聴診器で心音を聴く意味は…?

田名毅・首里城下町クリニック第一(2019年8月10日掲載)

自覚のない症状を早期発見 ~沖縄県医師会編

 内科を受診した際に聴診器をあてられると思いますが何を聴いているのかご存じでしょうか? 風邪をこじらせて受診した患者さんの場合、肺に肺炎を疑うような音はないか、喘息(ぜんそく)を疑うような音はないかなどを聴いています。


 では、高血圧や糖尿病の患者さんに聴診器をあてる時は何を聴いているのでしょうか? 心臓には四つの部屋とそれを仕切る四つの弁があります。弁の働きが不十分だと血流は逆流し心雑音が聴かれます。また、規則正しく動いているはずの心拍に乱れがあると不整脈が聴診されます。


 それでは高齢になるほど発症が増し注意が必要な心臓病を二つご紹介します。


 一つ目は大動脈弁狭窄(きょうさく)症で胸の上部真ん中に聴診器を当てるとザアーザアーと音がします。聴診さえしていれば比較的見つけやすい病気ですが、この病気が怖いのは自覚症状が全くなく、ある日突然心不全を起こし救急搬送されたり、突然死を起こすということです。疑った時は心臓超音波検査が有用です。以前は開胸手術しか治療法はなかったのですが、最近は太い血管にカテーテルを心臓まで入れて新しい弁を入れる経カテーテル大動脈弁置換術が行われるようになりました。手術が難しいとされていた超高齢者の方々でもこの治療で助かる方が増えています。


 二つ目は心房細動です。この病気は心臓の上部にある心房から正常ではない電気信号の乱れが生じ心拍が不規則になってしまう病気です。心臓の中では血液がよどんで血栓ができ これが脳の血管に流れ、詰まると命を落としかねない脳梗塞が心配されます。治療は抗凝固薬の投与ですが、以前までよく使われていたワーファリンとは異なりビタミンKを多く含む納豆などの食事制限の必要がない新しい抗凝固薬が使われるようになりました。


 この二つの病気はいずれも自覚症状がないので聴診により早期発見するしかありません。かかりつけ医が何げなく行う聴診には実はこのような意味があるのです。

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