生活習慣病としての便秘症

嶺章夫・あさと大腸・肛門クリニック(2014年6月20日掲載)

 「私って昔からすごい便秘なんです!」


 「あー、また便秘自慢がやってきた」。こんな言い方をしてはなはだ失礼ですが「便秘」について私はちょっとうるさいかも…。


 昔、専門病院で研修をした際、便秘等の排便障害について勉強せざるを得なくなった事がありました。医学書の便秘の定義は曖昧なもので客観性のある評価法は無く、国内外の文献を読みあさって東京女子医大の排便造影動画検査、メイヨークリニックの通過時間検査の二つの優れた論文を見つけました。この二つを組み合わせれば、「肛門近くで止まるのか?」あるいは「下まで流れてこないのか?」という排便障害の訴えを評価できると考えました。


 20年程前に始めた方法で帰省後もこの評価法を続けていましたが、最近はNHKの健康番組でも紹介されるような一般的評価法になっているようです。


 本題に戻りましょう。かくしてこの評価法を用いてたどり着いた結論は、皮肉にも排便造影や通過時間検査に異常がある方というのは、全体の数%以下にすぎないということでした。つまりほとんどの「便秘患者」は排便を我慢することによって起こる「直腸性便秘」だったのです。


 一般に、多くの人は排便を自分でコントロールできるという錯覚を持っています。排便を我慢することは括約筋を締める事で可能ですが、このために自律神経によりコントロールされている腸の蠕動(ぜんどう)が低下して便意が消えたり、糞便(ふんべん)の水分が余分に吸収されて硬く、コロコロになってしまう事を理解してはいないのです。


 賢明な読者諸君には察しがつくでしょう。ここで冒頭に戻るのです。機能障害を伴った便秘も無いわけではありません。しかし多くの便秘は自分で起こしているものが多いのです。好きこのんで便秘になる人がいるはずはありません。我慢をすると便秘になる事を知らないだけなのです。


 下剤で対応する事にも悪気など無い訳ですが、生活習慣で改善できる可能性がある事は啓発した方が良いと考えます。排便習慣に問題があるという事は受け入れがたい所もあり、説明しても時々かみ合っていないと感じる事もありますが、最近はこう言っています。


 「出したくなったら我慢しない方が良いよ~」「身体の声も聞いてね~」「社会生活も大変だけど、人間だって動物だよ~!」と。((徳の心の上に一)嶺章夫・あさと大腸・肛門クリニック)


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