パニック障害

仲本政雄・博愛病院(2015年11月13日掲載)

薬や行動療法が効果的

 Aさんの話。Aさんは、某中小企業の経営者です。バブル全盛期に事業を拡張したものの、バブル崩壊に伴い経営が急速に悪化し、多額の負債を抱え込むようになりました。


 資金調達に駆けずり回っていたある日、急に動(どう)悸(き)を覚え、今にも心臓が破裂するのではないかとの恐怖心に駆られ、近くの病院に駆け込み緊急で診てもらったのですが、諸検査でも特に異常所見は認めず、その日はいったん安心して帰宅しました。


 しかし、その日を境に心臓のことがいつも気になり、特に車を運転している時は、またあの時の発作が起きるのではないかと、ちょっとしたことで不安感が頭をよぎり、とうとう自分で車を運転することさえできなくなりました。


 また、妻の運転する車に乗っていても、道が混んでいる時等、不安発作が頻発するようになり、当院を受診するようになりました。


 このように、負債や病気、職場での人間関係、夫婦間の危機、恋愛問題等、内面に抱える種々の精神的葛藤があると、不眠や過労、飲酒等、ささいなきっかけでパニック発作をきたしたりするものです。


 パニック発作は既にW・キャノンが動物実験で明らかにしたように、本来は動物が外敵と遭遇した時に闘うか、逃げるか(fight or flight)という状況下で必要なエネルギーを産出するための防御反応で、動悸することで素早く筋肉の隅々に血流を増やし、糖を酸化(燃焼)してエネルギーを産生する生理的な反応ですが、いかんせん、人間は、脳が発達し、想像力がたくましくなっており、実際の外敵とぶつからなくても生活生命を脅かす諸処の事態に対して、このような緊急反応を起こすのであります。


 また、いったん、緊急反応(パニック発作)を起こしたら、心臓という生命にとって一番重要な臓器に対する懸念が高まり、発作を起こしたらどうしようという心配が過度に強まり、一度発作を起こした状況下では、また起こすのではないかという自己暗示でもって、そのような状況下では、頻繁に発作を起こすようになるのであります(汎(はん)化現象で発作を起こしそうになる状況は次第に広がっていきます)。


 幸いなことに、パニック発作に対しては、抗不安剤をはじめ、抗うつ剤のSSRI等も良く効き、薬物療法が効果的です。


 また、発作を克服するのに、森田療法的精神療法や認知行動療法等も有効であります。パニック発作でお悩みの方は近医の精神科や心療内科で相談されてください。

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