在宅医療・訪問診療
名嘉村博・名嘉村クリニック(2015年10月23日掲載)
制度知り上手に活用を
皆さん訪問診療というと何を連想しますか。年配の人は一昔前の医師の往診が思い浮かぶかも知れません。往診は自宅での死亡(みとり)が普通であった時代は医師にとっても通常の診療であったに違いありません。その後、高度経済成長期となり国民皆保険、老人医療の無料化などを契機に死亡場所が自宅から病院へ移り2009年には病院での死亡が8割となりました。この間在宅医療は衰退し、往診は一部の少数の医師が細々と行う特異な診療で、在宅ターミナルケアやみとりは困難とする風潮もあったようです。このような状況でも大多数の人々はできれば住み慣れた自宅での療養や終末期ケアを受けたいと希望しています。
高齢人口の増大、低成長経済下での医療・介護に係る費用の高騰を背景に国は費用の高い病院入院で対処することは困難として1990年代に初めて「居宅」を医療提供の場として位置づけ在宅医療を認知・制度化しました。国は「施設中心の医療・介護から、可能な限り、住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す」として急性期治療は病院で、その後は療養施設や居宅でと医療・保健、介護の法律を改正・制定し費用の安い在宅医療へ誘導を図っています。
以前はどの病院でも同じであった診療費も現在では病院の機能の差により異なります。病院が早めの退院を迫るのも介護施設の頻回な変更もこのような制度変更に起因しています。制度的な後押しもあり最近は在宅医療に加わる医師も増えてきました。生活支援をする在宅介護と同様に在宅医療も従来の医師中心の訪問診療(往診)だけでなく退院支援・急変時の対応・みとりなど多岐にわたり看護師、薬剤師、理学・作業療法士など多職種の医療専門職参加が不可欠。特に終末医療やみとりでの訪問看護の役割は大きいのです。
このように提供の制度は整いつつありますが在宅医療がうまくいくためには、制度をよく知り上手に活用すること、各個人が元気な時に日頃からどのような医療を受けたいか家族や周囲と話し合うこと、死生観について考えることが大切です。それに基づいて提供者側と相談し選択することが望ましいのです。
昨今増大する医療・介護・福祉の費用の抑制策が財政・政治的な大きな課題となり幾つもの法改正が行われています。医療体制も岐路に立っています。より良い制度を目指すには国や医療提供者側だけでなく最も影響を受ける国民の積極的意思表示が望まれます。