常任理事 安里 哲好
去る9月14日(木)に日本医師会館大講堂に おいて、厚生労働省、日本医師会、労働者健康 福祉機構、産業医学振興財団の主催により、み だし会議が開催されたので、その概要について 報告する。
定刻となり、産業医学振興財団の鹿毛事務局 長から開会の案内が行われた後、主催団体の挨 拶があった。
【川崎厚生労働大臣挨拶】
近年、わが国においては、産業構造の変化、 就業形態の多様化など、働く方に対する環境が 大きく変化している。それによる労働者の健康 への影響が懸念されるところである。
定期健康診断の結果を見ると、何らかの所見 を有する労働者が5割近くにおよび脳、心臓疾 患にかかる労災認定件数も増え、又、職場にお いて、強い不安や悩み、ストレスを感じている 労働者の割合は6割を超え、精神障害等にかか る労災認定件数は高水準にある。更に、自殺者 数は年間3万人を超えている状況であり、過労 死、過労自殺に対する社会的関心はますます高 まっている。こうした状況を踏まえ、厚生労働 省においては、労働安全衛生法を改正し、職場 におけるメンタルヘルス対策、医師による面接 指導等一層の強化を図っている。様々な施策を 通じて、わが国の労働者が健康で安心して働く ことができる社会を築くことは、我々厚生労働 省の責務であるが、本日お集まりいただいた産 業医の先生方をはじめ皆様方の第一線における ご尽力なくしては実現できるものではない。地 域産業保健センターや産業保健推進センターの活動を含めて、引き続き、皆様方のご支援、ご 協力をお願いしたい。
【唐澤日本医師会長挨拶】
本日、ご参集の皆様方には、日頃から各地域 において、地域医療の発展にご貢献いただくと 共に、産業保健活動の推進にご尽力をいただき 心から感謝申し上げる。
近年、産業構造の変化、就業形態の多様化な ど、働く方に対する環境が大きく変化してお り、職場において、強い不安や悩み、ストレス を感じている労働者が年々増加している。この ような状況を踏まえ、職場における過重労働、 メンタルヘルス対策の強化を図るため、労働安 全衛生法が改正され、本年4月から施行されて いる。特に面接指導においては、医学的知識に 基づく措置が不可欠であり、産業医に期待され る役割並びにその責務はますます重要になるも のと考える。このような要請に産業医が適切に 応えるためには、産業医の主体的な取り組みが 重要である。また、地域産業保健センター並び に産業保健推進センター、更には日本医師会認 定産業医が、三位一体となって活動を展開さ れ、わが国の活力の基盤である労働者の健康の 保持増進を通じて、労働生産性の向上と共に、 健康寿命や労働可能年齢を延ばし、豊で活力あ る長寿社会を建設することを期待している。
労働者健康福祉機構の鶴田理事が司会を務め られ、4活動事例報告が行われた。
最初に、白山ののいち医師会の横川事務長か ら、「石川中央地域産業保健センターの活動」 について、当センターの所在地、実施機関、地域の産業状況、地域労働者の保健・衛生状況、 協議会、研修会、事業実施状況等の説明をさ れ、又、平成18年度事業計画(相談窓口、特 設相談、出張相談)について報告があった。
次に、宮崎市郡医師会の中村理事から、「宮 崎中部地域産業保健センターの活動」につい て、活動理念(費用対効果を考えて最大の利用 の獲得等)を掲げ、健康相談窓口の設置、働く 人の健康体操、個別訪問産業保健指導、働き盛 り層のメンタルヘルスケア支援事業等の活動報 告が行われ、又、行政の活用などパブリシティ 活動、これからの課題について報告があった。
次に、福岡産業保健推進センターの織田所長 から、「福岡産業保健推進センターの活動」に ついて、当センターは平成5年に開設し、相談 員として九州大学、福岡大学、産業医科大学、 福岡県医師会および労働衛生コンサルタント等 の先生方のご協力のもとに25の調査研究や講 演会、相談事業、産業医共同選任事業等を実施 してきたとの説明をされ、センターのこれまで の主な業務および特色ある調査研究について報 告があった。
最後に、福島産業保健推進センター所長・福 島県医師会の小山会長から、「福島県における 産業医共同選任事業」について、平成12年6月、 推進センター創設以来本事業に関係団体及び産 業医の協力を得て実施。この内、本県内各地で 本事業を開始した平成15年度を初年度に17年 度に亘る3年間の助成期間終了11集団43事業所 に対して、平成18年7月、本事業実施のうえで の評価について、又、当該事業共同選任産業医 へのコメントについて、アンケート調査を行っ たとの説明があり、その結果報告があった。
日本医師会の今村常任理事が司会を務めら れ、「過重労働・メンタルヘルス対策における 産業保健活動について」と題したシンポジウム が行われた。
(1)法律・指針の改正の経緯
中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センターの櫻井所長から、労働安全衛生法および 関係法規が改正され、一部を除き平成18年4月 1日から施行されている。また、関連するいく つかの指針も改正され、これらはレベルに応 じ、法律、政令、省令、告示、通達などの改 正・改訂によって構成されている。その章立て は、1)事業者による自主的な安全衛生への取組 を促進するための環境整備、2)元方事業者によ る安全衛生管理の充実、3)過重労働・メンタル ヘルス対策などの6章から成り、過重労働・メ ンタルヘルス対策は5つの主な柱の一つと位置 付けられているとして、その対策の経緯を説明 された。
(2)過重労働・メンタルヘルス対策における産業医としての対応について
東京大学名誉教授・日本医師会産業保健委 員会の和田副委員長から、労働安全衛生法の改 正により、過重労働・メンタルヘルス対策が大 きな第一歩をあゆみ始め、産業医の対応も、よ り明確になると同時に責任・職務も重大となっ たとして、産業医対応の基本である面接指導の 着実な実施について述べられた。
(3)メンタルヘルス対策における個人情報の保 護について
産業医科大学教授・日本医師会産業保健委 員会の堀江委員から、メンタルヘルス対策にお いて、個人の面接や相談を行う者は、就業者の 症状や受療状況などの健康情報をはじめ、背景 にある職場の人間関係、職業観、人生観など多 岐にわたる個人情報を取得することになる。ま た、事業場では、特別な面談を行わなくても、 履歴書や診断書などの個人情報が存在する。こ れらの個人情報は、その保護と利用のバランス を保ちながら適切に取り扱う必要があるとし て、その保護および利用等の取扱いについて述 べられた。
(4)メンタルヘルス対策における事業場での対 応について
東京大学大学院医学系研究科精神保健学・ 看護学の川上教授から、平成18年3月に厚生労 働省より公表された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、平成12年8月の旧指針 よりも法令上の位置付けが明確になっている。 今後、事業場では、新指針に基づき、事業場の 実情や科学的根拠を考慮しながら、メンタルヘ ルス対策を進めることになるとして、その具体 的進め方について述べられた。
(5)精神科医療機関から産業医への活動に関す る提言
大阪精神科診療所協会の渡辺会長から、労働 者のメンタルヘルス対策においては、精神科医療 機関と企業との連携の必要性がますます増大す ると考えられるが、課題もあり、この課題をクリ アし、有意義な連携関係を構築するためには産 業医の存在が極めて大きいとして、精神科医療 機関から職場の産業医への期待を述べられた。
労働者健康福祉機構の高田医監が司会を務め られ、各医師会から予め出された質問・要望事 項に対し、厚生労働省、日本医師会、労働者健 康福祉機構、産業医学振興財団の各団体から見 解が示された。
Q1.
1)地域産業保健センターの窓口相談や個別訪問 産業保健指導等の業務の専門性に見合った 報酬の確保をお願いしたい。
2)労働安全衛生改正(面接指導)による備品器 具(血圧計等)の必要性、又、産業医の職 務、認定産業医に必要な知識技術、養成研修 内容、地域産業保健センター事業について、 一考いただきたい。
A1.必要性を勘案し、予算の確保を検討する ことにしたい。(厚生労働省)
Q2.委託費について
A2.委託費は、地域の活動実績を基に適正配 分される。委託費については、労働局の 裁量となっており、先ずは労働局へご相 談いただきたい。(厚生労働省)
Q3.労働者数常時50人未満の産業医選任義務 のない事業場のうち、30 人以上の事業場に 産業医選任を行政として推進してほしい。
A3.現在、50人未満の事業所については産業医共同選任事業で対処しているが、今後、 その方向で前向きに検討していきたい。 (厚生労働省)
Q4.保健所と労基署の管轄について(現場で の統合)
A4.統合はなかなか難しいと考える。現在、 地域職域連絡協議会を各地域に立ち上げ ているので、その中で地域保健と職域保 健の連携を考えてほしい。(厚生労働省)
Q5.
1)勤務医は労働者か。
2)医師の過重労働をどのように考えるか。
3)勤務医の労働環境をどうするか。
A5.勤務医は一般的に労働者である。又、医師 の過重労働、労働環境については、行政と しても事業者に指導する。(厚生労働省)
Q6.産業医選任事業場における嘱託産業医名 の確認について。(情報提供をお願いしたい)
A6.名簿は事業所における産業医選任状況の 把握をすること。又、必要があれば指導 するための判断材料としており、目的外 に使用できない。個人情報保護もある。 (厚生労働省)
Q7.事業者が労働基準監督署長へ提出する 「産業医選任報告」の添付書類(医師免許証の 写し)の省略をお願いしたい。
A7.事業所の産業医選任要件は医師とは限ら ず、医師以外(労働衛生コンサルタント、 薬剤師)も選任できる。その為に、医師免 許証の写しを提出していただいている。今 後、必要性を検討したい。(厚生労働省)
Q8.全国会議の開催期日について(開業会員 の出席が多いため、日曜、祝日等の休日の開催 としてほしい)
A8.全国会議は4団体共催であり、いきなりの 変更は難しいが、他の自治開催の実情を 勘案しながら検討したい。(日本医師会)
Q9.産業医の報酬に地域格差があることにつ いて(全国展開をする事業場よりの指摘を受け て)
A9.産業医報酬については、各企業と産業医個々の契約があるので、ある程度やむを えない。しかし今後、全国統一は検討し ていきたい。(日本医師会)
Q10.2008年度からメタボリックシンドロー ム該当者及び予備軍の拾い上げを目的とした腹 囲測定が始められる予定について(測定方法の 周知、発足までの指針としてとりまとめる必要 性について)
A10.各地区医師会に標準的健診・保健指導の プログラムを配布済みである。又、8月 31日に都道府県医師会健診・保健指導 担当理事連絡協議会を開催し、内容を説 明しているので、よろしくお願いしたい。 (日本医師会)
最後に、岩砂日本医師会副会長から統括が行 われ閉会した。
印象記
常任理事 安里 哲好
1)従業員50人以下の事業所が受ける産業医共同選任事業について、福島県産業保健推進センタ ーより、平成15年度より3年年間の助成修了43事業所に対してアンケートを取り、回収率 53.4%(23事業所)との報告があった。その結果の一部として、従業員の健康診断受診率が 向上した。法定の健康診断項目以外の項目についても、従業員の健康状態に応じた健康診断 を実施するようになった。従業員の健康(主に疾病把握と予防)に対する意識が変わったと の報告があり、職場巡回指導の実践をすればよい方向に進むのは明らかだと言う印象を得た。 当該事業所産業医として3年間契約後、引き続き産業医の契約またはかかりつけ医として依頼 されましたかの問いに対して:産業医契約をした事業所はなかったが、健康管理の相談・か かりつけ医に成ったのが多かった。
2)平成18年4月より、月に100時間を越える時間外勤務を行った労働者で、面接指導を希望する ものに対し、医師による面接指導を受けさせることを義務化されたが、従業員50人以下の事 業所においては、平成20年より地域産業保健センターにて面接指導を行うとのこと。
3)質問・要望事項を中心に行った協議事項では1)30人以上の事業所に産業医選任を行政として 推進してほしい。2)勤務医は労働者である。医師の過重労働は憂慮すべきで、使用者を指導 する。勤務医の労働環境に対しては医師が不足している現状があり、また医師が本来やるべ きでない仕事もしていると述べていた。3)産業医選任事業場における嘱託産業医名の確認に ついて、個人情報保護法との関わりも含め現時点では公開できない。
以上、印象に残った点を列記したが、30〜49人の事業所の産業医選任が実現したら、県下で は、おそらく10万人前後の労働者の健康管理がなされると推測する。医療保険者による健診・保 健指導が平成20年より義務化され、産業保健と地域保健との密なる連携を保持し県民の健康の保 持・向上に寄与したいものだ。