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肝癌撲滅を目指して
〜肝臓週間(5/23〜5/29)に因んで〜

佐久川廣

ハートライフ病院消化器内科 佐久川 廣

肝臓週間とは

今年も5月23日〜29日の1週間が肝臓週間に 当てられています。肝臓週間については恐らく ご存知ない方が多いと思いますので、簡単に説 明します。肝臓週間は、肝臓病について国民に 正しく理解してもらうために日本肝臓学会が 2001年から毎年企画しているものです。これま では、主に一般市民を対象に公開講座の形で講 演会等を開催しておりましたが、最近は医療従 事者を対象とした講演会が中心になっていま す。私(佐久川)は肝臓学会から都道府県責任 医師に任命され、2001年の最初の年から肝臓 週間の世話人をさせて頂いています。今回は沖 縄県医師会のご好意により、肝臓週間について 広報する機会を与えていただきましたので、そ の経緯と内容について説明したいと思います。

C型の肝癌の増加

日本において肝癌は増加傾向にあります。図 1に肝癌死亡率の年次推移を示しますが、この 20年間に肝癌死亡率は倍以上に増加していま す。肝癌の原因別に検討するとB型肝炎ウイル スによる肝癌死亡率は20年間ほぼ横ばいで、増 加しているのはC型肝炎ウイルスによる肝癌と いうことが判っています。現在、C型の肝癌は 肝癌全体の約80%を占めると言われています。 C型肝炎は第二次大戦後、輸血を中心とした医 療により蔓延しました。感染者は1930〜1935 年生まれにピークがあり、現在は70歳代の前半 に差し掛かっています。実際にこの年齢層の肝 癌が非常に増えています(表1)。

図1.

図1.肝癌死亡率の年次推移

表1.

表1.肝細胞癌患者の年齢分布の推移(日本肝癌研究会)

表2.

表2.住民検診受診者におけるB型、C型肝炎ウイルス保有率
(沖縄県、2002年)

慢性肝炎の治療の進歩

肝癌はご存知のように慢性の肝疾患、特に肝 硬変を基礎疾患に持っている人に発症します。 肝硬変に進行する前に慢性肝炎の時期を過ごし ますが、この慢性肝炎は一般に無症状で、本人 が病気と自覚していないことが多いと言われて います。肝硬変に進行すると元の丈夫な肝臓に は戻りませんが、慢性肝炎の段階であれば十分 に治ります。現在、慢性肝炎に有効な薬剤が 次々と登場しており、その治療も以前と比較し て急速に進歩しています。B型慢性肝炎は自然 治癒しやすい病気ですが、黄疸を伴うような急 性増悪を起こした場合は急速に肝硬変に進行し たり、肝不全状態から死に至る症例も稀ではあ りません。最近ではラミブジンやアデフォビル といった抗ウイルス剤が使えるようになり、こ のような予後の悪い症例でも早めに治療すれば 治癒することも可能になりました。一方、C型 慢性肝炎は大人しい病気ですが、徐々にしかも 確実に肝硬変に進行することが知られています。 以前はまったく有効な治療法はなかったのです が、1993年頃からインターフェロンが使えるよ うになり、治癒する症例も増えました。2002年 になってリバビリンの併用が可能になり、さら に治療成績が向上しました。現在では慢性肝炎 の早い段階で治療すれば、約2/3はウイルスを 排除することが出来るようになりました。

節目検診

日本中で検診が盛んに行われていますが、こ れまで、B型やC型肝炎ウイルスの検査を検診 で行うことはありませんでした。日本の肝癌は 約90%が肝炎ウイルスによって起こると言われ ており、肝炎ウイルスの検査は肝癌の早期発見 のために欠かせない検査と言えます。2002年か ら厚生労働省の指導の下に市町村が中心になっ て節目検診を行っています。いわゆる節目の年 にあたる40歳、45歳、50歳等々の受診者に対 してHBs抗原とHCV抗体の検査を行っていま す。5年間の節目検診で全住民の肝炎ウイルス 検査を行おうという計画です。肝炎ウイルスの 新しい感染者は現在では非常に稀ですので一度 検査を行えば、十分効果があります。しかし残 念ながら、2000年以降検診受診者は減少の一 途を辿っています。

2002〜2004年の3年間に全国で約540万人が 肝炎ウイルスの検査を受け、B型とC型の肝炎 ウイルス保有者がそれぞれ6.6万人と7.2万人見 つかっています。これは40歳以上の推計の肝炎 ウイルスキャリアの約10%にあたり、まだまだ 放置されているキャリアが多いことが判ります。

沖縄県における肝炎ウイルス保有者対策

沖縄県は幸いなことに肝癌が少なく、死亡率 は全国で最下位です(図1)。これはC型肝炎ウ イルスの保有率が低いことが原因です。表2に 節目検診の初年度の成績を示します。B型のキ ャリアは多く見つかっていますが、C型肝炎の 保有率は全国平均の半分以下です。しかしなが ら、C型の肝癌は沖縄県でも決して稀でなく、 肝癌の約60%はC型肝炎ウイルス感染が原因で す。慢性肝炎は検診などでせっかく病気が見つ かっても無症状であるために放っておかれるこ とが多いのが残念です。既に肝硬変に進行した 状態で来院した患者さんに「どうしてもっと早 めに受診しなかったか」と尋ねると、「症状が 無いので大丈夫と思った」という答えが返って くることが多々あります。少しでも多くの患者 が、自分の病気の重大さに気づいてもらい。そ れによって適切な治療を受け、病気の進行を阻 止できたらと願うばかりです。

現在、沖縄県の肝臓学会の会員は59 名で、 そのうち専門医は9名です。この数字は他の都 道府県と比較して非常に少なく、例えば九州の 中で、沖縄より人口の少ない宮崎県と佐賀県の 肝臓専門医の数はそれぞれ19 名と31 名で、 人口比率で言うと沖縄の3倍あるいはそれ以上 の専門医がいることになります。したがって、 もう少し肝臓専門医を増やす必要があると思わ れます。そうすれば、検診で見つかった肝炎ウ イルス保有者や肝機能異常者の指導が今以上に うまくいくと思います。

今年の肝臓週間

今年は5月23日〜29日の1週間が肝臓週間と して設定されていますが、必ずしもその期間だ けに講演会等を企画するのは無理があるため、 その前後の1ヶ月くらいの期間に幅を広げて講 演会を企画しています。今年は4月27日と6月 30日に医療従事者向けのC型慢性肝炎について の講演会を下記のように計画しており、多くの 先生方の参加を期待しています。

4月27日(木)19:30〜

場所:ハーバービューホテル

演者:坪内博仁先生(鹿児島大学)

6月30日(金)19:30〜

場所:ハーバービューホテル

演者:泉並木先生(武蔵野赤十字病院)