜 炎と考え、全身麻酔下に開腹が行われようとし たその時に検尿でGl(+)、Keton(+++)との 結果が報告され、糖尿病性ケトアシドーシスと 考えられ、お腹に傷を付けることなくインスリ ン治療で改善しました。

(症例2)

54歳男性。1年前に胃がんで開腹術を受け、 その際輸血を受けていたが著変はありませんで した。全身倦怠感を訴えその後意識レベルが低 下したため救急搬送され、その際のHb 5g/dl, Ht 10 程度。消化管出血などからの貧血のため の意識低下と判断され輸血施行。直後からショ ック状態となり、内科コンサルトを受けまし た。定期通院をしていたPt のため外来カルテ を見ると、「朝に黒いおしっこが出てその後だ るくてしょうがない」との訴えがあり、軽度の 貧血も見られています。夜間発作性血色素尿症 と考えられ、緊急の血漿交換を行いましたがか なわず、死の転帰を取りました。

(症例3)

28 歳 女性。激しい下腹部痛で救急搬送。 外科入院となりました。腹部は症状に比して柔 らかく、明らかな筋性防御も見られませんでし た。訴えが激しくHyを疑い、二日間観察しても改善せず、試験開腹を行われましたが異常所 見は見られませんでした。ふと、その時の研修 医がバッグに溜まっている尿の色を見ると、な んだかオレンジっぽい感じがすると相談に来ま した。尿は紫外線灯で蛍光発色し、精査の結 果、急性間欠性ポルフィリン症でした。

(症例4)

76歳 女性。急に動けなくなって発熱したこ とを主訴に救急搬送。全身は硬直し、動けませ ん。既往歴を聞いても本人も家族もなかなか答 えてくれません。尿はオレンジ色をしていまし た。あとで分かったのですが、前医にてパーキン ソン病の診断を受け大量のドーパ製剤を服用し ていましたが、5月の連休で子や孫が帰ってき て、大量の薬を見て「こんなに薬をのんだら体 に悪い」と言われ自己中断していたのです。そ のため前医に受診できず、救急で私のいた病院へ運ばれてきた次第でした。初診時のCPK は 12万以上。服薬中断による悪性症候群・横紋 筋融解症でした。ドーパの投与、ダントリウム など行いましたが一旦起きた横紋筋融解症の改 善は困難で多臓器不全で死亡しました。

いくつか症例を紹介しましたが、これらの例 は一般検尿では引っかからないかも知れません が、実際の尿をチラッと見たら「アレおかしい な?」と思うはずです。救急の研修が義務化さ れたことは非常にいいことだと思います。多く の救急患者のうちには、ちょっとした注意を払 っていれば(例えば尿を実際に見てみるとか) より早く診断に行き着くことも多く、余計な負 担、例えば症例3の試験開腹などを避けられる こともあるのです。救急を多く診て、「アレお かしいな?」という感覚を磨いてください。そ して今研修している皆さんがより良い臨床医と なることを祈念しています。