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新臨床研修修了第一回生を送り出して

宮城良充

沖縄県立中部病院臨床研修管理委員会 委員長 宮城 良充

平成18年3月24日修了式が挙行され、33名 の第一回目の修了者を送り出した。彼らの動向 は20名が中部病院での後期研修を継続し、他 の13名は出身大学2名他研修病院6名海軍病院、 外国留学、休職がそれぞれ1名であった。この うち研修委員会としても後期研修を継続してほ しいと思われる研修医が数名含まれており、家 庭の事情で遺憾ともしがたく、残念であった。

さて、新臨床研修が平成16年からスタート し、三十数年間行ってきた従来の研修プログラ ムに手を加えたが、その善し悪しの結論を出す には時期尚早である。しかし、プログラムの進 化へとつなげるための年度毎の検証の積み上げ が必要である。

(1)採用人数は適当であったか

従来の採用人数は自治医大卒業生を含めて 20から22名であった。新制度スタートの平成 16年度は県庁サイドのからの勧めも有り、34 名の大幅増となった。これは修了者が出る平成 18年に開院する新病院(現南部医療センター) の後期研修医や人材確保のためであった。我々 も従来の採用人数では、研修医の過重労働も解 消できないと感じていたので、34名を受け入れ ることにした。そのため宿舎の確保に奔走し、 PFI方式で何とか間に合わせることができた。

人数が大幅に増えた影響は様々なところに出 た。まず一人あたりの症例数が減り、当直の回 数も減り、研修医にある程度余裕が出てきた。 症例が減ったといっても従来は多すぎたのであ り、一例一例をより丁寧に診ることができて不 利になることはないはずである。

しかし、研修のコアの部分において、増員の 影響が出ては、見過すわけにはいかない。たと えば、当院では習得すべき基本手技として気管 挿管成功30 例を到達目標として掲げている。 新制度になり人数が増え、1ヶ月の麻酔科ロー テーション時に研修医が1名増となり、一人平 均40例できていたものが30例と減少し、従来 30症例以上経験した研修医は90%もいたのに、 新制度では55%程度に留まり、救急センターや 病棟のスタッフからは、気管挿管が下手な初期 研修医が増えたとの感想がでた。また、各科内 のローテーションでも人数が多くなり、研修期 間が短く細切れとなったり、ローテーションを スキップしたりするような状況も生じた。

このように人数が研修のコアまで影響するの はゆゆしき問題ではある。幸いなことに(?!) 平成19年度から定員が27名に減る。これは、 20名では少ない、一方34名では多い数字の中 間的な数字でもあり、研修医の過重労働に対処 しつつ、研修効果の回復へと、好転するのでは と期待している。

(2)採用試験方法の変更はよかったの か

人物を正しく評価をすることは難しい。研修 医を採用するにも、絶対的な評価法がないの で、各施設がそれぞれ工夫している。我々の施 設でも従来筆記試験重視の採用試験を行ってき たが、新制度が開始されるに当たり、採用試験 法を変更した。筆記試験は従来通り行い、面接 試験を重視する方向性を打ち出し、面接官にな る指導医、後期研修医の面接トレーニングや研 修医チェックポイントを各面接官が共有し、優 秀でかつコミュニケーションのとれる研修医を採用することにした。

図1.

図1.指導医から見た新旧研修医気質

これにより中部病院の研修医像に変化を認め た(図1)。従来の中部病院の研修医像といえ ば、やる気満々で何事にも積極的で、優秀な研 修医だが、礼儀作法が教育されず、院外に出る と周囲に適応のできない予後不良な輩との評価 であった。新たな採用法で採用された研修医は 素直、思いやりがあり、笑顔が絶えず、挨拶が 上手で、患者や働く仲間と良好な関係が作れる 研修医像へ変わっている。反面、研修医数が増 えた分、労働時間や担当症例が少なくなり、緊 急時の決断力や最後まで食らいつく気力が薄く なってきたとの評価もある。

時代とともに、研修医気質は変わっていく。 それにあわせた教育指導法が必要である。現在 の良い素質を持った我々の研修医に、昔の“野 武士的”気概を植え付けていくのは、われわれ 指導医の責務であると考えている。

(3)研修到達目標は達せたか

厚生労働省から提示された研修到達目標項目 は盛りだくさんで、真にこれらが到達できた ら、わずか2年間で指導医より優秀な研修医が 育つことになると思われるほどである。

示された到達項目が習得できたかを知る良い 指標がなく、研修医自身が自ら評価をしてもら い、指導医はそれを利用して改善につなげなけ ればならない。そこで、新・旧制度での研修医 の到達度自己評価を比較検討してみた(図2)。

図2.

図2.研修医の到達度自己評価の比較

医療人に必要な基本姿勢・態度では患者ー医師関係が改善し、医療の安全性は後退してい た。前者は研修医採用のチェックポイントでコ ミュニケーションスキルを入れたことによる。 後者は昨今の医療訴訟の多さに、研修医は相対 的にまだまだ足りないと判定した結果であろ う。加えて、医療の社会性ではできるとした人 が2割にも満っていない。これは指導医も不得 意とする分野でもあり、研修医とともに指導医 もしっかり勉強する必要がある。

経験すべき診察法・検査・手技、経験すべき 症状・病態・疾患ともに新旧大きな違いはなか った。

特定の医療の現場の経験では、精神科と地域 医療が新たに加わったため、新旧間で大きな違 いを示した。予防医療では保健所での研修が役 立ち、地域保健・医療では介護老人保健施設、 訪問看護ステーションでの研修が役立ってい た。精神保健・医療は熱心な指導医の存在も手 伝い理解が大きく進んでいた。

新旧を比較した図を見ると、旧制度ではいび つな形をしていたチャートが修正され、新制度で はより外枠の円形に近くなっている。従来、知 識・技術一辺倒であった研修医がよりバランス のとれた‘良医’に近づいていることがわかる。


新制度の研修は始まったばかりである。研修 云々するのは時期尚早である。我々も四十年続 けてきた研修プログラムに固執することなく、 改めるべきことは受け入れ、事態に即応した研 修体制をとりつつ県民の立場に立った医療と研 修プログラムを進めていきたいと考えている。

お知らせ

会報(7月号)掲載内容の一部訂正について(お知らせ)

 会報(7月号)11ページに掲載した『研修医一期生(140名)の進路について』の原 稿中のグラフと一覧表に記載した内容で、「救急4名」、「産業医10名」は誤りで、 正しくは「救急13名」、「産業医1名」ですので、訂正致します。

また、文章の一部を下記のとおり訂正致します。

2)研修修了生の希望診療科目
   内科が最も多く39名、次いで外科14
 名、救急13名、小児科12名、麻酔科8
名となっている。

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