大変革遂げた脳卒中治療
宮城 哲哉・国立病院機構沖縄病院神経内科(2016年2月5日掲載)
脳卒中(脳血管障害)には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が含まれます。脳卒中は世界中で2秒に1人の頻度で発症し、わが国では死亡原因の第4位、そして寝たきりの最大の原因です。認知症の原因にもなります。脳卒中は元気で長生きを最も脅かす身近な国民病なのです。
脳卒中を発症すると急に意識が悪くなる、うまく話せない、顔がゆがむ、手足が動かないなどの症状が出現します。患者も家族も混乱して不安で押しつぶされそうな気持ちでたどり着いた病院救急室での対応は納得のいくものでしょうか。大切で再生することのない脳神経が壊れていく最中に「脳卒中は発症したら治療法はない、予防が大切だ」と説明し消極的な対応しかできない病院もあるようです。
残念ながらこれは約30年以上前の対応です。「脳卒中ほど大転換がおこった医学分野を知らない」、これは米国のHachinski教授の言葉です。わが国でも脳卒中診療は大変革を遂げました。治療成績も改善しています。このことをぜひ覚えておいてほしい。
大変革の一部を紹介します。脳梗塞発症から4、5時間以内に専門施設を受診すれば、有効な点滴治療の恩恵が期待できます。この治療で4割の患者は生活に不自由のない状態で自宅退院できます。専門施設での脳卒中集中治療室での管理も予後を改善させます。急性期脳梗塞へのカテーテル治療が条件を満たせば推奨される事も数カ月前に米国で公表されました。安心して使える予防内服薬も登場し、現在も開発が進んでいます。頭部MRI検査での病態評価も大きく進歩しています。脳動脈瘤(りゅう)への治療技術の向上やカテーテル治療で使用するデバイスの進歩も目を見張るものがあります。
県でも最善の脳卒中診療を受けられる体制の重要性がようやく認識され、これから整備されると期待しています。また、県の医療体制は誇らしいことにほとんどの救急病院が救急車の受け入れを断りませんので、発症から治療開始までの時間を短縮し治療効果が上がる基盤があると言えます。患者・家族はどうすればいいのでしょうか。一字一句覚えてほしいことがあります。「脳卒中を疑う症状であるFace(顔のまひ)、Arm(腕のまひ)、Speech(ことばの障害)に気付いたらTime(発症時刻)を確認しすぐ救急車を呼ぶ」事です。頭文字をとってFASTです。
速やかな治療が何より重要ですので、病院に着きましたら(1)いつからどんな症状が出たのか(2)今まで診断された病名(3)現在の内服薬-の3点をパニックにならずに簡潔明瞭に伝えください。