がんで失った乳房を元に戻す
野村紘史・中頭病院(2016年12月2日掲載)
「乳房再建治療」の仕組み ~沖縄県医師会編
12人に1人。一生を通じて、乳癌(がん)を発症する日本人女性の割合です。早期発見、早期治療、そして治療法の進歩により、乳癌の生存率は向上してきています。しかし、乳房切除術による変形は、病気と同じくらい、女性にとってずっと続く悩みです。
この、失ってしまった乳房を、手術前のかたちに戻す治療が「乳房再建」です。乳房再建は、一部を除いて、ほとんどの治療法に健康保険が適用されます。
乳房再建の方法には、シリコン製の柔らかいインプラントを用いる方法と、自分の体の別の部位から組織を移植する方法があります。
乳癌治療の際に皮膚も同時に切除されている場合には、インプラントでふくらみを作る治療に先立って、エキスパンダーと呼ばれるシリコン製の水風船を用いて、不足している皮膚の面積を拡張します。インプラントは組織を採取する方法と比較して、体への負担は少ないですが、カプセル拘縮(こうしゅく)と呼ばれる異物への反応などに対する術後の定期的なアフターケアが必要です。
別の部位からの組織移植としては、おなかの脂肪や皮膚を、かたまりとして採取し、乳房の近くに流れる血管に顕微鏡で吻合(ふんごう)して移植する方法が代表的です。この方法ではおなかにも組織採取のきずあとが付くことになります。最近では再生医療を応用して、脂肪吸引で採取した脂肪細胞を注入する方法も研究されていますが、ボリュームに限界があり、まだ一般的ではありません。
時期としては、乳癌治療と同時進行でも、あるいは過去に受けた乳房切除に対して時間がたってからの乳房再建でも、どちらも可能です。
また、より大きな胸として再建したいという反対側の乳房に対する豊胸や、下垂した乳房も修正したいというボディーコンツールの治療を同時に希望される方もいます。
乳頭や乳輪は、乳房再建のあとに再建します。乳頭乳輪再建は日帰り治療が一般的で、最近ではアートメークを応用したパラメディカル・タトゥーという負担の少ない色素注入治療も開発されています。
乳房再建は、単なるかたちの治療ではなく、放射線治療や抗がん剤などの乳癌治療に支障が出ないように連携を取りつつ、ひとりひとりの体の状態に合わせる必要がある専門性が高い治療です。
そのため、乳房再建は、認定を受けた施設で、トレーニングを積んだ登録医がおこなうことが定められています。
あなたに最適な治療法がきっとあります。一人で抱え込んで悩まず、専門医にご相談ください。