高血圧の放置

崎間敦・琉球大学保健管理センター(2019年8月8日掲載)

動脈硬化が進展し脳心血管病に直結 健康長寿で過ごすため対策を ~沖縄県医師会編

 2018年12月に公布された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」において、高血圧対策は、重点項目のひとつとなっています。今、何故、「高血圧対策」なのでしょうか?


 日本人の約4300万人が該当する最も多い生活習慣病である高血圧は、動脈硬化を引き起こし、脳卒中、心筋梗塞および心不全などの脳心血管病発症の最大のリスク因子となっています。実際に、年間約10万人の国民が高血圧に関連した脳心血管病により死亡しています。さらに、高血圧は、慢性腎臓病、末期腎不全の発症リスクを上昇させます。沖縄における疫学研究では、収縮期血圧(上の血圧)が10mmHg(ミリメートル水銀柱)上昇ごとに、末期腎不全のリスクが約30%上昇することが報告されています。


 また、中年期の高血圧は高齢期の日常生活動作(ADL)の低下および血管性認知症の発症のリスクを上昇させます。よって、高血圧を適切に管理することは、健康長寿の延伸に直結することになります。


 しかし、高血圧はよい降圧薬(血圧のくすり)がいくつもあり、高血圧治療ガイドラインが普及しているにもかかわらず、多くの高血圧患者が治療を受けていない、治療を受けていても降圧目標(血圧をどこまで下げるかの目標)を達成していない状況に陥っています。これは、高血圧パラドックスと呼ばれ、日常診療の大きな課題のひとつとなっています。わが国の高血圧パラドックスの現状をみると、高血圧患者数の3100万人が血圧管理不良と推計されており、このうち、高血圧を認識していない者は1400万人、認識しているものの未治療者は450万人、治療を受けているものの管理不良者は1250万人となっています。


 高血圧は放置しておくと動脈硬化が進展し、脳心血管病で命を落とすリスクの高い怖い病気です。そこで、国民の皆さまが高血圧の認知率を向上して適切な降圧治療を継続し、降圧目標の達成率を高め、高血圧パラドックスを制圧することが求められています。この取り組みは、健康長寿の延伸につながります。

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