認知症は社会問題
名嘉村博・名嘉村クリニック(2018年2月9日掲載)
家族も情報共有、現場支援を ~沖縄県医師会編
電話をしようとするが突然かけ方が分からなくなり、ついに認知症になったのかと焦りと強い不安に襲われたところで目が覚めたことがあります。ある年齢になると物忘れを自覚あるいは家族に指摘されるようになります。健康に気を付けている人ほど認知症への不安や死への恐怖も強いようです。
認知症は記憶、思考、見当識、概念、計算、学習、言語、判断力などの高次脳機能がさまざまな原因で次第に低下する慢性進行性の脳の病気です。原因には正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など脳外科手術で治癒可能な場合や、脳の感染症、パーキンソン病などの変性疾患、アルコール依存、ビタミン欠乏症など内科疾患があります。最も多いのがアルツハイマー病で次に脳血管性、レビー小体型認知症などがあります。
診断には診察所見とMRIなどの脳画像診断と認知機能検査が不可欠です。認知機能検査は長谷川式のように質問票で行う簡易なものから、コンピューターを使った複雑な方法もあります。初期の物忘れは、自然の老化現象なのか病気なのか診断が困難なことがあり、時間をおいて繰り返し実施します。重症度や進行度診断には仕事や社会活動に支障をきたしているか、身の回りの始末はできるか、1人で生活することは可能か、絶えず監督や支援が必要かなど日常生活状況の把握が必要です。医療専門職だけでなく、家族や関係者の情報と協力が欠かせません。
治療には薬物療法やリハビリテーションなどがありますが、治癒は困難です。進行するに従い、デイケアサービスなどの通所サービスから入所サービスへ移行することが多いですが、介護者がいない独居や移動困難、寝たきり状態、みとりでは、訪問診療や訪問介護、看護、薬剤指導も選択できます。情報の提供や支援に地域包括支援センター、サービスの調整にはケアマネジャーの役割も大きくなります。
物忘れ外来で診療している平原佐斗司医師は「認知症の診療では病名を付けるだけでは意味がなく、診断を患者と家族と共有し、患者の意思決定を支援し、家族の教育的支援につなげること、そして診断結果を基にケアの現場を支援することが最も重要です」と述べています。
しかし現実はどの項目も不十分です。2018年4月には介護保険と健康保険が改定され利用者の自己負担は増えます。認知症はすでに大きな社会問題になっています。一人一人が制度を理解し効率よく活用すること、国や行政と共に制度改善を図っていく努力が求められています。