成人の鼠径ヘルニア
比嘉昇・おもろまちメディカルセンター(2016年1月29日掲載)
生活習慣・職業に由来も
ヘルニアとは、体内の臓器が本来あるべき部位から飛び出した状態をいいます。鼠径(そけい)部は太ももの付け根のことを示します。つまり鼠径ヘルニアとは、おなかの中の腹膜や腸の一部が鼠径部の皮膚の下に出てくる病気で、一般に脱腸と呼ばれます。鼠径部にはおなかと外をつなぐ筒状の管(鼠径管)があり、男性では血管や精管、女性では子宮を支える靱帯(じんたい)が入っています。
鼠径ヘルニアは女性より男性に多く、鼠径管のサイズの差のためと考えられています。年とともに筋膜が衰えると鼠径管が緩みます。おなかに力を入れた時に緩んだ隙間から腹膜が突出し、次第に袋状(ヘルニア嚢(のう))に伸びて鼠径管内を通り脱出します。
一度できた袋は徐々に大きくなり、自然に消失することはありません。症状は立った時やおなかに力を入れた時に鼠径部が膨らみます。手で押さえたり、あおむけに寝たりすると引っ込んでしまうことも特徴です。膨らんだ時に違和感、痛みを感じる方もいます。まれに膨らんだまま元に戻らず、強い痛みを伴う場合があります。これはヘルニア嵌頓(かんとん)といい、緊急手術になる可能性があります。
発生には職業も関係し、腹圧のかかる仕事をする人に多く見られます。便秘、肥満、前立腺肥大、よくせきをする人、妊婦も要注意です。治療は手術以外にありません。手術は出ている腸管を戻し、ヘルニア嚢の出口を閉鎖、補強することが基本です。以前は周囲の組織を寄せて閉鎖、補強をしていました。しかし、弱い部分を補強するので、再発する危険性がありました。また突っ張った感じも多くみられました。現在ではメッシュという人工の補強シートを使う手術が主流で、突っ張り感がなく、再発率も低下しています。最近では腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いる方法もあります。
再発には手術法が大きく関係していますが、他の原因を取り除くことも大切です。日常生活では、腹圧が高くなることを避ける(重い物を持たない、立ちっぱなしを少なくする)ことを心がけることが大切です。また、肥満や喫煙も一因であり、体重を減らす、禁煙することも効果があります。便秘症、前立腺肥大やせきなども注意が必要です。筋肉トレーニング(腹筋など)は再発予防に効果がありません。手術と反対の鼠径部が盛り上がってきた場合、新たな鼠径ヘルニアの可能性があります。鼠径部の筋膜の弱い部位に起こるため、右鼠径ヘルニアの方は、左にもできる可能性があります。
鼠径部が腫れてきた、鼠径ヘルニアではないかと心配された方は、近くの外科で相談してみてください。