国立療養所沖縄愛楽園長 山内 和雄
今年は、ハンセン病問題に関し社会的注目が 集まった「らい予防法廃止」から10年、熊本地 裁の「らい予防法違憲判決」より5年目の年に 当たります。この様な記念すべき年に、沖縄県 医師会報へ投稿する機会をいただきましたこと を感謝申し上げます。
この度は、6月19日から6月25日迄の「ハンセ ン病を正しく理解する週間」の沖縄愛楽園での 取り組み等について投稿の要望でしたが、国立 療養所沖縄愛楽園(以後、沖縄愛楽園)におい て特別な企画が予定されておりません。ハンセ ン病問題に社会的関心が集まって以降、ハンセ ン病、ハンセン病患者や回復者の状況について は、マスコミ等を通して理解が深まってきてお りますが、愛楽園の現状等に関しての理解は十 分でないような状況にあります。今回は、愛楽 園の概況を紹介させていただきたいと思います。
沖縄県は、明治42年4月開設を目指し、那覇 市天久にハンセン病療養所の建設計画をしてい ましたが、県議会においてこの計画案は、否決 されました。その後も沖縄県は、ハンセン病療 養所の建設を計画しましたが、建設予定地の猛 烈な反対運動の為、建設計画は、中断していま した。昭和2年、熊本回春病院(キリスト教系 私立ハンセン病療養所)より沖縄のハンセン病 患者の為にキリストの福音伝道に派遣された青 木恵哉(徳島県出身のハンセン病の患者)は、 偏見・差別・迫害の中浮浪生活をしていた沖縄 のハンセン病患者の安住の地を求め、ついに屋 我地島大堂原に3,000坪の土地(現在の沖縄愛 楽園の納骨堂周辺)を購入することに成功しま した。沖縄各地で迫害を受けていたハンセン病 患者自らの療養所建設の為、昭和10 年12月、 青木他15名のハンセン病患者が、屋我地島大 堂原に上陸し沖縄愛楽園建設の橋頭堡獲得しま した。その後、沖縄MTL相談所(キリスト教 関係の救らい組織)が、青木らが購入した土地 の隣接地に設置され、40名のハンセン病患者を 収容し療養生活が開始されました。これらの土 地の寄付を受け、昭和13年2月5日沖縄県立国 頭愛楽園が、創設されました。昭和27年琉球 政府創立と同時に名称が、琉球政府立沖縄愛楽 園となり、昭和47年日本復帰に伴い国立療養 所沖縄愛楽園となっています。上記のような経 緯があり、入所者の中には、患者立のハンセン 病療養所との意識があり、他の国立ハンセン病 療養所と比較されています。青木恵哉の功績を 称える為、沖縄愛楽園納骨堂の近くに青木恵哉 の顕彰碑と胸像が、設置されています。
沖縄愛楽園は、医療法上606床の一般病床を 持つ病院となっております。入院定床は、346 床で、現在の入所者数は、309人です。入所者 の平均年齢は、77.02歳の超高齢化した療養所 になっています。入院定床346床の内純粋の病 院機能は、人工透析4床を含む90床の病室しか ありません。残りの病床は、全て入所者の居住 施設になっています。居住施設の内訳は、生活 の介護を必要とするための介護施設(入所者の 約7割が入居)と介護を必要としない入所者の 住居からなっております。入所者の居室は、単 身者で34平方メートルの広さ(夫婦者は2倍の 広さ)でシャワー、トイレ、台所付きの部屋で 生活し、病気の診察や治療は、外来・治療棟 (一般の病院の外来に相当)で行っており、入 院治療が必要な場合は、病室に入室し、治療を 受けています。治療が終了すれば各自の部屋に 帰り生活をしています。
医療環境
医師定数は、13名で内科、外科、整形外科、 眼科、皮膚科、泌尿器科、呼吸器内科、歯科と 北部医師会病院、県立北部病院のご支援を受け 循環器内科、耳鼻咽喉科の診療を行っていま す。医師数が少ないため、園内の医療は、プラ イマリ・ケアの充実、末期医療、リハビリテー ションを中心に行っております。医療機器は、 血液・生化学検査は自動化されており、超音波 検査(心臓、腹部、乳腺、甲状腺)、内視鏡検 査(胃、大腸、気管支、喉頭)、レントゲン透 視、マルチスライスCT、FCR、人工呼吸器 (CV5000等5台)、血液透析4台等が整備されて います。園内で対応できない検査や治療は北部 医師会病院、県立北部病院等多くの病院や診療 所にお願いしております。
看護部には、看護師110名、看護助手・介護 員122名(介護福祉士・ホームヘルパー80名) が配置され、外来・中材・手術室、治療センタ ー(透析4含む40床)、第1病棟(50床)それぞ れ1看護単位を配置し、介護施設は、第1、2、 3、6センターの4看護単位で運営しております。 介護の現場では、介護予防を目標にリハビリレ クやパワーリハビリを行っており、認知症に対 しては、音楽療法、回想療法や学習療法等を取 り入れています。
現在、沖縄愛楽園では、「地域との共生」を掲 げてゲートボール大会、夏祭りなど行いハンセン 病の啓発活動を行っております。同時に、医療に おいては、地域の方々の外来診療を行っていま すが、地域の方々の利用は、少ない状況にあり ます。医師会の先生方が、沖縄愛楽園の医療機 器の共同使用や検査に御利用していただければ ハンセン病の理解にもつながるものと思います。
日頃、医師会の先生方には、沖縄愛楽園の入 所者の委託診療にご協力いただき感謝申し上げ ます。沖縄県には、約800名の元ハンセン病の 方々が一般社会の中で生活されています。彼ら の多くは、元ハンセン病患者であったことを必 死になって隠して生活しております。理由は、 過去に受けた偏見・差別からくる心理的な外傷 が考えられます。彼らの悩みの一つに病院で既 往歴を聞かれる事があります。この様な方が、 先生方を受診された場合には温かなご配慮をお 願い致します。