従来のがん治療の概念を覆し時代を変えた薬

向山秀樹/南部徳洲会病院泌尿器科(2021年12月29日 WEB版掲載)

腎がん~治療方法の変遷~ ~沖縄県医師会編


 腎がんに関しては、外科的切除以外には放射線治療や化学療法は効果がなく免疫療法が行われていたことを約20年前に、それが2008年に分子標的薬という治療薬が開発され、腎がんに対する治療効果も免疫療法に比べて格段に良くなったことを約10年前にそれぞれ本紙コラムで書かせていただきました。


 そして今回は、巡り巡ってまた免疫療法が腎がんに適応になったという話です。


 2018年、本庶佑先生がノーベル医学・生理学賞を受賞したことを覚えている読者は少なくないと思います。このとき受賞したのが、今回お話しする免疫チェックポイント阻害薬という薬です。


 この薬が開発されるまでは、いかにがん細胞を攻撃するかががん治療でした。しかし改めてがん細胞がなぜがん細胞かというと、おのれを増やして、浸潤・転移というがん細胞の拡散を引き起こすからで、このメカニズムはヒトの体のなかで免疫細胞(リンパ球・白血球等)から逃げることに加えて、同免疫細胞を働かなくさせることができるからです。


 この現象はよく車の運転に例えられます。車のスピード(免疫力)を上げるアクセルと、スピードを落とすブレーキ。がん細胞は自分でブレーキを踏むことができます。このブレーキをがん細胞が踏めなくなる治療薬が免疫チェックポイント阻害薬という薬です。


 この薬は従来のがん治療の概念を覆し時代を変えました。現在の腎がんのガイドラインでは、手術で取り除くことができない腎がんの標準治療薬になっています。さらに最新の治療方法では免疫チェックポイント阻害薬と従来の分子標的薬の併用療法は第一推奨治療方法にも採択されています。この薬の登場は腎がんに苦しむ患者にとって朗報となりました。


 実は私の学位論文は免疫でした。免疫療法が腎がん治療の最前線に返り咲くとは思いもしませんでした。まるでがん診療というドライブにおいてブレーキも踏まずに車を走らせていると、巡り巡って昔見た景色が今デジャブ(既視感)のように甦っているようです。

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