進化と記憶力に関する雑学
田崎琢二・田崎病院(2013年8月19日掲載)
皆さんの物覚えは良い方でしょうか?
世の中にはずばぬけた記憶力を持つ人がいます。その中でもサバン症候群は有名で、彼らをモデルに映画化された「レインマン」の主演をダスティン・ホフマンは見事にこなしていました。サバン症候群は自閉症などの発達障害の方に多く、瞬時に見たものを覚える驚異的な記憶力(映像記憶)やカレンダー計算能力(何年何月何日は何曜日か?の質問にコンピューターより速く答えられる)を持つ方々がいます。
円周率の記憶桁数が世界一のダニエル・タメット氏によるとその計算法は数字ではなく、普通では理解できない独特の図形によるもので説明されており、計算というよりも感覚に近いもので解いているらしいのです。カレンダー計算とは言っても、計算ではなく、答えを感じるという方が適切かもしれません。まさに超人的な能力です。ダニエル氏の書いた「僕には数字が風景に見える」は彼ら天才を理解するにはとてもわかりやすい本です。
しかし、そんな彼らは、驚異的な能力と引き換えにコミュニケーション障害を中心にした種々の生活障害のある方も多く、天才である彼らも悩みを持っているのです。
さて、京都大学霊長類研究所にいる天才チンパンジーの「アイ」は画面に映し出された10個の数字を瞬時に記憶できるそうです。普通の人間よりはるかに記憶力が良く、まさにサバン症候群に近い能力を有しているというのは驚きです。進化論的に考えると、ヒトより劣っている、いや進化していないはずのチンパンジーが優れている? 脳科学者によると鳥類にも同様な記憶力があるらしいのです。
それでは人間は立場がありません。でもご安心ください。日常生活の中で、我々の脳は何でも記憶するという事をやめて、その特徴を覚える事により、正確、緻密さより簡略化、手軽さ、速さを優先させているらしいのです。例えば漫画による似顔絵があります。似顔絵はその実像とは異なるにもかかわらず、誰が見てもその人だとわかってしまう。その人の顔の特徴を捉え誇張して描いているのです。
私たち、ヒトの脳は、情報量の多い丸覚えではなく、ポイントを押さえる事により、簡略化された情報にして脳の中でより柔軟に物事を考え、多くの事に応用できるようになっているのです。どうでしょうか? 記憶力の悪い事が進化の証しとさえ感じられてきたのではないでしょうか。