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『子育て』

呉屋良信

わんぱくクリニック 呉屋 良信

一昨年、49歳にして3番目の子(長男)に恵 まれた。私は小児科医なので、乳児の扱いには 慣れているつもりだが、日常の世話となると別 のようだ。この年になると、赤ちゃんの世話が いかに大変かを思い知らされた。

出生後1週間ほどで、自宅に帰ってきたが、 毎晩夜泣きで起こされる。妻もそこそこの年齢 なので(実年齢を書くと後が怖いので伏せてお く)、やはりつらそうだ。夜中は交代で抱っこ したりミルクを飲ませた。3ヶ月頃からミルク による下痢が続き、改善するのに2〜3ヶ月を要 した。クリニックでも、乳児の長期の下痢につ いてよく相談を受けるが、いざわが身に降りか かると、なかなかうまくいかないものだ。7〜8 ヶ月のお座りができる頃から、毎朝お風呂に入 れるのが私の日課になった。また、毎晩抱っこ しながら子守唄のCDで寝かしつけるのも、日 課のひとつとなってしまった。この長男はとに かくよく飲み食べる。6ヶ月で体重が10kg、1 歳で12kgであった。(ちなみに、6ヶ月男児の 標準値は約8kg、1歳で9.5kgである。)抱っこ した時の、私の腰や腕への負担は相当なもの だ。早く寝かしつけないと、翌日の診療に影響 を及ぼすことは『間違いない!』しかし、必死 になって寝かそうとすればするほど、ぐずって 寝てくれないものだ。患者さんの母:「夜、な かなか寝てくれなくて困るんです。」私:「お 母さん、一緒に横になってあげたら、赤ちゃん も安心して寝ると思いますよ。」これは、私が 日ごろお母さん方によく言うフレーズだが、今 ではちょっとためらいながら言わざるを得ない。

この4月で1歳半になったので、午前保育に 通わせてみた。そのとたん、1週間毎に風邪をひき、突発性発疹から始まり、咽喉頭炎(クル ープ症候群)、流行性胃腸炎、滲出性扁桃炎、 咽頭結膜熱(プール熱)、ヘルパンギーナと 次々小児期の感染症に罹患した。4〜5月の2ヶ 月で、保育園に通った実日数は、10日程度だろ うか。患者さんの母:「保育園に行き始めてか ら、毎週のように熱を出したり咳・鼻水で病院 通いをしています。体が弱いんですか?精密検 査は必要ないですか?」私:「1歳前のお子さ んは、まだ十分な抵抗力がありません。保育園 では大勢のお子さんと接触し、いろいろなウイ ルスに遭遇します。この年齢の保育園児で、毎 月熱を出して病院通いをすることは、特別なこ とではありませんよ。」これも、私がお母さん 方に答える時のフレーズだ。妻もよく聞いてい たはずだが、いざわが子になると忘れてしまう ようだ。妻:「大丈夫かな。体よわいのかな。」 私が同じことを言うと、「でもこの子は毎週40 度の熱を出すのよ。いくらなんでも、毎週毎週 いろんな風邪が2ヶ月も続く子は見たこと無い わ。」理屈では分かっているのだろうが、毎日 看病している母親には、あまり気休めにもなら ないようだ。どうやらこのフレーズも、診療で 使いづらくなってきた。

長男が誕生してわずか1年半だが、次から次 と本当にいろいろな経験をさせてもらい、新た な発見もあったように思う。(上に二人の娘も いて、妻と共に育児や子育てに積極的に係わっ てきたつもりだ。今までに経験したことばかり だろうが、忘れていたり気づかなかったのかも 知れない。)突発性発疹では40度の熱が3日間、 プール熱では39度以上の熱が5日間続き、教科 書通りの経過をたどった。私が小児科医でなけ れば、毎晩眠れぬ夜を過ごしたことだろう。 「お母さん、突発性発疹は3日、プール熱は高熱 が4〜5日も続くんですよ。特効薬はありませ んが、高熱でも食事や水分がとれて、笑顔で一 人遊びが出来れば、心配ないですよ。」日常診 療で、母親を安心させるためによくかける言葉 だが、夜間40度の高熱を出して「う〜ん!う〜 ん!」とうなっているわが子を前にしては、気 休めにもならないことだろう。ほとんどの乳幼 児がこうした感染症を経験して、免疫力をつけ ていくのである。また全ての親御さんたちは、 わが子と一緒に子供に襲い掛かる病気と闘いな がら、子育てにいそしむのであろう。親にとっ て育児や子育ては楽しみな反面、『命がけで子 供を守る』という毅然とした決意が必要であ る。出生率が毎年過去最低を更新している中、 全国一所得の低い我が沖縄県が、出生率日本一 というのは、誠に誇らしく思える。苦しい生活 の中でも、一生懸命子育てに頑張っている沖縄 県の親御さんたちを、全国も見習って欲しい。 また、少子化対策とお題目ばかり唱えて、実情 にそぐわない政策ばかり打ち出す行政(国)こ そ、子育て真っ最中の親御さんたちへのサポー トを、真剣に考えて欲しいものだ。

この1年半の経験を糧とし、患者さんやその ご家族への心のケアにも配慮した診療を、心が けたいと思う。

★リレー状況
−平成14年以前掲載省略−
17.西平守樹先生(西平医院)Vol. 39 No. 2
18.澤口昭一先生(琉球大学医学部眼科学講座)Vol. 39 No. 3
19.安里良盛先生(安里眼科)Vol. 39 No. 5
20.照屋 勉先生(てるや整形外科)Vol. 39 No. 6
21.国吉 毅先生(南部徳洲会病院)Vol. 39 No. 9
22.吉川朝昭先生(西崎病院)Vol. 39 No. 11
23.濱崎直人先生(沖縄リハビリテーションセンター病院)Vol. 40 No. 1
24.永山盛隆先生(豊見城中央病院整形外科)Vol. 40 No. 2
25.武内正典先生(武内整形外科)Vol. 40 No. 5
26.長嶺功一先生(前県立那覇病院長)Vol. 40 No. 7
27.奥島憲彦先生(ハートライフ病院)Vol. 40 No. 10
28.豊見山直樹先生(那覇市立病院)Vol. 40 No. 12
29.仲間 司先生(県立那覇病院)Vol. 41 No.5
30.新里 讓先生(沖縄赤十字病院)Vol. 41 No.11
31.友利正行先生(ともり内科循環器科)Vol. 42 No.2
32.具志一男先生(ぐしこどもクリニック)Vol. 42 No.4
33.神谷鏡子先生(かみや母と子のクリニック)Vol. 42 No.6