「年のせい?」見逃されやすい大動脈弁狭窄症

永野貴昭/琉球大学胸部心臓血管外科(2022年4月28日)

カテーテル治療で高齢者の負担減らす ~沖縄県医師会編


 大動脈弁狭窄(きょうさく)症とは、心臓弁膜症の一つで、大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう病気です。かつては先天性のものやリウマチ熱の後遺症などの原因が多かったのですが、近年の急速な増加は高齢社会が影響し、動脈硬化などで弁が硬くなることに起因するものです。軽度のうちはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると息切れ、疲れやすさなどの症状が現れ、失神や突然死に至る可能性があります。問題は長い時間をかけてゆっくり進むので「年のせい?」と見逃されやすいことです。


 軽症であれば経過観察を行いますが、重症化した場合には開胸して心臓を一時的に止め、悪くなった大動脈弁を取り換える弁置換術が必要となります。しかしこの病気は高齢の方に多く、年齢による体力低下、その他の疾患などによるリスクのため、手術が困難な患者さんが全患者の少なくとも3割以上いることが分かっています。


 このような患者さんに対して、カテーテルを用いて大動脈弁位に人工弁を留置する治療法が経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI=タビ)です。TAVIは太ももの付け根にある大腿(だいたい)動脈、もしくは肋骨(ろっこつ)の間からカテーテルを入れ、正常に機能しなくなった大動脈弁の代わりとなる人工弁(生体弁)を心臓まで運び、留置する治療法です。一般的に胸の中央の骨を縦に切開して行う開胸手術に比べて傷が小さくてすみ、入院期間が短いため患者さんの心身の負担を減らすことができます。


 このカテーテル治療は、日本でも2013年10月から保険適応となり、現在では全国約180施設で治療された患者さんは4万人を超えます。開胸による大動脈弁置換術の他に手術の選択肢が増えたことで、患者さんに最適な治療が適用できる新たな時代になりました。


 最新の弁膜症ガイドライン(日本循環器学会・2020年改訂版)上でも75歳以下は開胸手術、80歳以上はTAVI治療を優先的に考慮するとの指標が発表されました。今や高齢者への標準的治療と考えられ、医療技術の進化とともにさらなる適応拡大が期待されます。

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