沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 5月号

退官を迎えてお礼
−沖縄はシルクロードの終着駅?−

琉球大学医学部細胞病理学分野 岩政 輝男

左より、小生、Järvi先生、町並先生(東京大学名誉教授)

琉球大学に医学部が設置され、以来今日まで 病理学第二講座(現細胞病理学分野)の教授と して勤務いたしました。医師会の先生方には大 変お世話になり厚く御礼申し上げます。特に平 成12年4月より平成16年3月まで医学部長を務 めました折りは医師会会長をはじめ、皆様に 色々御助力を頂き感謝いたしております。

私は医学部を離れますが来年5月までは琉球 大学副学長、財務・施設・病院担当理事として 大学に残りますので、宜しくお願いいたします。

医学部在職中は沖縄の疾患を中心に検討を行 い、地理病理学を大切に考えて仕事をして参りま した。最近考えたことをお話しさせて頂きます。

シルクロードは中国の西安から楼蘭を経てロ ーマに通じます。シルクロードに関する記述を みますと、ローマとは逆方向、楼蘭→西安→平 城京(日本)へのルートが記してあり、西域の 産物が日本へももたらされています。本土には 正倉院が建てられ様々な西域の産物が残ってい ます。しかし、私は西安→平城京よりむしろ楼 蘭→沖縄の方がメインルートではないかと勝手 に想像しています。その理由としまして、高温 多湿の沖縄にはシルクロードの産物は保存され ていませんが残っているものがあります。

御存知のように最近、AIDSではしばしばカ ポジー肉腫の発生が報告されていますが、古く よりローマを中心とする地中海沿岸にはAIDS とは全く無関係にカポジー肉腫(古典型カポジ ー肉腫と呼んでいる)が知られています。沖縄 にもこの古典型カポジー肉腫の症例がかなり多 くみられます。カポジー肉腫はヒトヘルペスウ イルス8型(HHV8)の感染により起こること が明らかとなり、沖縄のカポジー肉腫にも全て HHV8の感染が証明されます。我々の検討では 沖縄におけるこのウイルスの感染率は約7%ですが本土では約0.2%です。さて、このウイル スはどこから沖縄にもたらされたかということ を考えてみる必要があります。楼蘭(新疆ウイ グル地区)の人々は約50%以上が感染者であ ることが明らかとなりましたが、楼蘭より HHV8はシルクロードを伝わり地中海沿岸に感 染をもたらし古典型カポジー肉腫の発生がみら れ、逆方向の沖縄にもHHV8は伝わってきたと 考えられます。HHV8のウイルス遺伝子を検討 しますとA、B、Cの亜型がありますが、楼蘭 地方のHHV8はC型です。沖縄のものも教室の 神山君の検討で全てC型です。他方、AIDSに 伴ってみられる欧米のカポジー肉腫はA、B、C 等様々のタイプのHHV8感染がみられます。残 念ながら地中海地方の古典型カポジー肉腫の HHV8については詳しく検討した報告はありま せん。しかし、HHV8は楼蘭より地中海地方に 伝わり沖縄にもC型HHV8が伝わっています。 沖縄は高温多湿であり、本土の正倉院に残って いるような西域の産物は残っていませんが、 HHV8に楼蘭との交流の歴史をとどめていま す。沖縄はローマとは逆方向のシルクロードの 終着駅であろうと想像をめぐらしています。こ のこととは別に、沖縄には本土ではみられない elastofibroma dorsiと呼ばれる腫瘍の発生が稀 にみられます。この腫瘍は沖縄以外ではフィン ランドとエストニア(フィンランドと同じ民 族)に認められます。この腫瘍の発生がみられ る人々のルーツはもしかすると西域ではないか と考えると興味が湧きます。Elastofibroma dorsiはフィンランドのTurku大学教授、J rvi 先生が発見したものです。1998年、先生をフィ ンランドに訪ねました。写真はその時のもので す。フィンランドでは沖縄より発生頻度が低い ことがわかりました。

琉球大学に参りまして今日まで沖縄の疾患を 検討し、タイやラオスから伝わったといわれる 泡盛に親しみ、古くからの沖縄の文化や歴史に 接しました。そして現代の欧米や周囲の国々と の交流のなかで何とか今日まで職を全うさせて 頂きました。心からお礼申し上げます。

今後も県内に居りますので、宜しくお願い致 します。