平衡老化のすすめ

石川清司・老健施設「あけみおの里」(2018年12月12日掲載)

喜びの「情」で幸せ 手に


 毎年、献血を行ってきた。受付で「今年が最後の献血ですね」との係の言葉に戸惑った。献血は、70歳までとの説明があった。学会の合間をぬって金沢の兼六園を訪れた。入り口で「65歳以上は無料です。証明書を見せてください」とのこと。年齢を証明するものは持ち合わせていない。「見たらわかるだろう」と思いつつ入場料を渡した。自分で自分の年齢を理解、納得して行動することはむつかしい。


 いつまでも若々しくとの「成功老化」の考えに対して「平衡老化」という考え方があります。体の衰えに対応した心の持ち方です。老化による身体の変化と劣化を自然の摂理ととらえて、その衰えにふさわしいささやかな望みを持つことができれば、幸せと感じることができるという考え方です。平衡感覚だけではなく、臓器の衰えと情熱のバランスです。


 例えば「胸水」という、胸の中に水が溜(た)まる病態があります。老健施設ではしばしばみられます。しかし、不思議なことに全く症状が無い。90歳、100歳にもなると、動き回ることがないため、心不全でも息苦しさを感じないのです。


 お年寄りのがん患者さんも受け入れています。軽い認知症を伴っています。骨転移にもかかわらず痛みを感じない。肺への転移にかかわらず穏やかな日々です。がんに対して、自己防衛的に認知症を発症したとも考えられます。認知症は悪いことばかりではないのです。


 認知症になっても、情動の働きは残っていることが多いと言われています。臓器の衰えに伴って悲観的になり、怒り、苦悩の情動が発生する傾向になります。しかし、「縁側での日なたぼっこ」「孫が来てうれしい」「好きな食べ物がありがたい」「身の回りの介護に感謝」等の喜びの「情」が、悲観的な「情」に打ち勝てば、幸せを手に入れることができます。


 認知症になっても、歓喜の情を刺激することが治療となり、幸福を手に入れることにもつながるということです。

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