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中高年のスポーツのあり方

外間力人

豊見城中央病院整形外科
外間 力人

最近メタボリックシンドロームが大きな社会 問題となり、中高年の間でもスポーツの重要性 が再認識されてきています。それに伴い、中高 年の方が無理な運動を行なって怪我や障害を起 こし、受診するケースがよく見られます。そこ で今回は中高年のスポーツのあり方ついて怪我 の症例を通して考えていきたいと思います。

まず、加齢による体の機能低下を最大酸素摂取量と膝伸展筋力の二つの観点から述べると、 持久力の指標である最大酸素摂取量は、20 歳 代をピークに、男性で年0.7%、女性で年1.1%減 少します。その結果70 歳の男性で20 歳代の 65 %、女性で50 %とそれぞれ減少しています (図1)。又、筋力の指標になる膝伸展筋力は、 20 歳代前半を基準にしますと、男性で年1.0%、 女性で年0.9%減少します。その結果60 歳代前 半の男性で20 歳代前半の52 %、女性で57 %、 80 歳代で男女とも50%以下とそれぞれ減少して います(図2)。

図1

図1.最大酸素摂取量の年齢による変化

図2

図2.膝伸展筋力の年齢による変化

結合組織である腱や靭帯、軟骨においても加 齢性変化は起きます。時と共に構成成分である エラスチンの減少とコラーゲンの変性が起こ り、伸びやすく、切れやすくなり損傷しやすく なります。古い資料ですが、1993 年のスポーツ 安全協会の統計(表1)によりますと、骨折は 10 歳代と60 歳代に、靭帯損傷は20 歳代に、捻 挫は30 歳代に、肉離れや腱断裂は40 歳代に最 も多くなっていると報告されています。これ は、中高年は若い頃に比べて体重が増加する傾 向にある上に、筋力や筋・腱の柔軟性が低下し てきていることによると考えられます。変形性 関節症、骨粗鬆症を代表とする骨や関節の退行 変性は、加齢により顕著に障害が起こりやすく なると言えるでしょう。

表1

表1.1993年のスポーツ安全協会の統計

中高年に良く見られるスポーツ障害の代表例 を述べたいと思います。

1)変形性膝関節症

膝関節の軟骨が磨耗して生じるもので、関節 裂隙に痛みを感じます。膝に負担のかかるよう な運動、長時間歩行、立ち上がり、正座時に痛 みが強く、進行すると関節液が貯留し腫脹しま す。1 週間に50km 以上走るジョガーに起こり やすいといわれています。予防としては、減量 して関節への負担を軽減させたり、膝関節を支 える大腿四頭筋の筋力をつけたりすることで膝 を安定させて関節への負担を減らす方法等があ ります。

2)アキレス腱炎

体重の増加や筋・腱の柔軟性が低下している ところに、ジョギングや長距離歩行によって、 アキレス腱へ過度の負荷が加わって起きた炎症 を言います。運動中や運動後にアキレス腱の痛 み、熱感を生じます。予防としては、運動前後 の十分なストレッチや、痛みを感じた場合は氷 で患部を冷却する方法があります。また、踵の 下に足底板を入れて、アキレス腱に加わる張力 を軽減する方法もあります。

3)アキレス腱断裂

ジャンプの着地時や急に踏み込んだ時に、下 腿三頭筋の急激な収縮で生じます。受傷時は後 方から蹴られたような衝撃をアキレス腱に感じ ることが多いようです。この場合は直ぐに整形 外科を受診させて下さい。予防としてはアキレ ス腱のストレッチやアイシングが有効です。

4)筋断裂(肉離れ)

体重の増加や筋の柔軟性の低下した状態で、 運動中急に筋肉を伸張収縮した時に、筋膜、筋 線維に過度の力が働き、部分断裂を生じるもの です。症状は激しい筋肉痛、可動域制限で、断 裂部位に陥凹を触れることがよくあります。好 発部位は腓腹筋(下腿後面の筋肉)や大腿二頭 筋(大腿後面の筋肉)です。運動前にストレッ チやジョギング等を行ない、筋肉を温めておく ように指導して下さい。日頃から軽い運動を行 い、筋肉の柔軟性と適正体重を保つことが重要 です。

5)肩関節周囲炎(五十肩)

中高年者に生じる肩の炎症で、ひねったり、 ぶつけたりといった軽微な外傷をきっかけに発 症する傾向があります。初期は肩関節や上腕近 位の痛みを訴えますが、徐々に可動域制限を生 じてきます。肩関節周囲のストレッチを日常的 に行ない、柔軟性を保つことが大切です。

以上、運動障害について述べきましたが、次 に現在全くスポーツをしていらっしゃらないと いう方へ、応援の気持ちを込めて文献を一つご 紹介したいと思います。

1986 年のハーバード大学の追跡調査によりま すと、健康で長生きした人の多くは、若い頃の 運動量にあまり関係なく、中高年に運動を継続 して行なっていた人だという報告があります。こ れは運動を始めるには遅いのではないかと思っ ていらっしゃる方には朗報では無いでしょうか。

そこで今回は安全で手軽に出来るウォーキン グについて述べたいと思います。

まず全身のストレッチを行ないましょう。ス トレッチを行うときの注意点は、1)呼吸を止 めない、2)反動をつけない、3)過度に伸ばさ ない、4)10 秒以上伸ばし続ける、です。この ように筋肉が伸ばされることで、関節周囲の靭 帯や腱が柔らかくなり、神経系が活性化され運 動準備が整います。歩く前は腰や下肢のストレ ッチングを入念に行なって下さい。

最初は平地でウォーキングを行って下さい。初心者は10分間のウォーキングを1 日に3 回、1 週間に3〜4回を目安に行います。いつもより歩 幅を広げ、少し早目に歩いて下さい。肘はやや 曲げて、歩く早さに合わせて肩から腕を前後に 振ると良いでしょう。適正な運動量になるよう 心拍数を計って確かめて下さい。目標心拍数= 220−(自分の年齢)×0.6〜0.75です。無理は せず、4 週間目頃から歩行能力の向上を自覚で きましたら、徐々に距離を伸ばして下さい。

その頃から脚力を更に向上させる為に、ウォ ーキングの途中で坂道や階段を使いましょう。 坂道では歩幅を狭くして歩き、階段では1 秒に 1歩のペースで上がります。1回に30秒〜 1 分は 続けて上がってみて、疲れるようなら休みなが ら行なって下さい。下りる時は、転倒や転落の 危険がありますので十分に注意して行なって下 さい。

私は整形外科的視点からスポーツ障害につい て述べましたが、安全に運動を行うために、中 高年では定期的に内科的な体調管理を行いなが らスポーツを楽しんで頂きたいと思います。