陥入爪と巻き爪の誤解
椎名行夫・しいな整形外科(2015年3月27日掲載)
11年前のこの欄に「切らない治療も選択肢」として陥入爪(そう)と巻き爪について書きました。どちらも切らずに治す保存的治療が主流になってきています。しかし、この二つを混同している方がまだまだいらっしゃるので、陥入爪について詳しく説明することで誤解を解きたいと思います。
陥入爪は爪甲の側縁がその周囲の皮膚を傷つけて炎症を起こし腫れて赤くなり、痛みを伴うようになる疾患です。進行すると図のように出血しやすい肉芽を伴ってくる事もあります。主に第1趾(し)に起きやすい疾患ですが、手指や他の足趾にも起こることがあります。巻き爪とは違います。陥入爪の原因は爪が周囲の皮膚を傷つけることですから、多くは深爪をした後に起こります。深爪をしなくても爪が薄い若い人が足趾を何かにぶつけたり、窮屈な靴を履いて圧迫することで周囲の皮膚に傷をつけても起こります。
巻き爪のお年寄りが痛みを取るため爪の角を深く切ってしまうと、陥入爪を合併することになります。陥入爪になると多くの方が痛みを和らげるために、爪をさらに短く切りますが、一層重症化します。治療として、爪甲の側縁が生えないようにする手術やフェノールやレーザーで爪母(爪の出来る細胞)を破壊する方法がありますが、術後に醜悪な形態の爪となり、再発や多くの合併症を起こすことがあります。
原因が爪母にあるわけではないので、切る治療は全く理屈に合いません。爪甲の側縁がその周囲の皮膚を傷つけることが原因ですから、それを防げばよい訳です。早期で軽症の場合には、昔からある爪甲の下にコットンを詰める方法で治癒することもあります。先にも述べましたが爪甲の側縁を短く切る治療法は逆効果となる可能性があります。陥入爪が進行して肉芽が出来ている症例でも、インドのS・グプタが2001年に発表した、チューブを爪甲の側縁に被せる方法は合理的で治療効果も優れた方法です。ほかに合理的な治療法として日本皮膚科学会のHPには爪甲を長くするアクリル人工爪療法なども載っています
最後に陥入爪と巻き爪にならないための予防法を書いておきます。陥入爪の原因を作らないために第1趾の爪は絶対に深爪をしてはいけません。特に10代、20代の若者や一度陥入爪になった人、巻き爪の人は絶対に切ってはいけません。ヤスリで削りましょう。巻き爪の予防には、足趾の先に力を入れて第1趾で地面を押す様にします。