蛾類幼虫による皮膚炎
冨永 智・南部徳洲会病院(2015年4月10日掲載)
毎年4、5月は、タイワンキドクガによると思われる毒蛾(どくが)皮膚炎の患者さんが当科外来を訪れます。この幼虫の背面には黒い毒針毛(どくしんもう)が瘤(こぶ)のようにまとまって生えている部分があり、そこから毒針毛を採って顕微鏡で見ると、一本の毛の表面にさらに(魚を突く)もりの先端にあるかえしのような突起物がたくさん並んでいます。
このため、毒針毛の先端が皮膚に刺さった後、そこを擦ると、ますます皮膚深く入っていくことになります。ですから、毒蛾皮膚炎を疑った場合は擦らずに、まずは粘着テープで毒針毛を剥がし取ってからせっけんで洗うと良いことになっています。
私はこの幼虫を試験管に入れてピンセットで幼虫を軽くこすり、幼虫を取り出した後で、試験管に少量の水を入れて振り、その水を顕微鏡で見たことがあります。
一視野に毒針毛が何本も見えました。野外でも幼虫が植物上を歩く時、葉などに幼虫の体が触れた時に毒針毛が簡単に取れて幼虫が歩いた所に散乱しているはずです。
また幼虫の脱皮殻にも毒針毛が付いています。それらの毛は風で飛んで干してある洗濯物に付着し、それを着て毒蛾皮膚炎を起こすこともあります。4、5月に外に干してあった衣服を着て、チクチクかゆくなったらこれかもしれません。幼虫に直接触れた記憶がなくても被害を受けますので、厄介な問題です。
私は、毒蛾皮膚炎の患者さんが来院された場合、もう時間がたっていることがほとんどですので、普通の接触皮膚炎同様の治療を行います。
さて、沖縄で皮膚炎を起こす蛾類幼虫はタイワンキドクガだけではありません。イラガ科のハスオビイラガ、ヒロヘリアオイラガ、カレハガ科のマツカレハ、イワサキカレハがいます。イラガ科2種は外来種で、うち前者はイネ科の草やゲットウなどを好みますので、パラグラスという牧草にいた幼虫に酪農家の方が手を刺された症例を経験しています。
後者のイラガは街路樹のアカギ、ヒカンザクラなどを好み、発生の証拠として木の根元に扁平(へんぺい)な繭(まゆ)殻を見ることができます。これらのイラガ幼虫は十数年前は、野外である程度の個体数を私も見ましたが、最近は見かけません。
それに比べ、タイワンキドクガは減る気配がありません。私はこの幼虫を特にギンネムの花、そして花壇の花やバラなどで見かけますので、それらの餌が十分にあることも理由かもしれませんね。