長寿遺伝子について
伊良部勇栄・南部訪問診療所(2015年3月20日掲載)
元気で長寿を得られたら、これは幸せなことでしょう。ところが、生物には寿命を延ばす遺伝子が組み込まれていることが、多くの研究で分かってきました。(ここでは、単純にして「長寿遺伝子」と呼びます)。
長寿遺伝子は、最初に酵母や線虫などの下等生物により確認されました。さらに、ほ乳類や霊長類まで、同等な長寿遺伝子が確認されています。では、人間が属する霊長類ではいつでも長寿遺伝子が働いているのでしょうか。これには、アカゲザルを使った有名な実験があります。
1989年から、ウィスコンシン大学で70%にカロリー制限されたアカゲザルと、カロリー制限のないアカゲザルとを比較した結果、体格は小さいものの、老化関連疾患(糖尿病、心血管疾患、悪性腫瘍、認知症)の発生頻度が減少し、それに伴い老化関連死も減少したと報告されました。これは、長寿遺伝子の働きと理解されました。では私たちにとって、長寿遺伝子と呼ばれているものは何でしょう。以下に個人的な意見をまとめてみました。
長寿遺伝子は、一つの集団がカロリー低下(飢餓)状態になったとき、感染症による死亡を補うため、個体を老化関連疾患から守り、栄養が改善するまで集団を維持するための遺伝子ではないでしょうか。一方で、栄養過剰(肥満)の状態では長寿遺伝子は発現せず、老化関連疾患を増加させ、寿命を短くしています。
近年の沖縄における老化関連疾患の増加と寿命の低下はこれを表していると思います。おじい、おばあが生きてきた沖縄県は生産力が低く、摂取カロリーも低かったと考えられます。おじい、おばあは体格は小さいですが、肥満は少なく元気で長寿でした。しかし食生活が豊かになった中高年から若年者では、体格は大きくなりましたが肥満は増加し、老化関連疾患が増加しています。
このように比較してみると、長寿遺伝子とは実は健康遺伝子であることに気付きました。アカゲザルの70%カロリー制限のような単純な方法は危険ですからできませんが、毎日の食生活に気を付けること、アルコールのとり過ぎに気を付けること、運動を心掛けることで肥満を避け、長寿遺伝子を発現させ健康を取り戻すことは、すべての人に可能です。若いうちは体格を大きくすることも大事です。しかし成長が止まれば、肥満を避けて健康を維持することが大事だと考えます。