認知症医療、診療所の役割
宮城政剛・新川クリニック(2015年7月31日掲載)
「万歩計、半分以上が、探し物」。これは、高齢者が日常生活の一面を読んだ川柳集からの一句です。普通であれば、本人も周りにいる家族もストレスがたまるような側面を、川柳にして読むことで微笑(ほほえ)みに変える。これは日本人の知恵であると思います。
高齢者社会になるにつれ多くの方が心配され、なりたくない病気に認知症があります。認知症患者の数は、厚労省の報告によれば2012年で462万であったのが、25年には700万人まで増加し65歳以上の5人に1人が認知症となるといわれています。世界にも類を見ないスピードで高齢化が進み認知症患者数も増加したため国も対応に追われる形となっていました。国としてはオレンジプランと銘打ち高齢者認知症患者を支援する社会づくりをし、医療に関しては認知症疾患センターを各都道府県に整備、専門医を中止とした認知症サポーター医を養成、また一般診療に携わる医師を中心に“かかりつけ医認知症対応向上研修”をし、診療体制を整えています。
更に診断、治療を中心とした医療分野以外に介護分野では地域包括支援センターを整備、ケアマネージャーを育成、市町村の各役所で福祉課を充実させることにより認知症医療を総合的、複合的に治療、介護する体制が整いつつあります。
このように認知症を診療介護する体制が整ったため診療所でもかなりの事ができるようになってきました。当院での経験ですが、夫婦共に認知症の老夫婦で外来通院中、次第に認知の症状が悪化している方が居られました。ある時、急に問題が起こり緊急に妻の入所が必要になりました。認知症になる前より地域包括支援センターがフォローしていた夫婦で、問題が起こった日に当院にて地域包括支援センター、ケアマネージャー、那覇市役所の福祉部と合同会議を行い、その日で入所を確保することができました。
この経験から分かることは、認知症に対する知識が増え、それを共有することで医療・介護の質が上がってきているということです。
多くの家族が抱える認知症治療・介護の問題は、個々人の生活歴が多分に影響しているため単純ではありません。それ故に知識を提供し共有する、更に共に時間、空間を共有することが大切になっていると思います。健康で長寿社会を望みつつ、一方、物忘れがでても住みよい社会づくり。一医療機関として、その手伝いができればと考えています。
最後に拙句を一首
・物忘れ、ほほ笑み和む町づくり
お後がよろしいようで。