全国一少ない沖縄の胃がん

二宮基樹/友愛医療センター消化器病センター(2022年1月27日)

原因になるピロリ菌感染率は同じ 患者数違う要因は ~沖縄県医師会編


 長く続いている新型コロナウイルス禍、それはがん医療にも大きな影響を与えています。ある大学病院では消化器がん手術患者が2割減っているとの報道がありました。がん患者の発生が急に減るわけはありませんから、本来手術が必要ながん患者が来院していないと解釈すべきでしょう。検診を受ける人が減り、少々の症状には我慢をして病院を訪れていない可能性が高いと思います。


 これまで1800人ほどの胃がん患者を執刀してきた私ですが、がんを告知する際に皆さまが異口同音に口にする言葉が「どうして私が」です。がんはよほど進行しないと自覚症状が出ないので、がんから生還できる可能性が高まる早期発見には検診が欠かせないのです。


 受診控えの間にも、がんはどんどん進行するのですから怖い話です。コロナが落ち着き日常生活が戻るころには、多くの進行したがん患者が病院を訪れる危惧を抱いています。コロナは医療のあらゆる分野に深刻な影を落としていますが、がん医療も例外ではないのです。


 ところで、世界の胃がん患者の約60%は日本、中国、韓国などの東アジア諸国で占められています。その原因はピロリ菌です。興味深いことに、沖縄はピロリ菌感染率が他府県と同等なのに人口比で全国一胃がん患者が少ないのです。沖縄で手術を受ける胃がん患者は年間200人ほどです。この数は私がかつて勤めていた広島の基幹病院での年間手術数とほぼ同じなのです。少ない理由の一つとして挙げられているのがピロリ菌のタイプの違いです。


 欧米型に比べて東アジア型は病原性が高いとされていますが、沖縄のピロリは不思議なことに欧米型が多いのです。といっても、興味深いことに遺伝子構成が若干異なり、典型的な欧米型ではなく沖縄固有のものであるとの研究報告があります。


 感染症の分布状況が民族の由来や移動の歴史を推測する手だての一つとなることがあります。ピロリ菌感染にもその可能性があるように思え、古代史好きの私には大変興味深いテーマです。

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