介護老人保健施設あけみおの里 施設長 中村 健
沖縄との出会いは40数年前にさかのぼりま す。東京、池袋の西口に居酒屋「おもろ」があ り、その店を訪ねたのが沖縄文化との初めての 巡り合わせでした。
仕事を終え、護国寺から路面電車で池袋東口 に行き、それから西口のこの店を訪ねました。 当時の池袋西口は、まだ闇市の名残りがあり、 物騒な感じを漂わせる地域がありました。当店 は駅前といえる所にあり、安心して訪ねられま した。小生が一番の年少組で、客人の多くは40 歳代以上の方で、兵役につかれた人達でした。
店主はおばあでして、当日の気分によっては 三線を奏で、沖縄民謡をきかせて下さった。カ ラカラに入った泡盛を注ぎなめながら、沖縄文 化を楽しめたのは当時としては珍しく、貴重な 体験でした。後に人間国宝になられた方が作ら れた酒器や食器でラフテイ、ミミガー、チャン プルなどを頂きました。夕鶴の原作者の木下順 二をはじめ文士、ジャーナリストがたむろして いました。沖縄に関するカルチャーセンターの ような雰囲気でした。新設の医学部に移ってか らも、さらに東京の社保支払基金の審査委員会 会場が池袋にある関係で40数年に亘って、月 に1回位は当店を訪ねました。そして日本の原 点、原景について考えました。
沖縄に初めて足をはこんだのは琉大の小張一 峰先生が日本感染症学会を開催された時でし た。この時初めて首里城址に立ち、旧王朝を偲 びました。首里城近くの酒蔵を訪ね、古酒の説 明をうけたりしました。クレジットカードが使 える店が少なくて困惑したおぼえがあります。 3泊の行程でしたので、居酒屋「うりずん」位しか覚えていません。東京ではいただけなかっ た泡酒や沖縄料理を堪能しました。
そして、定年退職をしてからの沖縄です。散 歩で好きなスポットの一つは、首里城付近の散 策です。樹木に木札がつけられ、その木の名前 が親切に記入されており、樹木の名前を覚えな がら歩きます。
私にとって大切なスポットは「一中健児之 塔」です。養秀会館を横に見ながら階段をのぼ ると、前方に塔があらわれます。塔には、沖縄 戦に際し軍命により、校長以下職員一同 が・・・とあり、200余名の亡くなられた方々 の氏名が刻まれています。この氏名の中には小 生と当時同学年であった中学2年生の氏名も見 られます。もしこの人達が生き残り、さらにそ の子孫の方々が沖縄の再建復興に参加しておら れたらどうだっただろうかと思いますと、亡く なられた方々の無念の気持ちが伝わって来ま す。一方は軍命により軍に協力し、この世を去 り、当方は生き残り、不様に生きている。この 塔の前に立つと自戒の念にかられます。
現在、高齢者の方々の介護関係の仕事をして います。入所者、通所者のほとんどの方達は戦 中、戦後の苦難の時代を生きぬいてこられた 方々です。想像を絶する日々を経験されたと思 います。私の仕事ぶりは不十分で恥ずかしい限 りです。
小生は昭和20 年7 月4日(米国独立記念日) の未明に、B29の空襲にあい、自宅は全焼し、 身内の一人を亡くしました。コロラド州立大学 医学部の小児科にリサーチ・フェローとして米 国に滞在中での出来事ですが、旅先の店で買い 物をしている時に小生が日本人(当時、その地 方では珍しい人でしょう)とわかり、伯父が戦 場で日本人に殺されたと話されました。私は B29の攻撃で家は全焼され、軍人ではない一般 の人達が多く殺されました。しかし今は米国か ら招かれてメディカル・センターでリサーチ・ フェローとして働いている。大切なことは、過 去の苦い体験から2度と戦争をしないで、我々 が仲良くやってゆくことだと話すと、彼の方から握手を求めて来ました。この時、沖縄に関す る知識は乏しく、沖縄の話ができなかったのは 残念でした。
小児科医として、呼吸器感染症ことにインフ ルエンザ感染症の研究、そのワクチン改良の研究 (国立予防衛生研究所の福見秀雄−後に長崎大学 学長−先生が責任者・代表で数機関が参加し、 東京オリンピックが開催された頃から20年程、 毎年新改良ワクチンの接種と効果判定などの研 究)、はしかの研究およびはしかワクチン開発 (日本では東大伝研と阪大微研)のために伝研 (現医科研)に出向し共同研究にあたりました。
その後、水痘さらにサイトメガロウイルス (CMV)の分離を協同で行い、これが本邦での 当ウイルス感染症研究の第一歩となりました。 米国で臓器移植後にCMV感染が多発し死亡者 も多いため、この方面での協力を求められ協力 致しました。日本では心移植の第一例が行われ た年で、米国のコロラド州立大学ではすでに 200例近くの症例がありました。
これまでの人生で臨床、教育、研究の面で多 くの失敗とうまくいった経験があります。それ らの経験が沖縄で少しでも役立てばと思ってお ります。