沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 4月号

各委員からの質問・意見に対する書面回答

盛根武弘委員(沖縄県銀行協会)

「診療報酬の改定について」

12月の新聞で、「医療制度改革が決着、診療報酬引き下げ」の記事が出ておりました。また、その中で、18年度の診療報酬の改定では、過去最大の下げ幅で検討される見通しとのこと。

診療報酬については、「診療報酬の引き下げは医療の質の低下を来すのではないか、また、医療機関は収入確保のために必ずしも必要でない検査等が増えるのではないか」とのご意見がある一方で、「医者の苦労の割には収入が少ないといわれる部門(小児科医?)があるとか、そういった部分には、それ相応の診療報酬の引き上げがあっても良いのではないか」とのご意見がある。私も医療の内容によって、引き下げるところ、引き上げるところがあっても良いと思う。

「診療報酬の引き下げが、医療の安全とか質とかにどのように影響するのか」等についてご説明いただけるとありがたい。

回答 當山 護

医療部門と称しても介護に関わる部門や、くすりや検査、医療器具(材料)までを含めると本当に幅広いものがあります。

その中で個々の部門の必要的費用を議論して積み上げると幾ら予算があっても足りないという事になります。そして診療報酬議論が小児科などを手厚くするなどの各論に近い議論のものからGDP(国内総生産)に占める医療費の割合など総枠管理での議論など多々あります。

今回お尋ねの如く、Totalでマイナス3.16%になった訳ですが、その内訳をどうするかといった作業が今後出てきます。金額にして国庫負担減2,500億円位といわれておりますが、計算通り可能かというと幾等優秀な厚労省官僚でも不可能な部分があります。

医療は生き物ですから実際に実施してみると思っている以上に下がる診療科もあるが、小児科など上げたつもりが思ったほど上がっていないという現実も生じます。

また毎年の如く当然、人件費は上がるものですから小児科、産科など幾ばくかの引き上げ位では優遇したという現場の実感は出ないだろう事が予想されます。産科は、診療報酬とあまり関係がない所ですので、その部分を保険で厚くするという意味合いがどれだけ現実のものであるか疑問もあります。マイナス改正で、医療の質が落ちるかという質問には、すぐに質が落ちるものではないという結論になります。大方の病院では、与えられた現実に応じて現場では必死さが出るものだからです。これは、どのような企業でも同じ事だと思います。但し、

  • 長期的にみると人的資源と手作業的行為が多いのが医療ですから必ず影響が出てくるでしょう。
  • 一方で、診療所より病院の方が施設基準、看護基準が厳しいのでコストパフォーマンスのやりくりが難しく、すぐに病院がつぶれないにしても廃業の前に苦し紛れに医の倫理に反する輩が出てこないかを心配します。

いずれにしろ、診療報酬に関するドクターフィーとホスピルフィーの区別は、今後さらに議論を深める必要がありましょう。

尚、検査に関しては、包括と云われるまるめ方式やレセプト審査の厳しさがありますから、不必要な検査が増えるのではなく、必要な検査に制限が出る事こそ心配されます。

山田君子委員(沖縄県老人クラブ連合会)

1.「医師の処遇について(病院勤務医)」

聖域なき改革のもとに医師の給与も画一的に引き下げようとしていますが、病院医師の勤務状況は非常に厳しい中で、実態にそぐわない引き下げは患者にとって医療に対し不安があります。対応についてお考えをお知らせ下さい。

特に、女性医師勤務実態は(特に育児・出産との関連性)お知らせください。

2.「デイ・ケアは適正に行われているか」

離島宮古島の高齢者研修会の席上で、或る病院は、最近、元気な高齢者を畑まで迎えに来て連れて行って、一日中病院のデイケアで過ごしている。地区の社協や民生委員、老人クラブは地域密着型の包括福祉事業が出来なくて困っている。(健康活動、レクリエーション活動、友愛活動)等、病院や医療に対して不信感を抱いているとの情報がありました。

有識者は介護保険の高騰に懸念しています。(財政破綻)

回答 當山 護

1.「医師の処遇について(病院勤務医)」

診療報酬が下がる事は決定している訳ですが、診療報酬の影響が直ちに勤務医師の給料に響くとは考えられません。然し、県公務員医師には常に厳しい労働条件がかせられ、離島医療や事務的作業の増大等、過剰な実態は相変わらずの事と思います。特に県立は、元来が赤字体質なだけに今回の診療報酬マイナス改正は、余計に病院会計にしわ寄せがくる事は確かであり、そのつけをどこに持ってくるのか現場の思考錯誤は続くものと考えます。

これからさらに過剰労働によって、勤務医の退職者が増える事は新病院立ち上げを含めている時期、望ましい事ではないでしょう。

勤務医の先生方は給料は勿論ですが、自分達が社会的に貢献しているという自負も強く、その事によってやりがいを感じています。その働く意欲を減じる社会的状況が生じた時が一番困るかと思います。

女医さんの問題は、各職場でどれだけ融通性をもって出来るかという各論と全体的に問題解決を計る総論とに分けて考える必要があります。後者の場合は、残念ながら現在実態の把握が不充分ゆえに具体的な策は何も出ていないと考えます。それ故、前者における職場の融通性が今の所、模索のすべてになっているのは残念に思います。

2.「デイ・ケアは適正に行われているか」

お尋ねの部分のデイ・ケアが適正に行われているかどうか医師会では充分な把握が出来ておりません。然し、行き過ぎた行為なら組織内部での注意、或いは行政指導を行う必要があります。

なお、過度なデイケアが行われているとのご指摘については、介護保険は介護認定審査会を経て、ケアマネジャーにより介護プランが立てられ、そのプランに基づいて実施するため、原則として不正はないと考えております。

今回のご指摘の点については、本会より地区医師会に報告させていただきたいと思います。

国吉 守委員(沖縄いのちの電話)

「医師の対応の要望」

1. 妊娠3か月前後の女性が急に出血があったので急いで近くの総合病院に行って医師に診てもらったところ、医師には「子どものことは誰にもわからないよ」と言われ、すぐに帰された。翌日かかりつけの病院に行ったら、絶対安静と言われすぐに入院した。彼女は総合病院の医師の対応の改善を要望した。

2. 子どもが中耳炎で近くの病院へ行って治療を受けていたが、その後いい病院があると聞いてその病院へ行ったら、医師にちゃんと病院で治療を受けているのに何でここに来たのと言われ、来て悪かったのかしら、と彼女は悩んだ。彼女はセカンドオピニオンがスムーズに受けられるよう要望した。

回答 當山 護

1. 個々の医師の心構えの事かと存じます。すべて医師は常に切迫した心理状態が患者さんにはあるという事を心すべき事かと私自身も反省させられる所です。

この件は、当事者の医師が分かれば、当方から御注意申し上げられますし、どのような事情だったのか、(本医師が緊急事態の中で対応をなされていなかったのか等、当時の事細かな周辺状況の把握を含め)、お聞きしておかねばなりません。

当日、もう少し御事情をお伺い出来ればと考えます。

2. セカンドオピニオンは大切な事ではありますが、往々にしてセカンドオピニオン(つまり後医)の対応によっては物事がこじれる場合もあるのを実感しております。

これからは医者もそうですが、患者さん共々にセカンドオピニオンのあり方について実際にどうしたら良いか模索していかねばならない部分が多々発生するのではないかと考えます。

もうひとつ考えられるのは、医師の言葉の問題、行き違いではないでしょうか。つまり「何でここに来たの」という医師の発言は「何の目的できたのか」という意味で、患者さんの主訴をお聞きしたかったのではないでしょうか。

伊波輝美委員(沖縄県社会福祉協議会)

「精神障害者の地域生活支援にかかる医療・保健・福祉の連携について」

厚生労働省精神保健福祉対策本部の「精神障害者の地域生活支援の在り方に関する検討会」の報告では、精神障害者の「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策を推し進めていくため、精神疾患及び精神障害に対する理解の促進、地域生活支援が優先課題として示されています。

沖縄県医師会としては、そのような動きの中で、精神障害者の地域生活支援に向けてどのような取り組みを実施又は検討をされていますか。

また、県社会福祉協議会及び市町村社会福祉協議会に対し、具体的な要望や期待がありますか。

回答 小渡 敬

ご指摘の通り、国は平成16年に精神保健医療福祉の改革ビジョンを発表し同年10月改革のグランドデザイン案を示しています。その中で基本方針として「入院医療中心から地域生活中心へ」、国民の意識の改革、立ち後れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を今後10年間で進めるとし、さらに達成目標として精神疾患は生活習慣病と同じく誰もがかかりうる病気であることについての国民の認知度を90%以上とする(国民意識の変革)としております。

本県の精神医療は県精神病院協会が中心となり、県や県医師会と連携を図りながら医療保健福祉の分野で活動を行っております。毎年11月には精神保健月間を定め、その中でも精神障害者に対する偏見や差別をなくすために活動を行っております。また近年の自殺者の増加に伴い、うつ病に対する啓発活動を市民フォーラム等の講演会を開催しております。

要望としては、行政や貴会のようなところから精神科の保健医療福祉に関する啓発をマスコミや地域住民に強く働きかけて頂きたいと思います。

大城節子委員(沖縄県婦人連合会)

「長期入院患者の取扱について」

1. 入院患者が3ヶ月毎に病院を変えるということを聞いています。

どういうシステムになっているのでしょうか。

2. 救急車で運ばれた患者は処置をすませば重体であっても、その病院には入院出来ないのですか。(どこに移っていいか分からないので家族が困っていました。)

回答 安里 哲好

1. 近年、病院・病床の機能分化が著しくなっており、まだその真っ最中で、もう数年(4〜5年)も経てば、医療施設の体系化が確立されわかりやすくなると思われます。現状では、医療従事者自身もその全ての機能分化を充分に把握していない状況にあります。

添付しました図は医療機関の機能分化を示していますが、一般病院の中にも、集中治療病床(ICU、7〜14日以内)、ハイケア・ユニット(HCU、21日以内)、一般病床(14日以内、14〜30日以内、30〜180日以内、180日超)、回復リハビリ病棟(180日以内)、亜急性期病床(90日以内)と5種類もあり、一般病院の平均在院日数は28日以内、17日以内に区分されています。

急性期を過ぎると回復リハビリ病棟や亜急性期病床に移ります。病状が安定し、医療より生活の支援が中心になりますと療養型病院に移り、療養型病院は医療療養型病床(180日以内)と介護療養型病床(入院日数制限無しー次期改定で廃止)、更に病気が安定し、そのほとんどの多くが生活の支援になりますと介護保険施設(介護老人保健施設、特別養護老人ホーム:入院日数制限無し)、そして自宅での生活或いは介護支援を受けた自宅での生活となりますが、自宅での生活が困難な場合は養護老人ホーム(公立)、有料老人ホームやケアハウスにて生活することになります。

長期入院できない背景には、患者さんの病状(重症度)と医療機関の機能分化と診療点数(医療費・経営)に関係していると考えます。国、県行政や医療機関がもっと県民に分かりやすい説明が望まれます。医療機関では医療相談室・患者相談室や地域医療連携室で気軽にご相談いただきたいと思います。

2. 私は、個人的にはそのような事がありうるのかと思い、医療従事者として大変申し訳なく恐縮しています。救急車で来院され、診察を受け、対処的な処置はしたが重症にもかかわらず入院の受け入れもなく、他院への紹介・転送も無かったということでしょうか。

専門医がいない場合、例えば、心臓大血管疾患の急変で緊急手術の対象であるとか未熟児を診療する専門医や医療機器が無いとなると入院は病気の治療を遅らせ危険な状態になります。不安定な精神科疾患と来院時の病気・症状のどちらが一番に管理・治療しなければならないのか迷う時、入院が難しい時があります。しかし、受け入れた病院、救急を標榜している病院は自院で治療が困難な時は即時に、他の病院と連携して救命・治療にあたるのは当然のことです。

この様な事が二度とあってはなりませんが、仮に再度生じたとしたら、診察した医師から紹介状をもらい、その病院の救急車か或いは公的救急車を呼んでもらい、より専門性の高い病院へ受診されていただきたい。また、上記病院の指導等もありますので、沖縄県医療安全相談センター(098-866-1260)や沖縄県医師会苦情相談窓口(098-877-0666)へ実名入りの投書をしていただけたら、こちらからも改善の方向に導いていきたいと思います。

図1

図1. 医療機関の機能分化

印象記(ー「いつでも」「どこでも」「誰にでも」起りえる事実ー)

副会長 當山 護

県民を代表する方でいつも十数人の方々が医療への疑問などや身の廻りから拾いあげた医療事例を我々にぶっつけて下さる。

医療は本質的にどんなに努力してもこれで満足という経過や結果を得る事は少ないものである。それは自分の身に降りかかった「病」という事態に対し最大限の努力が払われるべきであると云う思いと払って当然ではないかという切ない患者さんや家族の想いが横たわっている。

また医療側の思いとは別に病気というのは甚だ手強く、治療に抵抗性のあるものや幅広い結果を生み出す難物であるといい切っても良い。

患者さんと医療人この2つの思いが心をひとつにして大敵である病に立ち向かっている時は良いが、結果や方向性が思わぬ所へむかうとき、感情の中に猜疑が生まれ、そこはかとはいかない道理が横たわる。

日本の医療制度は世界に誇れるとはいえ医者自身もわかりずらくなっている昨今でもある。

「いつでも」「どこでも」「誰でも」といわれる医療制度は多くの人が恩恵を受けている事は事実であるが、前述した「感情」やそれぞれの「想い」に行き違いが生じるとそれこそ医療人と患者サイドは「いつでも」「どこでも」「誰にでも」医療齟齬を生む事になる。

その誤解を解き、医療側で正すべき事、世間様に御理解を頂く事はそのつどに大切な行為で過程を必要とする。

そして異業種間の交流を数多く行ないお互いが建設的に解決をすすめる事が肝要な時代が来ているのである。

その意味で第7回県民との懇談会は我々にとってひとつの通過点にしか過ぎないと「深い想い」をいただく所である。

印象記

広報委員 大城 清

たいへん申し訳ありませんが、広報委員の立場を忘れて印象を述べさせていただきます。

当然といえば当然のことですが、今月開院します沖縄県立南部医療センター・こども医療センターに対する県民の皆様の関心と期待は、非常に高いと実感しました。質問が多岐でした。移転に伴い発生する問題、高度医療についての質問、さらには医師や看護師が不足しているといわれている現状で高度な機能を維持するための人材確保問題、あるいは病診連携・地域連携についての質問など、皆様の関心の強さをひしひしと感じました。

安次嶺院長が県立南部医療センター・こども医療センターの理念、「人々が安心して来院し満足して帰る病院、生きがいのある病院」と行動目標、「1.長寿と癒しの邦・沖縄を復活させる推進力となります。・・・中略・・・7.全職員が共通の目標に向かって協力し、健全な経営をめざします」を紹介しました。これほどの県民からの期待を背に受けては、職員一同、理念と目標に実現すべく努力せざるを得ません。