皮膚にできる「トーフヌカシー」

新井弘一・やえせ整形外科(2019年3月22日掲載)

自覚症状がないけれど… ~沖縄県医師会編

 皆さんこんにちは。トーフヌカシー(アテローム、粉瘤・ふんりゅう、表皮嚢腫)とは、皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫・のうしゅ)ができる良性の皮下腫瘍で、胸や背中、顔面や頭皮まで様々な部位に発生します。指でつぶすと豆腐の粕(かす)状の特有の臭気を持つ分泌物が排出されますが、これは本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(あか)(角質)と皮膚の脂(皮脂)が袋の中にたまってできたものです。初期のうちは痛みもなく、触ると皮膚がぽっこりと盛り上がった感触しかありません。


 これが初期の段階です。自覚症状がないため、この段階で病院を訪れる方はまれです。診断は比較的容易ですが、まれに悪性化の報告もあるため疑わしい場合は組織を採取して病理検査を行います。この段階であれば、手術で嚢腫を摘出することでほぼ再発することなく完治します。治療期間は4~8週ほどかかりますが術後の通院回数は4~6回程度で痛みもなく、手術翌日から入浴も可能であるため生活への支障はほとんどありません。


 しかしそのまま放置しているとある日突然嚢腫全体が炎症を起こして急激に大きくなります(炎症性粉瘤)。この段階で違和感や痛み、発赤に気付いて病院に駆け込む方がほとんどです。炎症性粉瘤も局所麻酔で切開排膿(のう)し、嚢腫成分を完全に摘除すれば4~8週の通院で治癒しますが、術後1週間程度は腫れと痛みが続きます。目立つ場所(露出部)であれば、生活への影響も大きいと思われます。また嚢腫の完全摘出が難しいため再発の可能性が残ります。内服で炎症を抑える方法もありますが、自然治癒することはないと言われているため、やはり再発におびえながら過ごすことになります。以前炎症性粉瘤で手術した患者さんに聞いた話ですが、腫れる度に奥さまに頼んで膿を出してもらっていたそうです。100年の恋も冷めるような臭気に耐えながら、膿を絞り出していた奥さまに深く同情すると共に沖縄の女性のたくましさを感じた瞬間でした。


 皆さん、勇気を出して早めに病院を受診しましょう。

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