医療法人社団日本ウエルネス ハートセラピークリニック 真泉 文江
ここ数年の間にうつ病で治療する方は増えて います。20年前の5倍に増えているという話も あり、年間の自殺者が3万人を超える事態が8 年間も続いていることもあって、うつ病、うつ 状態への関心は高まっています。メンタルヘル スの講習会も企業や公的機関で積極的に取り上 げられて、かつてのような精神疾患への偏見は 薄らいできたように感じていました。他の病院 を受診したら異常がないので心療内科を勧めら れた、と仰って来院する方も多いので、早期治 療できる方が増え、治療しやすい環境も整って きたように感じます。この点に関しては他科の 先生方に心から感謝しています。本当に有難う ございます。
ですが、そう安心していたところに思わぬ出 来事が幾つか重なって起きました。一つは、治 療のために休職していた女性の方が復帰を前に した時のこと。過去に1年休職し復帰したので すが、部署異動になったこともあって初めての 仕事をどうこなして良いか分らない、他の人た ちは皆忙しそうに働いているので分らないこと を聞くことが出来ない、仕事は捗らず元々几帳面で完璧主義なので仕事がこなせない自分が嫌 になる、ということでうつ症状が再燃し3ヶ月 で再度休職に入りました。それからまた1年休 んだ後に復帰するつもりでいると、職場の方か ら「今度こそ大丈夫なのか、本当に仕事に復帰 する気があるのか(復帰したいから治療を継続 しているのに−以下( )内は私の独白です)、 復帰の意志があるのなら何故休職期間中職場に 顔を出したり、生活状況を報告してこないのか (プライバシーの侵害?)、長期間自宅療養する より入院治療すべきだったのではないか、主治 医の治療方針や医学的判断は正しいのか(治療 への不信感を煽って治療関係を壊そうとしてい る?)、次の復帰の時には再休職は認めない (暗に退職を迫られている?)」といったプレッ シャーをかけられ、うつ状態が再発していま す。彼女は国家公務員なので小泉政策の一つで ある公務員削減のあおりを受けているのだろう か(弱者から切り捨てていこうとしているよう で不快です)と勝手に想像していますが想像だ ったらどんなに安心でしょうか。ご本人にはこ んな話は聞かなかったことにして復帰の準備を しましょうと伝えましたが、結局向うの手の内 にはまって休職延長、自主退職という道を辿る ことになるのでは、と危惧しています(私の被 害念慮だと良いのですが)。
次は休職に入って間もないやはり女性の国家 公務員の話。口では「心配しないでゆっくり休 んで良くなってから復帰するように」と言いな がら、定期的に携帯に電話を入れて面会を設定 し、仕事の状況を事細かに聞かせる上司がいま す。休職に入る前には「半年間の自宅療養が必 要」と診断書を提出しているのに、休職は3ヶ 月にして元気になったらすぐに復職出来るよう にしたほうが良いということも言っていました (ご本人は真面目で対人関係に過敏な方なので 言われるままに3ヶ月で手続きしようとしまし たが、家族の反対で半年の休職を取りました)。 部下が休職しているとキャリアアップの妨げに なるのかしら、とこれも要らぬ心配をせざるを えない状況です(民間企業でこんな不快感を体 験したことはなかったような気がします)。ま だまだ簡単には治療環境は整わないな〜、と思 っています。
発症に関しても気になることが幾つかありま すが、最大のものは「過労」です。産業医活動 をするようになって初めて知って驚いたのです が、一ヶ月の残業時間が100時間を越えること が稀ではないのです(最近は200時間を越える 人をみることもあります−聞いたときは倒れそ うになりました)。こんなに働いても企業が黒 字になるとは限らず、お給料も満足できるほど 充分もらえるわけではありません。これでは肉 体的・精神的疲労からうつを発症しても不思議 ではありません。長期療養者に占めるメンタル の問題の比率が高いことも当然のことのように 思えます。息子さんを自殺で亡くされた女性 が、亡くなるまで精神的に追い詰められている ようには全く見えなかった、確かにここ1年夜 遅くまで働いて朝早く出かける生活をしていて 疲れたとよく言っていたし、よく風邪を引いて いたので亡くなる2週間前にも内科に行ったけ れど異常ないといって帰されただけだった、と 仰っていたのですが、これも過労が背景にあっ たと思うのです。メンタルヘルスを取り上げる 前に社会全体で労働時間を減らす(残業を減ら す)努力をしたほうが良いのではないかと私は 思います。充実感を持って働き、夕方にはさっ さと帰って家族と楽しく団欒を過ごし、夜は十 分睡眠をとって朝はすっきり目覚める、ただそ れだけで精神的安定が得られるのではないかと 思います(そんな単純なことではないのかも知 れませんが)。
以上雑感を書きました。ご拝読有難うござい ました。