乳房再建

新城憲・形成外科KC(2016年9月16日掲載)

~生活の質向上を手助け 沖縄県医師会編

 乳がんは、わが国において女性のがん罹患(りかん)の第1位で、2015年には約9万人が発症し、約1・4万人が乳がんで死亡していました。10年前の05年の乳がん罹患者が約4・8万人だったので、この10年間でほぼ倍増していることになります。県内では、13年に約800人の方が新たに乳がんと診断され、患者数は年々増加傾向にあります。


 乳がんの治療は、手術に加え、抗がん剤・ホルモン剤・分子標的治療による薬物療法や放射線療法を組み合わせて行われ、治癒率も向上しています。しこりの大きさが2センチ以下の早期がんであれば、5年相対生存率は96%と、ほとんどの方が治癒します。


 乳がん自体は治っても、女性の象徴でもある乳房を失うことから来る精神的苦痛も、決して小さくはないと思います。そこで、こうした心の痛みを癒やし、女性としての自信を取り戻し、よりよい社会生活を送れるように手助けをする目的で行われるのが「乳房再建」です。


 乳房再建は自家組織(自分の身体の一部分)、人工物のどちらか、または両者を同時に用いる方法の三つの中から選択します。自家組織はおなか・背中・お尻から採取しますが、十分な量の組織が確保できること、採取しやすいこと、採取後の傷跡が目立ちにくいことからおなかの組織を主に用います。


 人工物はシリコン製インプラントを用いますが、その利点は、身体の他の部分にキズを残さないこと、手術時間が短く身体への負担が少ないことなどが挙げられます。一方、欠点は、形が調整しにくいことや、長期的に見ると、インプラントが破損したり、硬くなったりする危険性もあります。


 朗報としては、インプラントによる乳房再建が、13年7月に健康保険適応となり、さらに乳房の形により近いしずく型インプラントの使用も可能となったことから、再建方法の選択肢が大きく広がりました。その結果、乳がんの手術自体も、乳房温存手術よりも乳房全摘出手術を選択する患者が増えています。


 ところで、13年に、米国の有名女優が乳がんの予防目的で乳房切除術を受け、乳房再建まで行ったことを公表し、大きな話題となりました。その後、本邦でも、家族歴と遺伝子検査さらに、倫理面を考慮しながら、予防的乳房切除と再建を検討する施設が増えつつあります。


 乳がん術後の生活の質を向上させる上で、乳房再建は大きな意義があります。今後も、乳腺外科医と形成外科医が連携をより密にして、乳房を失った女性の強い願いに応えていきたいと思います。

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