高齢者だけでない孤独死

今井千春・今井内科医院(2019年6月21日掲載)

8割が男性 ~沖縄県医師会編

 人の真価は棺(ひつぎ)の蓋(ふた)を閉める時に定まると言われますが、警察医は人生の最期の状況としては残念な場面に多々遭遇します。それぞれの警察署には2-3人委嘱された警察医がいます。普段は病院やクリニックで診療を行っていますが、事件が発生すると診療の合間を縫って署に駆けつけます。


 ある日のこと、60歳男性宅を訪問した兄が自宅で倒れている弟を発見しました。連絡を受けた警察署員は現場に向かい死体の観察、身元、生活状況、施錠や貴重品の状態など確認しました。死後3日経過していることが推定されました。


 事件性がある場合には司法解剖が行われますが、事件性がなく病死と判断された場合には警察医が呼ばれます。警察署の裏にある小さな別棟で現場の状況や通院歴、部屋に残された薬など説明を受けます。その後隣の安置室に横たわる死体を診察し、死体検案書を作成します。高温多湿の沖縄では遺体は数日で腐敗します。最後にご遺族に状況を説明しますが、死亡診断書が発行される一般的な看取(みと)りとはかけ離れたこの状況に心が痛みます。


 現在警察医が危惧していることは、今から迎える多死社会と孤独死の増加です。高齢化の進行により平成の初めに比較し平成末では総死亡数は1・7倍に増加しました。死亡原因が明らかに病死と診断できない場合は異状死と判断され、先の様に警察が出動し現場検証が行われます。


 異状死のうち自宅で死亡した1人暮らしの人が孤独死と呼ばれていますが、孤独死の8割は男性です。男性は発見までの時間が長く平均12日、女性は6日と男女差があります。孤独死は高齢者に限った話では無く、50代から孤独死の増加がみられます。最も多い原因として飲酒が関係しています。独身男性は食生活が乱れ、人付き合いも限定的になりがちです。「自分に限って大丈夫」から一歩下がって慎重を期し孤独死を防ぐために、かかりつけの先生や民生委員、地域の自治会の方と意識して関わる事をお勧めします。

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