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APDEC2013 Asia-Pacific Diabetes, Epidemiology,
and education training Course に参加して

湧田健一郎

中頭病院 湧田 健一郎

皆様はじめまして。私は2003 年に順天堂大 学を卒業し、今年4 月より、中頭病院、代謝内 分泌内科に勤務しております。

今回は、APDEC(Asia-Pacific Diabetes,Epidemiology,and educationtraining Course)というトレーニングコースに出席し、 とても感銘を受けましたのでご報告いたします。

このトレーニングコースを知るきっかけとな ったのは、所属する日本糖尿病学会から、同ト レーニングコースの参加者を若干名募集すると の知らせを受けたことでした。条件は、年齢制 限、英語での会話ができること、のみであった ため、日頃から有意義な勉強の機会があれば積 極的に参加したいと思っております自分にとっ てはまたとないチャンスだと思い、早速レジュ メを作成し応募してみました。数週間後、主催 者側からメールが届き、参加できる旨を確認し ました。詳細内容に関しては主催者側、日本糖 尿病学会からもそれほど伝えられず、私の行った準備としては英語のブラッシュアップ程度で した。日々の勤務の忙しさもあり、月日はあっ という間に経過し、出発の日となりました。期 間は2013 年8 月25 日から8 月30 日までの5 日間、韓国のソウル大学内にあるHoam Faculty House という施設で泊まり込みのトレーニング でした。現在は観光地として日本人にも人気の 高いソウルですが、実は私にとってははじめて の訪問だったので、全く状況が分からず、本な どでの簡単な情報を頼りに状況を想像しまし た。スリに注意、タクシーで騙されやすい、設 備が充実しておらず不便である、などと、勝手 にマイナスな雰囲気を想像していたのですが、 実際、ソウルに到着し、自分の勘違いの甚だし さに呆れてしまいました。到着してみると、日 本の都市とほぼ同等、全く不便はありませんで した。インターネットに関しても非常に整備さ れており、皆スマートホンを使用していました。 ソウル金浦空港に到着後、全く行き方もわから ないので、案内所で確認すると、英語よりもむ しろ日本語が通じたことで、これまたびっくり。 なるほど、いかに日本人観光客が多いかが伺え ました。空港よりバスにてソウル大学に到着後、 タクシーを利用し、(校内は広く、正門入口か ら施設までタクシーで10 分近くかかりました。) なんとか会場、宿泊施設に到着しました。

チームメイトとのディスカッション

到着当日はwelcome reception が開催され、 主催者、講師の先生方の挨拶などを聞いた後、食事となり、私の所属するグループが発表され ました。今回の参加者は約37 人、指導員、約 19 人で、計6 つのグループに分けられ、私の所 属するグループ4 には7 人、出身国は私以外に タイ、マレーシア、香港、モンゴル、中国、韓 国と様々でした。翌日より早速授業が開始され ましたが、朝は8 時から15 時までが講義、そ の後はグループに分かれ、グループディスカッ ションを18 時過ぎまで行うといったかなり内 容の濃い日程でした。(グループディスカッシ ョンは連日行われ、最終日にプレゼンテーショ ンを行い、優秀なチームを表彰するといった内 容になっていました。)講義では疫学、統計学、 糖尿病に関しての遺伝子疾患など非常に多彩 で、奥深い講義が、著名な講師の先生によって 行われました。正直卒業後10 年間臨床畑に身 を置いてきた自分にとっては、疫学、統計学と は全くと言ってよいほど無縁で、かろうじて論 文を読むときに参考にする程度でした。しかし、 今回の講義を通して、臨床結果を如何にして統 計学を用いつつ観察し、有意差を評価し、応用 していくかを学ばせていただきました。私にと っては、それはあたかも、現状を未来につなげ、 反映していく方法を学んでいる感覚で、非常に 興味深く拝聴しました。更に驚くべきことは、 参加者(話しかけた中ですが、おそらくは半分 以上)は研究に特化している方は少なく、だい たいは臨床の第一線で働いている医師、看護師、 栄養士、その他のコメディカルの方々で、何れ も高いプロ意識を持ち、疫学、統計にも精通し ており、積極的にこのような国際カンファレン スなどに参加し知識を高め、自分の地域に還元 することに精進している方々ばかりだったとい うことです。彼らと机を共にする中で、日々の 雑多な仕事に追われ、基礎的な分野から目を背 けていた自分を反省することができ、また、持 っていた臨床≠疫学の偏見が自分の中で明らか に崩れ去っていくことを感じました。臨床医と して大切なのは一人一人の患者さんをしっかり 診ていくことには変わりはありませんが、それ とは別に過去、現状を把握し、未来につなげていく全体的な目を持つこともやはり重要なこと だと改めて痛感しました。さて、そのような濃 密な講義が5 日間続き、最終日にチームディス カッションの成果であるプレゼンテーションが 行われました。チームディスカッションは、研 究テーマを設定し、対象患者、観察項目、追跡 期間等を決め(架空のもの)、推察、研究デザ イン、アウトカム、方法の作成等を4 日間で行 い、5 日目にプレゼンテーションするというも のでした。先ほども申しました通り、研究とは 無縁であった私にとっては非常にハードで、あ る意味、自分に対する挑戦とも思われるディス カッションとなりましたが、とても優秀で積極 的な仲間に支えられ、何とか成し遂げることが できました。テーマは、兼ねてより私の興味の あった「食事と、糖尿病の関係」の意見が採用 され、「玄米、白米の2 型糖尿病患者における 影響」で決定しました。アジア、特に環太平洋 地域において、いかに大量に白米が摂取されて いるかに触れたうえで、この研究が我々の人体 に大きく影響を及ぼす可能性を示し、2 型糖尿 病患者に対して玄米、白米の影響の違いを探る といった内容でした。推論としては白米と比較 して玄米摂取をした群がヘモグロビンA1c の低 下が期待できるといったものでした。日々の綿 密なディスカッション、チームワークの良さも あり、プレゼンテーションは非常に好評で、我々 のチームは優勝を勝ち取ることが出来ました。

今回のトレーニングではまるで学生時代に戻 った気分で打ち込ませていただき、勉強に集中できる楽しさ、有難さを実感できたとともに、 疫学、統計学という自分にとって縁遠かった、 そしてとても重要な分野に気付かせていただき ました。医師として働き始めて10 年が経過し、 日々の業務に忙殺される毎日となりがちでした が久々に「学び、成長することは楽しい。」と いう原点に戻り、学問の大切さを再認識する非 常に良い機会となりました。今後もこの気持ち を忘れず勉強を続け、日々の臨床に役立ててい きたいと思います。

我々のチームで作成した研究デザイン

最後に、このような素晴らしい機会を与え てくださった主催者であるKorean Diabetes Association(KDA)、International Diabetes Federation(IDF)の皆様、ご紹介してくださ った日本糖尿病学会様、留守中に病院業務を負 担していただきました中頭病院、ちばなクリニ ック代謝内分泌内科の医師、看護師、コメディ カルの皆様、そして、家族に感謝いたします。

チームメイト、チューターとの集合写真