高年齢女性の1割がかかる「骨盤臓器脱」
芦刈明日香・宮里実/琉球大学医学部付属病院(2018年3月23日掲載)
~沖縄県医師会編
「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」という病名を聞いた事がありますか? おなかの一番下の部分で子宮や膀胱(ぼうこう)、直腸(骨盤内臓器)をハンモックのように支える骨盤底筋の緩みによって生じ、緩んだ腟(ちつ)の穴からそれらの臓器が風船のように飛び出るという病気です。
一般的に中高年齢の女性に多い疾患です。初期は排尿排便後や夕方に出てくることが多く、悪化するとずっと飛び出た状態となります。腟に臓器が挟まり強い違和感だけでなく、おしっこの出にくさや残尿感、頻尿症状、便秘を引き起こします。飛び出た部分が下着と擦れて出血することもあります。命に関わる事はほとんどありませんが、生活にとても支障をきたします。骨盤臓器脱は分娩(ぶんべん)回数の多い方や肥満、慢性的な便秘やせき症状がある方、日常的に重い荷物を運ぶ機会の多い方などで発症のリスクが高くなり、最近は遺伝の要素もあるとされています。
沖縄県、特に離島では、農業に従事する女性も多く、潜在的にかなりの患者が存在することが予想されています。女性1人が生涯に産む子供の数も本土と比べて多いのも特徴です。どれもが発症のリスクを高めます。
家族や友人にも相談できず、どの診療科を受診していいかも分からず長年悩んでいるケースが多くみられます。見た目は病人らしくないため、周囲の理解が得られにくい事もあります。しかし高年齢女性の10人に1人が罹患(りかん)するとされ、決して珍しい病気ではありません。
治療法は手術と手術以外があり、臓器脱の程度(膣からどれだけ飛び出しているか)が強いと基本的には手術が必要です。
軽度なら、腟周囲の筋肉を鍛える骨盤底筋訓練や、腟の中に挿入して臓器を固定するリングで対応可能な場合もあります。手術には、臓器をハンモックのように支えたり、つり上げたりするポリプロピレン製のメッシュ(小さな穴がたくさん空いたシート)を使う手術と使わない手術があります。
手術には一般的に腟壁を切開し腟壁内にメッシュを挿入し補強する方法(TVM)と、腹腔(ふくこう)鏡手術でメッシュを子宮や腟に縫い付けてつり上げ固定する方法(LSC)があります。メッシュを使わない場合は、子宮を摘出したり、緩んだ腟を縫縮し出口を狭くしたりします。施設や個々の状態によって治療法が異なる事があります。
骨盤臓器脱は、治療法の進歩により治る疾患となっています。1人で悩まず、お近くの産婦人科や泌尿器科で、ぜひご相談ください。