心不全パンデミック時代
上原裕規/浦添総合病院循環器内科(2021年11月11日掲載)
IT活用し早期発見へ ~沖縄県医師会編
「心不全」ってご存じですか? 詳しくは知らない方のほうが多いのではないでしょうか。分かりやすく表現すると「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気」です。心臓病による死亡は、がんに次ぎ2番目に多く、心不全による死亡は心臓病の内訳の中で、最も多くなっています。ちなみに他の病気との死亡率を比較すると、大腸がんと同程度であり、決して予後が良い病気ではないのです。
心不全患者の1年死亡率は約7%、1年以内の再入院率は30%弱とかなり高く、入院を繰り返すたびに重症化していくこと、入院が長期間に及ぶため、病床を逼迫(ひっぱく)させることから、改善すべき喫緊の問題となっています。心不全患者数は年に1万人ずつ増加しており、2020年には120万人に達していると予測されていて、いまや心不全パンデミック(広範囲におよぶ流行病)の時代に突入していると言えます。
心不全の原因としては、心筋梗塞や心筋症、弁膜症、不整脈などがあり、それぞれの疾患に対する侵襲的治療も行いますが、薬物治療が主になります。心不全の薬物治療は、これまでは、一昔前の薬剤しか使用できなかったのですが、この数年で有望な新規薬剤が次々と出てきました。しかし薬物療法だけでは必ずしも十分とはいえず、減塩などの生活指導・服薬指導・リハビリなど、多職種連携で包括的に管理することも重要です。
患者さん自身が病気の状態を把握することで重症化予防につながる「セルフケア」も注目されており、その取り組みの一環として、早期発見のための心不全手帳の配布や、最近では自宅で血圧や酸素モニターを測定するだけで、自動的にネットワーク経由で病院へデータが即時に転送されるシステムも開発されています。
このネットワークシステムを用いることで、迅速に、リアルタイムで患者さんの生体情報を把握することができるため、治療介入がより早く行えるメリットがあります。近い将来、心不全はITを駆使しながら、地域社会全体で診ていく時代になるかもしれません。