専門用語

仲宗根和則・なかそね和内科(2014年11月4日掲載)

家庭医は“通訳”

 専門用語や略語をうっかり使って説明しても、患者は緊張しながらも、うなずいてくれます。耳の遠いお年寄りはニコニコしているかもしれません。専門用語は基本的概念を共有する限られた人々の間で話される言葉で、患者への説明には不向きだと考えます。一例として無意識に医者が使う「炎症」は本来、傷が治る一過程を意味する言葉です。風邪のつらい症状が生体防御に由来すると理解するのは困難ですが、炎症の現場を建築現場に例えると分かりやすくなります。


 発熱や痛みは治癒(修理工事の完了)に向けて現場が活発に動いている状態です。従って、痛み止めや解熱剤の対症療法は、周囲の苦情に応えて大工の数や資材の搬入を制限して現場を見かけ上、鎮めるようなものです。工期を短縮する、つまり決して病気を早く治すものではないことが理解できます。


 また、ウイルス感染で使われる抗原、抗体、という用語は理解しにくい概念ですが、犯人と警官のモデルに翻訳して説明できます。抗原は犯人の遺留物や証拠物件に当たります。抗原陽性とは犯人(体内に侵入したウイルスなどの病原体や異物のタンパク質)の特徴を、リンパ球やマクロファージという警官役の細胞が捉えた状態です。抗体陽性は犯人の特徴(つまり抗原)が広く認識され指名手配された段階だと例えられます。


 患者は病状を納得して初めてつらい治療に向き合えます。制度も現代は、医療現場が細分化されて複雑怪奇になり、医薬分業、ジェネリック(後発薬品)、介護、包括支援、ケア付き○○、各種助成制度など、説明が難しい言葉や迷路のように入り組んだ制度がめじろ押しです。難しい言葉の意味を理解しないと生きにくい時代ともいえます。


 患者の不安の声に耳を傾けて専門用語を分かりやすく翻訳して治療につなげる職業がクローズアップされます、まずは医者として患者に分かる言葉で病気を説明し治療する。同時に、医療制度の指揮者として患者の全体像を見通す家庭医の役割がますます重要になっています。「不安は、まず家庭医に相談」が合言葉です。

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