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第3回「指導医のための教育ワークショップ」を終えて
〜研修医の良いところを多く引き出す「メンター」としての第一歩を〜

常任理事 安里 哲好

参加者集合写真

第3回沖縄県医師会臨床研修・臨床実習「指 導医のための教育ワークショップ」が平成18年 3月18・19日(一泊二日)の日程で残波岬ロイ ヤルホテルにて開催された。

研修医制度が平成16年度に始まり、徐々に その内容はステップアップし、卒前・卒後教育 が欧米に比べかなりの遅れがあるとは言え、更 に、直ぐに(数十年はかからないと思います) 充実して行くことを期待しています。卒前教育 の充実(チュートリアル授業、OSCE、クリニ カルクラ−クシップ)、卒後の基礎・必須科に 加え選択科の研修と広い範囲での研修と多くの 事例を経験して行きます。この制度で、今求め られているのは指導医の育成とその充実かと思 います。沖縄のある病院の研修医3名が指導医 と共にハワイ大学の付属病院で短期研修を受け た時、開業している60歳前後の医師が早朝よ り(午前6時半ごろより)、医学生と沖縄の研修 医3名とで回診し、厳しくも懇切丁寧に指導さ れたとの事でした。ちなみにその学生はここ何 週間、診療所での研修や回診の準備等のため睡 眠時間がかなり少ない状況とのことでした。私 がここで述べたいのは技術的なことはさること ながら、教える側の持続する熱意や使命感のよ うなありようです。

この度、26 名(診療所3 名、協力型研修病 院・研修協力施設7名、管理型研修病院15名、 大学病院1名)の方々が参加して、朝の9時半 から夜の9時まで、次の日は朝の8時から午後 の4時半までの二日間の強行スケジュールにも かかわらず、最後までタフで充実した時間を積 極的にグループワークが行われた。教育技法の 習得に加え、テーマが「診療所におけるプライ マリ・ケア卒後研修」だったので多少危惧する ところがありましたが充分に実りある2日間で あったと思います。

ミニレクチャー(1)は、琉球大学附属病院の稲 福徹也先生が「琉球大学医学部におけるプライ マリ・ケア卒前教育」と題して、卒前研修が大 きく変わってきており、Problem ‐ Based Learningになり、学習時間におけるプライマ リ・ケアの枠が多くなって、CBT(Computer Based Testing) とOSCE( Objective Structure Clinical Examination)が取り入れら れて今後全国統一の基準試験(国家試験?)に 移っていく可能性があると話されていた。

ミニレクチャー(2)は、東京医科大学病院総合 診療科教授大滝純司先生が「研修医指導に役立 つ教育技法」について、なぜ指導医が教えるの が良いのか(指導する現場にいる、模範となり 憧れの対象となる立場にいる、必要な専門知識 を指導医が持っている、高い学習効果が得られ る)と述べ、指導に便利なツールとして一分間 指導法、学習者に評価・計画を述べさせる、根 拠を確認する、原則を教える、正しかった点を ほめる、間違いを正す、更に学ぶことを見つけ ると語っていた。

武田裕子先生

講演Tは東京大学医学教育国際協力センター 助教授武田裕子先生が「メンターとしての指 導医の役割」について話された。メンター (mentor)とは親身になって指導してくれる協 力者のことで、そのメンター像は、(1)その人ら しく活躍できるように指導する(2)能力や態度を 強化する(*問題を明確に解決する能力、*自 分の内側を見つめる力、*集中して取り込む姿 勢、*仕事への責任感、*頑張る時と休む時の 切り替え、*自分自身を信じる力)。そして、仕事に関して手本になるだけでなく、個人的な 面でも見習いたいと思う存在となる。



大滝先生

講演Uは大滝先生が「プライマリ・ケアの場 で研修する意義〜診断推論の学習に関して〜」 について、教育する際、相手のレベルと考え方 を把握することによって色々なパターンで指導 していくことが大切だと話されていた。研修医 の知識の構造に欠如型、分散型、推敲型と要約 型があると述べ、診断の思考過程の類型(パタ ーン認識、多分岐法、徹底的検討法、仮説−演 繹法)について語り、最後に一ヶ月間に健康上 の問題を経験する人の割合1,000名のうち医師 を受診する人307名(開業医受診232名)、一般 病院への入院7名、大学病院を受診する人6名、 大学病院に入院する人0.3名であることを示し、 研修は講義より病棟のベットサイド・ティーチ ングそして外来へと移りつつあり、加えて大学 病院におけるプライマリ・ケアへの工夫を始め ていると述べていた。

講義や講演もさることながら、おそらくワー クショップで強く感じ体験したことは大きく三 つあると思われる。一つは教育技法たるものを 学んだことが無いので、新しきにつけ古きにつ け、みんな新しく新鮮で驚きの連続で徐々にス テップアップする。次にワークショップそのも ので、参加された中の偉い先生や先輩・後輩の わけ隔てなく参加型でグループの誰かが司会、 書記(要約係)、発表者、感想文提出者そして グループ内での追加発言、また他の発表に対し ての質問等があり皆が皆忙しく、オープンであ りピア・レビューである。前日の疲れを感じて いようとも、当日睡眠不足であろうともグルー プ活動だから共同責任でいわゆる高校野球のよ うだが、ちょっと違うのは皆が目立つ存在すな わち主人公(投手兼4番打者)ということで、 そして時間と共にグループからチームに変わっ て行く。ちなみに、グループワークでの各グル ープの一般目標はAグループ「医師と患者の良 好な関係をつくるために面接・接遇の技術、態 度、知識を取得する」、Bグループ「離島診療 所における特殊性を理解し、病院への適切な搬 送を行う」、Cグループ「研修医は高齢者の急 変に対応するために、高齢者の病態を理解・配 慮した上で重症度に適切に対処できる」、Dグ ループ「研修医はよりよい病歴のとり方を身に つける為に患者様にやさしく接し、必要な知識 をもち、技術を取得する」であった。

グループ発表風景

もう一点はロールプレイを用いての医療面接 とその指導法で、会議室を四つに分けるが、あ まりの熱心さに部屋の温度がヒートアップする 感があり、耳をそばだてて一言も聞き漏らさな いようにしている。研修医4名と擬似患者4名 の協力をいただき、研修医が患者さんを医療面 接し指導医がそれを指導する。その指導の仕方 をグループで討議しまとめて発表する。趣旨は 指導医の指導法そのものの検討・改善であるに もかかわらず、最初は皆が研修医の評価・指導 に熱心になり、それから逸脱したりするが、二 回目からはスムーズに見事に患者さんへの接し 方、研修医も指導医もきちっと患者さんへ自己 紹介し、バックアップされている安心感を与 え、指導医が余計にしゃべらず、研修医から 色々引き出し良い点を多くほめ、気づいた点の 焦点を絞って指導する、指導医と研修医が話し 合ったことを要約して患者に伝える等素晴らし い展開になって行き指導医としての自信が培わ れてくる。

ロールプレイ風景

グループワーク作業風景

アイスブレーキング風景

模擬患者をされた方のスピーチの中で、研修 医や指導医がこのように勉強していることをう れしく思う。言葉の一つ一つを聞いている事を 知り言葉の重みを感じた。知っている某医師が この勉強に来てくれたらナァーと思うと述べて いた。

本ワークショップでは、既に86名の指導医の 育成を終えたので、厚労省や日本医師会の修了 証が付与される研修会はしばらく休憩とし、特 に今回は管理型病院からの参加が多く、その領 域は琉大病院と県立病院グループの共同での主 催を地域医療臨床研修委員会で提案していきた いと思います。今年度はステップアップ講習会 等(指導医の研修を終えた医師を対象に)を企 画する必要があるのではないかと考えています。

86名の指導医の皆さん、日々の診療で多忙と は存じますが、今後とも研修医・若い医師達の 良いところを多く引き出し、その人らしく活躍 できるよう、そして良き医師として成長するよ うご尽力の程よろしくお願いいたします。

また、遠方にもかかわらずタスクフォースを お引き受けいただいた東京医科大学病院の大滝 純司先生、東京大学医学教育国際協力センターの武田裕子先生、さらに、ファミリークリニッ クきたなかぐすくの涌波満先生、仲本内科の仲 本昌一先生、県立中部病院の安谷正先生、本村 和久先生、琉球大学医学部地域医療部の稲福徹 也先生、田名内科クリニックの田名毅先生のご 尽力によるものであり、衷心よりお礼申し上げ ます。

当日のワークショップに参加された先生方の 中から、3名の先生方に感想をご寄稿いただき ましたので、次ページより掲載いたします。

タスクフォースの先生方
前列左より、武田裕子先生、小生(安里哲好)、大滝純司先生、涌波満先生。
後列左より、田名毅先生、本村和久先生、仲本昌一先生、安谷正先生、稲福徹也先生。

沖縄県医師会主催の第3回「指導医のための教育ワークショップ」に参加して

渡久地史明

同仁病院 渡久地 史明

今回、「指導医のための教育ワークショップ」 に2日間の日程で参加させていただきました。 正直、スケジュールを見てどうなることかと思 いました(始まってからはさらに・・・)。

1.琉球大学医学部における卒前プラ イマリ・ケア教育

プライマリ・ケアの専門性・卒後教育の現状  卒前教育はまず空っぽの知識を埋めるのに忙 しく、このような試みはカリキュラムを作る側 でも大変なのだろうと思います。しかし、問題 解決型の教育は早期から必要で、素材だけでは 不十分であると感じます。また、何の問題を解 決するための医療であるかを知らずに臨床の場 に出ることにも問題は大きく、等身大の人間で ある患者を診る訓練として、プライマリ・ケア 研修は重要なものとなると感じます。

2.プライマリ・ケアの場で研修する意義

Knowledge organizationの話がおもしろか ったです。よくある「なんでこんなことがわか らないのか!」という話。自身が構造の変革を 体験してきたにもかかわらず、相手が同じ思考 をもてないことを全く忘れているんですね。構 造の違いを把握し、こっちに引き上げてやる意 識を持つことの重要性を感じさせます。

研修施設で一次診療を行う意義にも共感しま す。医師を育てる目的を明確化すれば必然だと 思います。学生時代、国試の勉強中にECFMG 過去問などを見て、大幅にプライマリ・ケア寄 りの内容に感動したのを思い出しました。

3.メンターとしての指導医の役割

聞き始めた時は、「そんな大先生みたいなこ と私にはできません」と思ったのですが(笑)、 話を聞きながら自身の研修医時代を思い返し、 ごく普通のことであることを理解できました。 指導医も人間であり、ややもすれば自分の感情 で動きがちです。いかに相手の能力をフルに引 き出すために身を砕くことができるか、患者に 対するのと同様な問題解決型の対応が要求され るのであり、逆に言えばごく普通にやるべきこ とをやればいい(難しくない!)ことを知りまし た。普通のことではありますが、見失わないた めにメンターの概念を知ることは有意義である と思っています。

4.ワークショップ関連

まずワークショップの説明。アイスブレーキ ングに使った枕投げ手法、なかなか良かったで す。目を見て相手の名前を呼びあうことがこれ だけ効果のあることとは思いませんでした。飲 み会だけじゃないんですね(笑)。

ワークショップはとにかく忙しい。目標の概 念(GIO、SBOs)、その分類など、概念を使い こなすだけで精一杯です。できればこの部分だ けでも予習しておいた方が良かったかと思いま した。

この研修会の主旨とは異なるかもしれません が、立てた目標と現実がかみ合わない例とその 解決法についての例示も欲しかったです。こん なにきれいにいくのか?という疑問を多くの参 加者が持っていたようです。

久しぶりに思う存分議論してみて、改めてい ろんな思考の人がいるものだと思いました。

この体験も意見の異なる人との共同作業に役 立つものと思います。

沖縄県医師会主催の第3回「指導医のための教育ワークショップ」に参加して

山里将進

かじまやークリニック 山里 将進

3月18日、19日の1泊2日コースで沖縄残波岬 ロイヤルホテルにて「指導医のための教育ワー クショップ」が開催され、私は今回初めて参加 させていただき色々勉強することが出来ました。

私のクリニックでは平成17年度から琉球大学 医学部の卒前実習を受け入れています。昨年は 10人の医学生が在宅医療の見学実習に参加し ています。琉球大学医学部地域医療部の稲福徹 也先生のお誘いがあり、又、卒前実習のレベル を向上させ更に近い将来、地域保健医療研修機 関として研修医の受け入れを展望していました ので、教育ワークショップに興味が湧き参加し ました。卒後医師研修には殆ど関わって来なか った為、今回のワークショップを契機に教育理 論や教育技能のスキルアップを図りたく参加を 決めました。

10名のワークショップスタッフの助けにより 2日間にわたるハードな日程をどうにかこなし て修了証を戴きほっとしています。27人の参加 者は県立病院の勤務医が殆どでクリニックから の参加は2人だけでクリニックでの研修受け入 れがまだ遅れていることを実感しました。

ワークショップ初日は大変緊張しましたがア イスブレーキング法を用いて緊張を上手に解し ていただき大変助かりました。「メンター」、「KJ法」 等耳慣れない言葉に戸惑いながらもどうにかワ ークショップに参加できました。KJ法を用いて のグループ作業はクリニックでの卒前教育、卒 後医師研修を考える上で大変参考になりました。 コメディカルの意見も取り入れて実習や研修の 内容を向上させる為に応用したいと思います。

私のクリニックでは卒前実習のカリキュラム はまだ作られていませんので、今回のワークシ ョップの経験を生かして今年度は医学生のニー ズを反映させてカリキュラムの作成を実現した いと考えています。

2日目のワークショップで印象に残っている のはロールプレイを用いた医療面接とその指導 法です。医療面接については系統的な教育を受 けた事も無くこれまで自己流でやって来ました が研修医の指導の役割を演ずる中で医療面接の 重要性を再認識させられました。

グループの他の医師の評価を受けてあらため て自身の医療面接のレベルの低さを痛感しまし た。今回のワークショップでクリニックで積極 的に医師研修に励んでおられる先生と交流出来 た事も良かったと思います。クリニック研修の ネットワークをつくる展望が少し開けた様な気 がします。

2日間のハードな日程でしたがディレクター の安里哲好先生、瀧下修一先生、チーフタスク フォースの大滝純司先生、武田裕子先生、はじ めタスクフォースの皆様の支えで大変有意義な 経験をさせていただき感謝申し上げます。

沖縄県医師会主催の 第3回「指導医のための 教育ワークショップ」に 参加して

新崎康彦

県立南部医療センター・こども医療センター麻酔科部長 新崎 康彦

新病院への引越し準備と慣れない電子カルテ への挑戦の合間、県医師会主催の「指導医のた めの教育ワークショップ」なるものに参加し た。私たちの病院が臨床研修病院として充実し ていくために、各科からの参加がなかば義務付 けられていた事と、私個人としては麻酔科指導 医として学会から認定されているが指導者とし て適切な教育と経験を経てきたかを確かめたい と思った。

「ワークショップ」形式の研修も初めてだっ たし、アイスブレーキングという導入の仕方も 麻酔導入とは似ても似つかず面白かった。これ から参加してみようと思う人のために私の印象 を書いてみようと思う。

一日を終わって感じたことは、やたら横文字 の単語が多いことや「方略」などと業界まがい のことばに翻弄された。それにしても感心した のは、タスクフォースやコンサルタントの先生 方、スタッフのみなさんのワークショップに対 する情熱と熱心さだった。われわれグループメ ンバーも負けず劣らず一日中、一所懸命駆けず り回っていた気がする。ワークショップとはグ ループ全員が討論を行い、一定の時間内に成果 をだすために目の前の事柄にわき目も降らず集 中せざるを得ない。

KJ法なる新しい島を作りながら小さな集団 で思考をまとめる方法も経験した。JFKは知っ ていたが、このKJさんもお金をかけず島をつく るなんざ只者ではない。グループの一人がKJ法 に精通していて、私たちも楽しませてもらっ た。自分のためになるような講義も数多くあっ た。「指導に役立つ教育技法」では実際に起こ りそうな場面を想定してのやりとりが身につま されるようだった。一分間指導法などは現在麻 酔科に研修医で来ている一人に応用している。 私たちが医学部教育で専門的に学ぶ機会がなか ったのが、教育目標の立て方や教育評価のきめ 細かいやり方だと思う。

知らずしらずのうちに行っていたことも、系 統だって学ぶと新しい知識として活用すること ができる。深く学ぶ必要を痛感した。ロールプ レイなどを取り入れて楽しく学習することも重 要なのだろう。ボランティアの人たちの真剣さ を見ればこちらも生半可にはやってはいられな い。二日間の研修の成果は参加してよかったと いうことだった。

研修医を指導する立場に有るものとして、こ こで研修したことはすぐに実践することができ ると感じられた。現在、教育法略や他のテキス トを参照しながら、初期研修医や後期研修医の ためのカリキュラムを考えている。実際に現場 で繰り返し繰り返し応用しながら研鑽するこ と、学習者に対して忍耐強く、愛情をもって接 し、できるだけ長所を見つける努力をし、怒ら ずにほめてあげることの必要性を感じた。この 経験を今後に生かしたいと思う。