内科コンサルタント 宮里 不二彦
発熱は外来を受診する患者の最も多い訴えの一つであろう。
一般の診療所、総合病院の外来を受診する患者、急病センター或いは救急病院を夜間受診する患者と区別して考えるべきであろう。
ここでは一般診療所を受診する初診患者を主に考えてみたい。
<患者の年齢、既往歴>
65歳以上を一応高齢者と考えてみる。現在の 高齢者の健康状態は一般に良好であるが、先ず 簡単な問診である。入院歴、手術歴は最低限必 要なデータである。結核の既往は必ず確認して おきたい。本人が自覚している持病(心臓・呼 吸器消化器など)とアレルギー薬剤の副作用歴 もできるだけ確認しておきたい。
他院に通院中の患者では現疾患、検査データ、 服薬状況なども大事である。健康診断、人間ド ックなどのデータ、心電図、画像も必要に応じ て参照できるようにしておきたいものである。
インフルエンザワクチン、肺炎ワクチンの接 種状況を確認してもし受けていなければ、出来 るだけ受けるように薦めたい。
<生活習慣>
<現病歴>
発熱の原因として最も多いのがいわゆる感冒であろう。
数日間の発熱、空咳、咽頭痛、水様の鼻汁、 軽度のだるさ、筋肉痛が典型的な感冒の症状で ある。咽頭部には軽度の発赤はあるが、扁桃部 の白苔は見ない。頚部リンパ節の腫脹・圧痛も 無い。
数日で発熱、咽頭痛は軽快し、水性の鼻汁は 膿性に変化するが、頬部に一側性の強い痛みあ るいは圧痛がない限り副鼻腔炎ではない。すな わち膿性の鼻水は感冒の治癒過程と考えてよ く、抗生剤を投与する必要はない。年に数回感 冒に罹患するのは普通であり、感冒は自然軽快 するということを患者に納得させることが大事 ではないか。
市販の感冒薬でも、卵酒でも結構、各自の知 恵に任せてはどうか。
発熱、頻回の咳、少量の痰(白色または白黄 色)が数日持続している。呼吸苦はなく、聴診 上も特にラ音なし。散在性に喘鳴が聞こえる。 抗生剤の適応はない。対症療法で十分であろ う。スモーカーであれば禁煙の効用を説く。
発熱と咽頭痛を訴え、軽度の嚥下痛もある。 咽頭部には発赤があり軽度のリンパ腺の腫大も あるが白苔などはない。頚部のリンパ腺腫脹もな し。抗生剤の適応はなく、対症療法のみである。
数日の高熱、咽頭痛、嚥下痛があり、咳はな い。両側の扁桃腺が腫脹し発赤し、白苔が付着 している。頚部のリンパ腺の腫脹もあり痛みを 伴っている。A群連鎖球菌による感染症で最近 は著明に減少しているようである。以前は急性 腎炎、リウマチ熱の合併が心配されたが衛生環 境の改善によるものか、最近ではほとんど見か けなくなっているのは幸いである。ペニシリン 系の抗生剤を1週間以上服用してもらう。
数日来の高熱、悪寒、戦慄、全身の筋肉痛が あれば易学的情報も考慮して診断は容易であろ う。簡易診断法でインフルエンザAまたはBの 診断もできるが、多忙な外来では必ずしも必須 の検査ではない。
タミフルが特効薬とされているが、合併症の ない成人では対症療法だけでもよいのではない かと考えている。
高熱、黄色の咳、胸痛、頻脈、頻呼吸、呼吸 困難で受診する患者は重症である。胸部の聴診 で片側の湿性ラ音が聴取されれば、肺炎と診断 して、直ちに総合病院に紹介・入院を依頼する ことが望ましい。胸部X線写真、喀痰の検査、抗生剤の投与は病院側に任せるほうが望ましい と考える。勿論若年の全身状態良好な患者であ れば診療所での外来治療も可能であろう。
<注意すべき患者>
高齢者;基本的に健康であっても70歳以上の 患者が上気道炎様の症状で来院する際は、数日 後に再診して経過を確認することが必要である。
慢性の肺疾患、喘息、心疾患、糖尿病、慢性 腎炎などの患者は軽度の上気道炎でも急に悪化 する危険がある。あるいは非ステロイド性の消 炎剤の投与で悪化することもあり要注意であ る。原疾患の主治医がいれば、紹介したほうが 安心であろう。
女性で頻尿、排尿痛、下腹部の疼痛、混濁尿 とあれば膀胱炎の診断は容易である。発熱、悪 寒戦慄を伴い、一側性の腰痛があれば腎盂腎炎 を考える。月経後、分娩後の女性に好発するこ とに留意しておきたい。
尿路結石症の患者に感染が合併すると重症化 する可能性が高く、緊急入院の適応である。高 齢者では前立腺肥大症に伴う排尿困難、残尿の 問題があり、膀胱炎、更には腎盂腎炎に進行す ることも注意すべきであり、総合病院あるいは 専門家に紹介すべきであろう。
<全身性疾患の初期兆候としての発熱・上気道炎様症状>
風邪は万病の元と昔からいわれている。風邪 をこじらすなどともいわれるが、要するに多く の病気が風邪様の症状で始まるということであ ろう。健康な成人で風邪様な症状が長引いてい る際には基本的な臨床検査(Hb、白血球、分 類、CRP、尿検査、肝機能など)と胸部X線写 真などが必要であろう。思いがけない所見が発 見されるかもしれない。若年者では単核球症、 肝炎、その他のビールス性疾患が問題になろ う。所見に応じて総合病院あるいは専門家に相 談するというのが常識的な判断で、抗生剤の投 与は必ずしも好ましくない。
感冒様の症状で発症し、全身状態は良好であ るが発熱が2週間以上持続しているという患者 に出くわすことがある。血液、肝機能検査など で異常値が見られ特に白血球数の増加、CRPな どの炎症を示す指標は異常を示すが胸部、腹部 などの画像検査で異常所見は認めないという一 群の疾患がある。いわゆる不明熱で、原因が不 明だということで患者、家族の不安もつのると いうわけである。
膠原病、全身性の血管病、成人型のStill氏病 などと共に細菌性心内膜炎も鑑別すべき重要な 疾患であり、総合病院での精査に委ねたほうが 安心であろう
抗生剤は外来初診の上気道感染のほとんどに 適応が無いことを強調してきた。不要な抗生剤 の投与による副作用、耐性菌の発生を避けるた めである。
総合感冒薬の投与だけでは解熱しなくて、解 熱剤投与の必要性を感じた際には非ステロイド 消炎剤、あるいはアスピリンは血小板への影 響、消化管系の副作用を考慮して避けたい。ア セタミノフェンが現在のところ、最も安全であ ると考えられている。