沖縄県薬剤師会・学校薬剤師 我部 政男
我国における薬物乱用の現状は検挙者の約 80%が覚せい剤事犯で相当量の押収が未だ継続 する現状にあり大麻等についても20代30代を 中心とした若者に乱用拡大が顕著な特徴である 現況下にあります。中高生は5〜10年後には20 代になり覚せい剤乱用者の最多年代になりま す。そのため中高生時代から覚せい剤を主体と する乱用薬物の怖さを指導することにより5〜 10年後の撲滅に目標を置き国連決議「国際麻 薬乱用撲滅デー(6/26)」関連の「ダメ・ゼッ タイ」普及運動(6/20〜7/19)を、内閣総理 大臣を長として厚生労働省は関係省庁等と連携 して継続展開している理由がここに有ります。 厚生労働省(麻薬取締官事務所)が関係機関と 協力実施している「麻薬・覚せい剤乱用防止運 動(10〜11月)」「(財)麻薬・覚せい剤乱用防 止センター(学校巡回キャラバンカーを全国の 麻取地区事務所所在地に8台所有)による学校 での啓発活動(沖縄県は中学校対象に5/22〜 5/30実施)」「麻取OB等による啓発活動」「不 正大麻・けし撲滅運動」等の全てにおいて沖縄 県薬剤師会は薬剤師を送り込み協力活動を広く 実施中。その他、地域別定期開催の「薬の相談 会」等も実施。ダメ・ゼッタイ普及運動の根底 にあるのが学校における薬乱防止教室に対する 講師派遣で、これには学校薬剤師が離島を含め て県内全域で積極的に行動しています。私は琉 球政府最後の麻薬取締官(麻取)で復帰時点で 厚生省・九州地区麻取事務所沖縄支所捜査課 に厚生技官として身分移行。近畿、関東信越、 東海北陸、九州地区等で鑑定官、情報官、主任 情報官、捜査一課長、捜査二課長、分室長、支 所長を経て厚生労働省・沖縄麻薬取締支所で退 官。暴力団等の闇の麻薬、覚せい剤等の捜査を 主体に30数年経験したため乱用薬物の怖さは 副作用の強さと捜査現場にあると判断。啓発活 動には問題点が多く捜査経験者、薬剤師だけで は対応不可であり医学面も不可欠であるため麻 取は下総国立療養所を「師」と仰いで指導を受 けています。退官後は薬剤師を指導してくれと 学校薬剤師会から依頼されて何故か学薬に入り 薬免を使わず高校主体の啓発活動を専門に年間 20〜30件を継続対応しています。講師は知識、 経験等から各自独特のそれぞれ異なった講話に なり毎回少しずつ変化させてより効果を高める よう努力しています。私の場合は、薬免を使わ ず真剣に学校等講師対応1本に絞った理由があ ります。麻取現役時代に関東信越地区と近畿地 区で覚せい剤使用の息子を持つ家族からの申告 事件を経験した為です。薬乱の第一の被害者は ズバリ被疑者の家族です。地獄を見ます。惨め なものです現実は。何不自由なく育ててきた1 人息子が覚せい剤に手を出したことに気付き、 注意、警告、殴ったけど止めること無く少しず つ乱用エスカレート。ポケットにナイフを持つ ようになった。親としてはこれ以上何も出来な い、と最後になって初めて気付き両親揃って麻 取事務所に来所。両親は精神科のカウンセラー が必要な位に追い詰められています。「息子が 覚せい剤に手を出しています。性格も別人にな った。恐ろしい。注意すべきことは全てしたけ ど駄目だった。他人を傷付けるのは時間の問 題。」「出来るだけ早く逮捕して出来るだけ長く 刑務所に入れて下さい」との申告事件。後日、 暴れる被疑者を自室で逮捕して外に連れ出す 時、家の奥からお祖母さんが孫に気付かれない ようにコッソリ見てるんです。「これでやっと 安心して寝ることが出来る」「だけど孫は辛い 刑務所に入る」との複雑な何とも言えない独特 の寂しい「顔」を見て来ました。退官後の今で も眼に焼き付いています。捜査側も人間、涙が 出ます。一生忘れない寂しい「顔」です。2度 と見たくない家族の惨めさを1人でも減らすこ とが出来ればという気持ちから、未だに講師依 頼に真剣に対応している理由がここにありま す。全てボランティアで離島でも依頼があれば 自腹切って行くのは家族からの申告事件を経験 したためです。学校での講師としては、最初に 覚せい剤と大麻の動物実験画像をビデオで数分 間放映し、覚せい剤の劇薬指定、LD-50と副作 用の強さに加えて逆耐性現象等と捜査現場の特 異症状発現内容等の怖さを主体に説明し講話を 主体に聞いて貰うのではなく1つでも怖さを理 解してくれと希望しながら対応しています。何 故ビデオ数分かにつきましては全校生対象で体 育館使用のためカーテンで薄暗くする必要があ ります。しかし他都道府県と異なり亜熱帯地方 の沖縄では風がストップされて蒸し暑く生徒が 持ちません。中学生の場合は限度10分で30分 継続すれば聞き手がだれて不可。しかも板の上 に座っていますので苦痛も考えてやる必要もあ ります。講師は聞き手である生徒の立場を理解 する必要もあり、唯、聞いてくれではなく怖さ を理解して貰う対策も絶対条件です。その上、 学校時間として50分授業であり校長の講師紹 介、質疑応答等の時間短縮で講師の持ち時間は 通常40分弱。啓発用ビデオ(教養部分)は多 種類が防止センター等で販売されているため高 度な知識を持つ養護教諭が何時でも学内使用可 能であり、講師には30分ビデオを放映する時間 的余裕なく、養護教諭以上の専門的な怖さの指 導を僅かの持ち時間で生徒に理解して貰う対策 が必要になります。裁判所、拘置所等での講師 経験を生かして受刑者の生の感想文一部コピー を生徒代表に読んで貰い、自分又は家族が逮捕 されたらどう考えるか、自分の行動には責任取 ること取らされることが行動の後から追っかけ てくること、乱用で得るものはなく代償が想像 以上ドデカイこと等の薬剤師と薬物捜査経験者 の2本立現実説明に加えて乱用者の母体から出 産される赤ん坊に覚せい剤が移行する等の文献 等も一部交えて対応しています。ビデオ数分で 口頭説明主体としても40分では怖さは氷山の 一角説明しか出来ません。そのため高校では2 時間頂くこともあります。講話終了後は体育館 出口で捜査現場で押収する乱薬関係擬似物件等 入り標本箱を利用して生徒に質疑応答等を継続 しています。薬乱防止啓発は勉強すればする 程、奥が深く到達点なしの現実があります。生 徒の感想文確認で問題点を探し、本省・麻薬対 策課の厚生白書等を教科書として毎回自己研磨 が必要であり、そのため毎回少しずつ異なる対 応になります。昨年は中高生の検挙が前年より 1人少なかったので良かったではなく1人でも逮 捕者を出すべきではないのが捜査側の常識。学 校での薬乱防止教室は年1回のみ。その貴重な 時間を如何にして充実させるか、撲滅に結び付 けるにはどう対応すべきか、講師に与えられた 責任の重さは想像以上のものと毎回考え反省の 繰返しで未だに満足した講話は一度も経験無し の不完全燃焼で終わっている現状です。
捜索現場で押収した大麻
捜索現場で押収した覚せい剤