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臀部穿通枝皮弁による坐骨部褥瘡の治療

沖縄県立中部病院形成外科 石田 有宏

【要 旨】

坐骨部褥瘡はほとんどが対麻痺に合併し、治癒後も車椅子を使った生活を続け常 に患部に荷重がかかるため、他の部位の褥瘡に比べ再発率が高い。近年穿通枝皮弁 の概念と有用性が広く受け入れられ、仙骨部褥瘡に応用され良好な成績が報告され ている。坐骨部褥瘡に対して従来は大腿二頭筋皮弁や薄筋皮弁などの下肢からの筋 皮弁が多用されてきたが、再発症例では既に皮弁が使われており再建材料の選択に 苦慮することが多い。しかしながら臀部皮膚には余裕があることが多く、皮弁採取 および一次縫縮が可能である。穿通枝が豊富であること、筋組織を犠牲にせず皮弁 挙上が短時間で容易なこと、下肢の肢位にかかわらず縫合線に緊張がかからないこ と、健常組織を転位することで良好な創治癒が期待できることの理由から臀部穿通 枝皮弁による坐骨部褥瘡、特に術後の再発例、難治症例の再建は従来の筋皮弁より も低侵襲で再発も少ない優れた手術手技である。

【Abstract】

Surgical treatment of recurrent ischial pressure sores is one of the most challenging endeavors for plastic surgeons. Most patients with ischial pressure sores are paraplegic and wheel chair dependent for ambulation and continue to put pressure on their once healed ischial wounds even after successful closure. Recurrence rate of ischial pressure sores is higher than any other pressure sores and local flaps may have already been used. Perforator flap concepts have gained wide acceptance and have been utilized successfully for treatment of sacral pressure sores. For most patients with recalcitrant ischial pressure sores, the gluteal region is spared, remains loose, and gives enough volume for flap harvest and primary closure. Because the flap is not harvested from the thigh as many flaps for the ischial pressure sore, hip flexion does not put tension on the suture line while the patient is in a sitting position. Presence of large multiple perforators, expeditious elevation, tension free suture line regardless of the position of the hip joint and transposition of a healthy unscarred flap make the gluteal perforator flap a very versatile and durable flap for ischial pressure sore reconstruction especially for recurrent and recalcitrant cases.

【はじめに】

坐骨部褥瘡はほとんどが対麻痺に合併し、治 癒後も車椅子を使った生活を続けるため常に患 部に荷重がかかり他の部位の褥瘡に比べ再発率 が高く、最も治療に難渋する褥瘡の一つであ る。近年穿通枝により栄養される穿通枝皮弁の 有用性が数多く発表され、従来から行われてき た筋皮弁による再建と比べ筋組織の機能を犠牲 にすることなく、低侵襲でさらに再発率も低い とされている。我々の施設でも穿通枝皮弁によ る再建術を第一選択としており、良好な成績を 上げている。

【手術方法および術後管理】

腹臥位にて褥瘡周囲の穿通枝をドップラー血 流計で探し、メチレンブルーで刺青を行って印 を付ける。穿通枝を皮弁の端に置き、90度から 120度回転する紡錐形の転位皮弁をデザインす る(図1)。少なくとも1本の穿通枝を含むよう デザインするが、皮弁の回転を妨げないときに は複数本の穿通枝を含める。褥瘡腔を完全にデ ブリードマンし、必要であれば坐骨結節を骨ノ ミで平らに削る。皮弁は穿通枝を温存して筋膜 上あるいは筋膜下に剥離するが、穿通枝自体は 露出せず、皮弁の回転を妨げない程度の脂肪組 織を周囲に残すようにする。皮弁挙上剥離面は ほぼ無血野で、操作も容易で短時間で行える。 デブリードマン後の欠損に皮弁を転位し欠損を 充填する。必要に応じ皮弁を脱上皮して死腔を 充填する。再建部と皮弁採取部に閉鎖式吸引ド レーンを留置し、排液量が2日連続で50cc/日 以下になったらドレーンを抜去する。術後はエ アーベッドにて3〜4週間経過観察し、その後 徐々に座位と車椅子移動を許可する。

図1

【図1】
褥瘡周囲でドップラー血流計を用い穿通枝を探し(★)、穿 通枝を皮弁の端に置き、90度から120度程度回転して欠損部 を再建出来るよう紡錐形の皮弁をデザインする。臀部は穿通 枝が豊富で、皮膚に十分余裕があるため、複数の手術瘢痕が 存在しても多種多様な皮弁デザインが可能。

【代表症例】

42歳男性。対麻痺で、仙骨部褥瘡、両側大 転子部褥瘡と左坐骨部褥瘡の既往がある。左大 転子部褥瘡に対して左大腿筋膜張筋皮弁が、左 坐骨部褥瘡に対して臀部大腿皮弁と局所皮弁による手術がそれぞれ一度ずつ行われたが、左坐 骨部褥瘡は治癒せずMRSA感染症も伴ってお り、当院に紹介入院となった(図2)。左大腿部 からは大腿筋膜張筋皮弁と臀部大腿皮弁が既に 採取されており、局所皮弁もなされていたた め、左坐骨部褥瘡に対する治療法の選択は既に 出尽くし遊離皮弁以外に解決策は無いと思われ たが、周囲の臀部皮膚を観察すると未だ使われ ていない健常皮膚が残存しており、穿通枝皮弁 による再建が唯一可能な現実的解決策と考えら れた。

図2

【図2】
42歳男性、左坐骨部褥瘡再発。臀部大腿皮弁、局所皮弁で二度手術が行われたが創部は治癒せず。同側の 大腿筋膜張筋皮弁は大転子部褥瘡の再建に既に使用されていた。18.5×9cmの臀部穿通枝皮弁を皮弁下端部 に穿通枝(★)を含むようデザインし90度時計方向に回転して褥創腔(斜線)を充填した(左)。前回手術の 局所皮弁採取部皮膚欠損部(☆)には分層植皮を行った。退院時、術後68日目の治癒した創部(中)。術後 34ヶ月目に新たに反対側に坐骨部褥瘡を形成。左坐骨部褥瘡は治癒したまま(右)。

左坐骨部褥瘡をデブリードマンした後、欠損 部辺縁付近でドップラー血流計で穿通枝を探 し、その穿通枝を血管茎とした18.5×9cmの皮 弁を上内側方向に向けデザインした。穿通枝を 温存して皮弁を挙上し、約90度時計方向に回転 して先端部を脱上皮して欠損部に充填した。皮 弁採取部は一次縫縮した。前回手術時の局所皮 弁採取部の皮膚欠損部には分層植皮を行った。 皮弁採取部を通し欠損部に閉鎖式吸引ドレーン を留置し手術を終了した。術中出血量は235cc で輸血は不要であった。術後5日目にドレーン を抜去した。術後37日目に肛門付近の創部が一 部離開し瘻孔を形成したが、カテーテル洗浄に より保存的に治癒した。術後47日目に車椅子移 動を開始し、術後68日目に退院した。

その後、術後34ヶ月目に明け方まで座ったま ま麻雀をした後に坐骨部に褥瘡を形成し当院に 再入院したが、そのときできた褥瘡は前回手術 したのとは反対側の新たな右坐骨部褥瘡であっ た(図3)。その後右坐骨部褥瘡も同様の臀部穿 通枝皮弁で再建し退院した。左坐骨部褥瘡手術 後55ヶ月、右坐骨部褥瘡手術後22ヶ月の最終 フォローアップ時点で再発はなく患者は活動的 で有意義な生活を送っている。

図3

【図3】
図2と同一症例。(左)23×8.5cm の臀部穿通枝皮弁を2本の穿通枝(★)を血管茎として挙上し、 120度時計方向に回転。同側の大転子部褥瘡の瘢痕(☆)が近接する。(中)皮弁転位後。(左)術後35日目 退院時所見。

【考察】

坐骨部褥瘡はほとんどが対麻痺に合併し、治 癒後も車椅子を使った生活を続け常に患部に荷 重が加わるため、他の部位の褥瘡に比べ再発率 が高く、しばしば治療に難渋する。特に再発を 繰り返す症例は既に種々の皮弁が使われ、もは やこれ以上使える局所皮弁がないと考えられる 症例に遭遇することもあり、腹直筋皮弁1)や遊 離皮弁2)による再建も報告されている。坐骨部 褥瘡をデブリードマンした後の欠損部の再建に は従来から大腿二頭筋皮弁3)や、大臀筋皮弁4) あるいは薄筋皮弁5)などの筋皮弁が使用されて きた。以前は血流の良い筋皮弁が死腔の閉鎖に 適しており、筋肉がクッションになると考えら れていたが、最近の報告では筋皮弁よりもむし ろ筋膜皮弁のほうが再発率が少ないと指摘され ている6)。筋肉は皮膚よりも虚血に弱く決して クッションにはならず、荷重により容易に壊死に陥り褥瘡の再発を来たす。人体の荷重部皮下 には筋肉ではなく、筋膜組織が存在することも これを裏付けている。近年皮弁の解剖が詳細に 研究され筋肉、あるいは筋間中隔を貫く穿通枝 により栄養される穿通枝皮弁の有用性が数多く 報告されている。筋皮弁の皮膚は筋肉により栄 養されるのではなく、筋肉を貫いて皮膚に入る 穿通枝により栄養されるのであり、筋皮弁の筋 肉は単に穿通枝を通しているキャリアで、穿通 枝を筋肉から剥離できればその下の筋肉がなく とも皮膚は十分に栄養されるという考えであ る。穿通枝皮弁を用いることにより今まで筋皮 弁として同時に挙上されてきた筋肉の機能を犠 牲にすることなく、必要な皮膚、皮下組織のみ を使用することが可能になる。さらにわずか 1mm 以下の穿通枝1本で20×10cmの大きさの 皮弁を十分に栄養出来ることも判ってきた。光 嶋ら7)は臀部穿通枝皮弁を用いた仙骨部褥瘡の 再建を行い、手術時間の短縮、筋組織の温存、 および良好な臨床経過について報告しており、 最近では坐骨部褥瘡に対する臀部穿通枝皮弁の 報告もされている8、9)

臀部は上臀動脈、下臀動脈などからの穿通枝 が非常に多く存在し、坐骨部褥瘡、大転子部褥 瘡などで大腿筋膜張筋皮弁、大腿二頭筋皮弁、 臀部大腿皮弁などの手術瘢痕のある症例でも十 分余裕のある皮膚が残されていることが多く、 多種多様な皮弁のデザインが可能である(図1)。

臀部穿通枝皮弁のもう一つの利点は転位皮弁 であることである。健常で瘢痕組織のない皮弁 を転位し充填することで良好な創治癒が期待で きる。V-Y伸展大腿二頭筋皮弁の場合はデブリ ードマンした創縁部が皮弁辺縁部になり充填に 用いられるため、どうしても炎症による硬結を 伴った部分が創閉鎖に使用され創治癒の遅延に つながりやすい(図4)。

図4

【図4】
転位皮弁では健常な組織を用いた再建が可能。伸展皮弁で は皮弁辺縁が褥瘡周囲組織になるため一部炎症を起こした瘢 痕組織が創閉鎖に使用される。

さらに、臀部穿通枝皮弁は従来の大腿二頭筋 皮弁、薄筋皮弁など下肢からの皮弁と異なり、 臀部からの皮弁であるため下肢の肢位にかかわ らず縫合部に緊張が掛からない10)ことが最大の 利点である。下肢からの皮弁の場合は創治癒過程あるいは創治癒後に臥位から座位をとったと きに股関節が屈曲し縫合部に緊張が加わるため に創離開を来しやすいが、臀部穿通枝皮弁では 座位でも縫合部に緊張がかからないため早期の 離床が安全に行える。当院では現在では術後3 〜4週間でエアーベッドからの離床、座位、車 椅子移動を許可しており、入院期間の短縮につ ながっている。

【まとめ】

臀部は穿通枝が豊富であること、筋組織を犠 牲にせず皮弁挙上が短時間で容易なこと、下肢 の肢位にかかわらず縫合線に緊張がかからない こと、健常組織を転位することで良好な創治癒 が期待できることの理由から臀部穿通枝皮弁に よる坐骨部褥瘡、特に術後の再発例、難治症例 の再建は従来の筋皮弁よりも低侵襲で再発も少 ない優れた手術手技である。

参考文献

  • Kierney PC, et al.: Limb-salvage in reconstruction of recalcitrant pressure sores using the inferiorly based rectus abdominis myocutaneous flap. Plast Reconstr Surg 102:111-116., 1998
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  • Yamamoto Y, et al.: Long-term outcome of pressure sores treated with flap coverage. Plast Reconstr Surg 100:1212-1217, 1997
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  • Foster RD, et al.: Ischial pressure sore coverage: a rationale for flap selection. Br J Plast Surg 50:374-379, 1997

著 者 紹 介

石田有宏

沖縄県立中部病院形成外科部長
日本外科学会認定医、日本形成外科学会専門医
石田 有宏

生年月日:昭和33年4月5日

出身地:大阪府 大阪市

出身大学:三重大学医学部 昭和58年卒
1983年 三重大学医学部卒業
1983年5月〜1987年4月 沖縄県立中部病院外科研修医
1990年7月〜1992年6月 米国オレゴン州、オレゴン医科大学形成外科レジデント
1998年4月〜1998年7月 米国カリフォルニア州、UCLA形成外科頭蓋顎顔面外科臨床研修

所属学会:日本形成外科学会、日本外科学会、日本マイ クロサージャリー学会、日本手の外科学会、日本美容外 科学会、日本頭蓋顎顔面外科学会、日本外傷学会、国際 形成外科学会

専攻・診療領域
 形成外科

その他・趣味等
 セーリング、写真

Q U E S T I O N !

問題:次の中から正しい物を選べ。

  • 1)仙骨部褥瘡は臥床時に圧がかかる部位にでき るため、その再発率は坐骨部褥瘡に比べ高い。
  • 2)褥瘡の手術治療には血流の良い筋皮弁による 被覆が第一選択である。
  • 3)穿通枝皮弁は筋肉を犠牲にしない侵襲の少な い術式である。
  • 4)褥瘡の再建に筋皮弁を用いると筋肉がクッシ ョンとなり再発が少ない。
  • 5)筋皮弁の皮膚は筋肉により栄養されるため、 皮弁の挙上に筋肉を付けることは必須である。

CORRECT ANSWER! 8月号(vol.42)の正解

問題:大腿骨近位部骨折について正しいのはど れか。

  • 1)大腿骨近位部骨折の発生数は70歳代に最 も多い。
  • 2)沖縄は他府県と比較すると大腿骨近位部骨 折の発生率は低い。
  • 3)大腿骨転子部骨折に対しては人工骨頭置換術 が最もよく行われる。
  • 4)大腿骨近位部骨折は屋外での受傷が多い。
  • 5)大腿骨頚部骨折より大腿骨転子部骨折の方が 骨密度低下により関連する。

正解 5)