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パーキンソン病

金城正高

沖縄県立中部病院 神経内科 金城 正高

「パーキンソン病」という疾患名は、神経を専門にしない医師の間でも割りと聞き覚えがあり、実際に診察された経験のある先生方も多いのではないでしょうか?新聞紙上や特集記事にもよく取り上げられ、一般の人々の中には、<手足のふるえ=パーキンソン病>と理解し、疾患名だけが一人歩きしている観も拭えません。そこで今回は、パーキンソン病の知識の整理を行ってみたいと思います。

1817年、イギリス人医師であるジェイムス・パーキンソンが「振戦麻痺」として症例報告を行ったのが最初で、1890年代に彼の功績を称え、パーキンソン病と呼ぶようになりました。

この病気は主に50歳以降に始まり、発病のピークは60歳半ばです。男女差はないという報告と女性にやや多いという報告があります。

1919年には責任病巣が中脳黒質と同定され、そこの神経細胞が変性してしまうことが原因と考えられています。しかしそのメカニズムは未だ解明されておらず、難病といわれる所以となっています。黒質の神経細胞は、大脳基底核(線条体:被殻・尾状核)へ神経終末を伸ばし、その部位でドーパミンを作り出しています。中脳黒質の細胞が変性・減少することにより、ドーパミンの産生量も減少し、正常量の20%以下に減るとパーキンソン病が始まると理解されています。実は正常の老化(加齢現象)でもドーパミンの産生量は減少しますが、パーキンソン病を発病するには120歳まで長生きしなければなりません。つまり50歳代〜という年齢で120歳の状態になるわけですから、ちょっと考えるだけでもその大変さが想像できると思います。

また有病率の面から考えると、10万人あたり100人(1,000人に1人)、65歳以上で考えるとなると“大変ありふれた病気”ということになります。パーキンソン病は、厚生労働省・特定疾患治療研究事業の対象疾患に指定されていますが、その45疾患の中でも目立って対象者が多いのが特徴です。

そう考えながら先生方の日常診療を振り返った場合、パーキンソン病の患者さんは何名いらっしゃるでしょうか?思ったほど多くはない!?…との感想が多いのではないでしょうか。パーキンソン病は意外と見逃されています。

その1番の原因は、諸検査で異常を認めないことです。中枢神経の変性疾患ですから、CTやMRIで異常所見が指摘できると思われるかもしれませんが、画像検査は正常です。もちろん血液検査も正常です。逆に異常所見が確認された場合は、パーキンソン病以外の可能性を考え鑑別を進めていきます。

そうすると、何が有力な手がかりとなるのでしょう。幸いなことに難しいことではありません。私たちが普段行っている、問診と診察(観察・身体所見)の中に、そのポイントがあります。教科書的には四大症状と呼ばれる特徴的な運動障害が挙げられています(安静時振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害)が、次の様な症状が1項目でもあれば、パーキンソン病を思い浮かべて下さい。

  • じっとしていると手足がふるえる
  • 歩き方が遅く、歩幅が小刻みになった
  • 動作がにぶく、ボタンをとめるのに時間がかかる
  • 顔の表情が硬い
  • 手関節を動かすとカクカクとした抵抗感がある

活気がなく老け込んだり、体の重だるさや関節の痛み、頑固な便秘の訴えがパーキンソン病の一症状ということもあります。既に関節リウマチや頚椎症、うつ病などと診断され治療をうけている場合もあります。時には、患者さんやその御家族でさえも症状に気づいていないことがあります。気になる患者さんがいらっしゃいましたら、次回の診察日に観察し直してみてはいかがでしょう。

先生方を混乱させる一つに、パーキンソニズムという用語があります。簡単に説明しますと、パーキンソニズムとはパーキンソン病様状態という意味です。

つまり特発性パーキンソニズム(これをパーキンソン病と呼ぶ)と症候性パーキンソニズム(他の病気によって二次的に起こったパーキンソニズム:パーキンソン症候群ともいう)があります。パーキンソン病の最終診断は、この症候性パーキンソニズムの除外を繰り返すことの結果であり、診断が容易でないこともままあります。最も注意しなくてはならないのが、薬剤性パーキンソニズムです。その他にも様々な原因が鑑別に挙がりますが、映画「レナードの朝」で描かれたのは実話の物語、脳炎後パーキンソニズムでした。ロバート・デ・ニーロが演じるパーキンソニズムの症状は真に迫っていて見事と言う他ありません。(時間に余裕のある際には、鑑賞されることをお勧めします。)

さて治療についてですが、原因不明な疾患であるがゆえに根本的治療法は存在しません。しかしながら、薬物治療を中心にパーキンソン病の症状をうまくコントロールすることは可能です。パーキンソン病はL-ドパをはじめとする薬剤への反応がよく、ADL・QOLを充分保つことが出来ます。つまり天寿をまっとうすることも可能となるわけです。また、薬物への反応がよいと、パーキンソン病の可能性が高いと逆に診断できます。現在ではリハビリテーション療法、外科療法(視床・淡蒼球・視床下核手術)、脳深部刺激療法、遺伝子・移植療法など治療の選択肢は広がってきています。その恩恵に与るためにも、早期診断の重要性が一層叫ばれるようになってきました。

沖縄県でもパーキンソン病友の会が発足し、社会の認識も高まってきています。それと同時に神経内科医の果たすべき役割も大きくなっていることを実感しておりますが、専門医が18名と少なく、期待に充分応えられる状況とは言えません。そこで沖縄県医師会の分科会である内科医会・整形外科医会の先生方と共に「沖縄パーキンソン病研究会」を発足させ、よりよい病診連携のあり方や啓蒙活動、早期診断、神経内科医との連携について勉強会を進めてきました。

その中から今回、日常診療に役立つ診断ツールとして、

  • <沖縄版>パーキンソン病スクリーニングガイド
  • パーキンソン病啓発ポスター2種

の作成を行いました。スクリーニングガイドは、下敷きタイプと携帯サイズの2種類を用意しておりますので、診察室でお気軽に御使用いただけると思います。

今後、沖縄県医師会・各地区医師会のアドバイスを受けながら、先生方のお手元にお届けしたいと考えております。

WHOのサポートのもと行われた2002年の国際調査報告によりますと、最初にパーキンソン病であるとの説明を行った医師の態度が、その患者のQOLに影響を与えるとの結果が発表されました。パーキンソン病では<対話>を通して疾患を理解し、患者さんと共に治療方法を組み立てる作業過程が、治療の重要な部分を占めるのだと思われます。そのサポートを円滑に行うためにも、先生方とのよりよい連携を模索していきたいと思います。

当研究会・スクリーニングガイドに関しましての忌憚のない御意見、今後ともよろしくお願い致します。