沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 10月号

沖縄県福祉保健部健康増進課課長
譜久山 民子 先生

譜久山民子
P R O F I L E
昭和48 年3 月
東京女子医科大学医学部卒業
昭和55 年1 月 中野共立病院小児科勤務
昭和60 年4 月 沖縄県中央保健所 勤務
平成2 年8 月 埼玉協同病院 勤務・小児科医長
平成9 年3 月
沖縄県南部保健所 勤務
平成14 年3 月 沖縄県石川保健所所長
平成15 年3 月 沖縄県中央保健所 次長
平成15 年4 月 沖縄県八重山福祉保健所所長
平成18 年4 月 から、沖縄県福祉保健部健康増進課長
となり現在に至る
免許:日本小児科学会  小児科専門医
日本小児科医会 子どものこころ相談医登録産業医
沖縄県児童虐待治療プログラム研究会長  (CAT 研究会)

県民の健康の保持・ 増進のために、ご協力を お願いいたします。


Q1.健康増進課課長に就任されて4ヶ月が経 ち、各方面でご活躍中とお伺いしております が、まず、健康増進課のお仕事の概要をお聞か せ下さい。

健康増進に関する分野を幅広く担当しています。 分野別に項目だけをあげてみますと、

  • 1)健康づくり(健康おきなわ2010 の推進、老 人保健事業、歯科保健、栄養活動、がん対策)
  • 2)感染症(サーベランス、予防接種事業、感染 症法に規定する感染症(鳥インフルエンザ、 新型インフルエンザ等への対策、エイズ対 策、性感染症対策等)
  • 3)結核対策(サーベランス、公費の審査等医 療、DOTS 等の患者支援、接触者対策)
  • 4)母子保健対策(健やか親子おきなわ2010、 小児慢性疾患医療費事業、未熟児養育医療、 育成医療、乳幼児医療費助成、周産期協議 会、沖縄県母子保健大会等)
  • 5)疾病対策(難病に関すること、特定疾患治療 研究事業、ハンセン病対策、被爆者検診事 業、臓器移植事業等、アスベスト対策、熱中 症等)
  • 6)保健所に関すること、沖縄県公衆衛生大会、 ファミリーハウス入院患児の保護者宿泊施設 に関すること、その他

などがあげられます。

Q2.譜久山先生は小児科医ですので、本日は 予防接種関連のお話を中心にお伺いしたいと思 います。早速ですが、今年度からMR(麻疹・ 風疹混合)ワクチンの接種が始まりましたが、 6 月には一部、法律改正がありました。対象者 はどう変わったのでしょうか?

平成18 年5 月31 日付で「予防接種法施行令 の一部を改正する政令の一部を改正する政令及 び予防接種法施行規則及び予防接種実施規則の 一部を改正する省令について(施行通知)」健 感発第0531001 号という長い題名によって通知 されました。この内容はそれまでの「乾燥弱毒 麻疹及び風疹混合(MR)ワクチンのみを定期 として認める」という限定から単抗原ワクチン も定期として認め、いきなり限定から解き放た れた感があるくらい、多くのこどもたちに抗体 を獲得させたいという目的を達成できるように なったと考えます。通知は先生方におかれまし ても繰り返しお読みいただきたいと思います。

平成18 年4 月1 日から「1 期・2 期」の2 回接 種に変更になりました。18 年4 月ではMR ワク チンのみ定期として限定使用であったものが、 6 月の改正によって、麻疹及び風疹の単抗原ワ クチンも定期として使用すること、及び「2 期」 の対象年齢のお子さんは、麻しん・風しんの単 独ワクチンを受けていても、麻しん風しん混合 (MR)ワクチンによる予防接種を受けることが できるようになりました。

単抗原ワクチン接種後のMRワクチンの追加 接種が大丈夫だという「安全性」が国により確 認されて、今回の法改正が行われました。ま た、希望者には麻疹、風疹単抗原ワクチンをそ れぞれ接種することも認められています。ま た、麻疹、風疹どちらかに罹患したお子さん は、他方の単抗原ワクチンが接種できる様にな りました。

2 期の予防接種は1 期の予防接種によって免 疫の獲得が不十分な者又は接種後期間の経過に 伴い免疫が低下した者に対する免疫の付与又は 強化を行うことを目的としています。

新しい対象年齢は1 期が1 歳〜 2 歳未満です。2 期は幼稚園在園の児で在園の間となります。 具体的には平成18 年度対象は平成12年4月2 日 生まれから平成13 年4 月1 日生まれとなり、接 種期間は平成19 年3 月31 日までとなります。

接種についての問い合わせはかかりつけの医 師やお住まいの市町村にお願いいたします。 (なお県では、市町村担当者会議を6月に開き、 Q & A 等、接種組み合わせ表を配布及び欠席の ところには郵送してあります。)

通知の中の留意事項の3 では、単抗原ワクチ ン接種体制の確保について、4では、2 期の接種 の計画的接種を組むこと、5 では、法改正前の 漏者に対する対応についての19 年3 月までの特 段の配慮を求めることが記載されています。

4 の2 期対応については予算の確保を伴うこ とから、市町村の対応状況を待っています。

5 の漏れ者対応については昨年9 月文書で市 町村宛に県からもお願いしたところです。

麻しん(はしか)は感染力が強く、かかると 重症化しやすい病気です。風しんは妊婦さんが 妊娠早期にかかると、先天性風しん症候群と呼 ばれる病気により心臓病、白内障、聴力障害な どの障害をもった児が生まれる可能性が高くな ります。

麻しんや風しんは乳幼児期早期にかかってし まうことが多いため、麻しんと風しんの予防接 種は、お母さんからの免疫がなくなる生後1 歳 以降できるだけ早い時期に接種することを勧め ていて、“1歳になったら麻疹・風疹ワクチン を!”を合言葉にして95%の予防接種率を目指 して行きたいと思います。

Q3.昨年度からBCG 接種の対象者が生後6 ヶ月未満に変わりましたが、接種率が心配で すが、どうなっているのでしょうか?

平成17 年4 月からツベルクリン反応を省略 し直接BCG 接種に、対象年齢も生後6 ヶ月未 満となり、その状況が気になるところです。

多くの市町村の接種は生後3ヶ月から6ヶ月 未満の児に実施され、離島等においては1 歳 未満までを対象としたところもありました。

平成17年度の接種率は6 ヶ月未満児対象で 86.5 %です。平成14年から16年では4歳まで それぞれ68.9 %、69.5 %、76.5 %で、これら に比べ高い接種率となりました。また県内で 初めて個別接種を導入した那覇市では97.6 % の接種率でした。BCG 接種後の針痕数調査 でも、平均が約16 / 18 と接種技術の大きな 低下もありませんでした。

コッホ現象についても心配されましたが、 事例報告はありませんでした。

Q4.日本脳炎ワクチンが今年の4 月から再 開されると期待しておりましたが、どうなっ ているのでしょうか?特に沖縄県は日本脳炎 ウイルスの汚染地区で心配ですが。

上記については厚生労働省により平成17 年5 月31 日付で通知が出たところですが、当 初1 年と見込まれていた新ワクチンの供給体 制の整備が今後数年はかかることが判明し、 皆様にはご心配をかけているところです。

今年も8 月14 日には豚血清の日本脳炎抗体 価が基準を超えたため“日本脳炎注意報”を 発令しています。平成17 年が9 月13 日発令以 外は、毎年6月から7月に注意報が出ています。

日本脳炎の発生状況では、国は平成4 年か ら一桁台を推移しています。沖縄県は平成10 年1 人発生がありましたが、実は平成3 年米 軍基地内での3 名患者発生はサーベランスで は把握出来ていませんでした。また、この4 名は民間の検査施設では検出できず、研究室 レベルで診断されました。急性脳炎・髄膜炎 の7 割は原因が把握できていない現状です。この中で県は昨年から日本脳炎ウイルス積極 的サーベランス事業を国立感染症研究所と一 緒に実施しています。県立病院から不明の急 性脳炎の検体を提出していただき、ウイルス 検索をしています。昨年は17 例の検体があ り、ウイルス検索を実施したが日本脳炎ウイ ルスは検出されませんでした。本年も日本脳 炎ウイルス積極的サーベランス事業を実施し ているところです。

また、県から「日本脳炎予防接種希望者に 対しては実施体制を確保する様に」事務連絡 文書を市町村、医師会宛に8 月23 日付で出し ました。

Q5.「健康おきなわ2010」についてですが、 県は先日、「長寿県復活は容易ではない」と する中間報告を発表しましたが、どのような 状況なのでしょうか?

平成17 年度に中間評価を行ったところで す。1)栄養・食生活、2)身体活動・運動、3) たばこ、4)アルコール、5)休養・こころの健 康づくり、6)歯の健康、7)糖尿病、8)循環器 病、9)がん、というように9つの分野に目標 を設定し、地域、学校、職域、行政などの関 係機関・団体が協働して、健康づくり運動を 推進してきました。

目標の達成状況を見ますと、早世、健康寿 命では、平成12 年都道府県別生命表で、沖 縄県の平均寿命は男性77.64 歳で全国26 位、 女性86.01 歳で全国1 位でした。他府県が平 均寿命を延ばしているのに比べ、沖縄県はそ の伸びが鈍化しています。平均寿命は0 歳の 平均余命を表します。0 歳、20 歳、40 歳、65 歳での平均余命の全国順位を見ると26 位、 23 位、9 位、1 位です。若くなるにつれ順位 が落ちています。

指標の達成状況は、策定時の144 指標と今 回追加40 指標中、改善が見られたのは71 及 び11 指標です。悪化したのは14 及び21 指標 です。

悪化した指標は、「適正体重を維持している人の増加」、「今より1000 歩以上歩く人の 増加」、「1 日にアルコール60g を超え多量飲 酒する人の割合」、「未成年の飲酒率」、「80 歳 以上で20 本以上自分の歯を持っている人の 割合」、「糖尿病による死亡」、「耐糖能異常の 割合」、「高コレステロール血症と判定された 人の割合」です。

改善した指標は、「男性の喫煙率」、「女性 の喫煙率」、「未成年者の喫煙率」、「ストレス の低減」、「休養不足の低減」、「自殺者の減 少」、「3 歳児のう触有病者率」、「高血圧者数 の減少」、「がん検診の受診率」です。

Q6.長寿県復活のための今後の取り組みは?

基本的には、県民が健康保持に向けて判断 できるための情報を様々な方法で提供してゆ き、メタボリックシンドロームの概念を含め啓 発を繰り返し行うことが必要と考えます。資 料等は随時ホームページに掲載をしています。

今年度、健康おきなわ2010 推進県民会議で は中間評価の結果等をふまえ、肥満対策、た ばこ対策、歯科保健対策を重点課題に位置づ けました。これを受けて県も情報提供、啓発 のためのテレビ広報等に取り組んでいます。 また、健康おきなわ2010推進県民会議には32 団体参加を頂いていますが、引き続き関係団 体の取り組みもお願いして、年2 回の会議で 意見交換、進捗状況の確認を行っています。 県医師会にはその参加団体として健康づくり の県民公開講座など恒常的、積極的に取り組 みを頂いているところです。

肥満について、県民への呼びかけとして、 1)体重、腹囲を測定しましょう、2)賢く食べ ましょう、3)少しでも体を動かしましょう、 という内容で「肥満対策緊急アピール」を4 月14日行いました。その中で沖縄版食事バラ ンスガイドの活用を呼びかけました。現在、 普及啓発を行っています。

ヘルシーメニューコンテスト(高校生対 象)、飲食店への栄養成分表示の勧奨等様々 な取り組みをしています。

たばこ対策としては基盤整備の観点から 「禁煙・分煙施設認定制度」に県全体として 今年度から取り組みを開始し、8 月31 日現在 139 施設が認定されています。学校、病院、 公共施設、ホテル、飲食店等が対象で、申請 に基づき審査を行っています。

歯科保健分野では3 歳児のう触有病者率は 減少しているものの全国ワースト1 位持続と いう課題があり、健康づくりからの課題とと らえてフッ化物の普及を含めて対策の強化を 図りたいと考え、学校、保育関係者への研修 に取り組んでいます。

Q7.譜久山先生は関東のご出身とお伺いし ておりますが、どちらでしょうか?また、沖 縄県との関わり合いは?

私は、東京都出身で開業医の娘です。ピア ニストにしたかった母に逆らい男子が多い都 立大学附属高校に入学。そこは旧制中学の伝 統を受けて自由、自治の精神が盛んなところ で、自治会総会で、いきなり新入生歓迎と並 んで沖縄返還闘争についてなどという議題が 並びびっくりしたものです。思えばそのころ から沖縄と縁があったのでしょう。新聞部に 入り哲学、文学、芸術、政治などの議論の中 でなにやら記事を書き、合間に卓球に励む 日々でした。大学ではワンダーフォーゲルと いう山歩きをするサークルに入りましたが、 その動機も勧誘が「沖縄歩きのスライド」で あったためでしょう。美しい海などの風景に 誘われ早速入部しました。その一方セツルメ ントサークルにも入部し、地域保健活動にの めり込みました。卒業後は小児科医として勤 務していた病院で沖縄の男性と縁があり、結 婚しました。子育てをしながらの小児科勤務 は毎日嵐の様でかつ充実した生活でした。3 重保育に、職場の看護婦さん、患者のお母さ んたちにも我が子を見てもらいながらの子育 てでした。私の様な者がお母さんになるなん て誰もが心配してくれ、医者である父でさえ ある日来てそっと掃除をして帰ったことがあります。何かしらみんなから助けられた子育 てでした。沖縄に来て小児科の先生方から仕 事の助言もいただきながら琉大小児科に入れ ていただこうかと平山教授に相談したりもし ましたが“どうも長男の嫁、本家の嫁らし い”と自覚し、元々地域保健活動は希望の分 野でしたので保健所勤務を選択しました。沖 縄では、医師会の先生方、小児科の先生方、 女医の皆様などの輪にすぐに誘い入れていた だき大変心強い思いでした。今ではどちらの 出身ですかなどとも聞かれないくらいになじ んだ生活を楽しんでいます。

今後も沖縄県民の健康を守るためにがんば ります。

本日はお忙しい中、ありがとうございまし た。今後とも、医師会へのご指導・ご協力を お願い致します。

インタビューアー:広報副担当理事 野原 薫

健康増進課からのお知らせ