欧州の高齢者福祉

宮城航一・オリブ山病院(2016年1月26日掲載)

尊厳ある自立した生活

 2015年9月、全国公立・私立病院連盟企画の北欧・欧州高齢者医療・福祉研修団に参加しました。北欧では、老年医学の研究結果と“死の質”を重視して、延命を目的とした経管や胃瘻(ろう)造設による栄養は実施されていませんでした。これが“欧州には寝たきり高齢者がいない“理由です。高齢者住宅や認知症治療施設はアメニティーが重視され、利用者は40平方メートルの個室に、自宅から持ち込んだ馴染(なじ)みの家具調度の中で過ごしていました。認知症者の居室とは思えないほど、清潔でオシャレで、そして日当たりと眺望がよいお部屋でした。


 驚いたのは認知症治療施設の木工教室の棚に、ノコギリや金づちがかけられていたことです。日本だと「危険だから」と、どこの治療施設を探してもノコギリがかけられている施設はないでしょう。また高齢者のケアは行政の責任、公務員スタッフが担っていることが印象に残りました。


 ベルギー・ブルージュのバルト・デルトゥール氏は「施設で暮らす認知症の人の中には、悲惨な状況にいる人もいました。問題は認知症という病気そのものではなく、その人が置かれた環境にあると気付いたのです」と認知症支援センター創設の趣旨を語っています。日本の医療福祉制度は欧州に引けをとらないものとなっていますが、アメニティーを含めた尊厳の哲学的・思想的意識が低いためにその運用・実施を貧困なものにしているのです。われわれはまだ道半ば、欧州に学ぶべきことがたくさんあります。


 介護が必要になった高齢者には、尊厳ある自立した生活を送る権利があります。このために2000年に介護保険制度が制定され、05年には地域包括ケアセンターが設置され、市町村が保険者となって、介護保険法の運営・財政的責任を負うことになったのです。これは単なる願望や理念ではなく、たとえ障害を抱えていても高齢者は「個人の尊厳・幸福追求権」「平等権」等の基本的人権を有しているのです。市町村は財政逼迫(ひっぱく)を理由に福祉政策をおろそかにしていけないのです。

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