一人で長年苦しむ女性も

諸井明仁/県立北部病院産婦人科(2022年3月10日)

生活の質を低下させる子宮脱 ~沖縄県医師会編


 「先生、股の間にピンポン玉のようなものがあるんです。おしっこが近くて、トイレに行っても出しづらくて、一晩で何回も起きてしまい眠れません」と、苦しい胸のうちを打ち明ける方が多くいらっしゃいます。子宮脱という病気です。子宮脱とは本来は骨盤の中にある子宮が下垂してしまい、子宮の他にも膀胱(ぼうこう)や直腸なども一緒に下垂することから骨盤臓器脱と総称されます。


 外陰部から子宮が見えている方も少なくありません。本来は腟(ちつ)の奥にあるべき子宮が外陰部から出ているため下着に擦れることで出血し、子宮と一緒に下垂した膀胱は引き延ばされることで、排尿がしづらくなります。膀胱内に尿がたまった状態が続くことで、膀胱炎や腎(じん)盂(う)腎炎を繰り返すという、女性の生活の質を著しく低下させる病気です。多産、経腟分娩(ぶんべん)歴、加齢、肥満、慢性便秘などがリスクとされます。つまり、腹圧のかかる力仕事を長年続けてきた子だくさんの方に発症します。


 病気の部位が外陰部で、羞恥心から夫や子供たちにも言えず、一人で長年耐え忍ぶことが多いことも特徴です。「子宮脱は人生を頑張って生きてきた方に多く、人生の勲章のような病気ですよ」と患者さんに伝えると、涙を流される方もいます。


 一般的な治療にはリングペッサリーという保存的療法と、腟式子宮全摘術を代表とする手術療法があります。リングペッサリーは腟内に挿入するだけの簡便な方法ですが、腟壁が圧迫され続けるため、合併症として潰瘍やびらん、出血や感染を起こすことがあります。その有無の確認のために数カ月ごとの定期通院が、基本的には一生涯必要となります。腟式子宮全摘術は、脊椎(下半身)麻酔下で腟から子宮を摘出するため開腹術を必要としません。手術時間は1時間30分弱程度で、負担が少ない術式だと考えています。術後は定期通院が不要となります。


 外陰部に違和感があったり、頻尿、残尿、尿が出しづらかったりする症状でお悩みでしたら、子宮脱の可能性があります。その場合には、ぜひ産婦人科を受診いただければと思います。

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