理事 玉井 修
平成25 年5 月9 日(木曜日)沖縄県医師会 館においてマスコミとの懇談会が開催されまし た。今回のテーマは「若年性認知症について」 です。講師は公益社団法人認知症の人と家族の 会沖縄県支部準備会代表の金武直美さんです。 現在沖縄県だけ正式な家族会が発足していない ため、認知症に関する様々な情報は得にくい状 況にあり、認知症加療に関する環境整備はまだ 充分ではありません。特に今回のテーマである 若年性認知症は65 歳未満という働き盛りの年 齢に発症するため特殊な問題が絡んできます。 今回の懇談会でも話題となりましたが、40 歳 未満では介護保険が使えないため身体障害者手 帳の交付を受けて社会保障制度を利用するとい うパターンが多いそうです。未成年の子供を含 めた家庭を抱え、社会保障がとても必要となる 事が容易に推測できる若年性認知症とその家族 のためにより現実的な社会保障の整備が急がれ ます。映画やテレビにも扱われる事が多くなっ てきた若年性認知症ですが、まだまだ一般には 理解されず、本人の怠惰やうつ病と誤解され適 切な治療に結びつかない現状がまだまだ多いと の事です。沖縄県において今後マスコミ等も通 じて理解を拡げ、適切な医療に結びつけ、本人 と家族が適切な社会保障を利用できる環境整備 が必要です。
マスコミの反応も非常に大きく、参加者も多 く、議論も白熱しました。
懇談事項
<若年性認知症とは 図1 >
18 歳以上65 歳未満で 発症する認知症の総称 であり、2009 年3 月発 表の厚生労働省の調査 結果(朝田隆研究班)に よると、全国で37,800 人の患者がいるとされ ています。65 歳以上で発症する高齢者の認知症 と同様に、脳血管障害やアルツハイマー病、前 頭側頭型認知症、レビー小体型認知症などによ って、記憶障害、言語障害などの症状が現れま すが、高齢者ではアルツハイマーが最多である のに対し、若年の場合は脳血管性認知症、頭部 外傷などの割合が多くなるのが特徴です。
図1 若年性認知症とは
<日本での若年性認知症の歴史>
2004 年の国際アルツハイマー病協会 第20 回 国際会議(京都)で、クリスティーン・ボーデ ンさん、越智俊二さんが本人として発言、2006 年、映画「明日の記憶」で若年性アルツハイマ ー病の名称が一般に普及し始めました。2001 年、 若年性認知症の家族会「朱雀の会(奈良市)」、「彩 星(ほし)の会(新宿区)」が、2005 年には愛都(アート)の会が設立され、今では、全国に30 以上 の家族会および支援団体があります。
<沖縄県の若年性認知症>
若年性認知症をもつ人の数は、約380 人また は840 人と推計されますが、まだ診断されてい ない人を含めると、この3 倍の人数になるとも 言われております。県内の実態調査はまだ行わ れておらず、今年度、私の研究の一環として調 査を実施致します。
<若年性認知症を持つ人と家族の困り 図2 >
働く世代、子育ての世代、老親介護の世代、い わゆる責任世代の人が認知症になると、家族全体 が大きな影響を受けます。認知症になり就労困 難となると経済的に困窮し、子供が小さければ 子供の養育も難しくなります。また、孫世代が親・ 祖父母の複数名を介護(介護の多重化)、小中学 生の子供が親をサポートする、80 歳代の親が50 歳代の子供を介護するというケースも。コミュ ニティが小さい離島では、周囲に知られたくな いために家族会に参加できず、協力を得られず 孤軍奮闘しているケースもあります。前出の調 査では、若年性認知症の介護家族の約6 割が抑 うつ状態にあるとされ、約7 割が「収入が減った」 とし、周囲の理解がないことによる、本人や家 族のストレスもいまだ大きいのが現状です。
図2 若年性認知症を持つ人と家族の困り
<支援サービスがない! 図3 >
若年性認知症をもつ人は、まだまだ体力もあ り、仕事や役割をもちたいと考えておられ、高 齢者中心の介護保険サービスには馴染みにくい ようです。施設側も高齢者とは違うニーズを持つ若年性認知症に戸惑うことも。
また、認知症と気づかれにくく、うつと間違 えられていることも多々あります。利用できる 制度は少ない上、知られておらず、利用するに も窓口が多岐にわたり、使いにくいものとなっ ています。県内には、若年性認知症専用の福祉 サービスはありませんし、他府県にあるような、 認知症コールセンター、若年認知症ハンドブッ クもありません。
図3 支援サービスがない!
<2012 年4 月沖縄にも若年の集いが! 図4>
「高齢者の認知症とは問題が違う。若年性認 知症の理解もすすんでいない。同じ立場の人と つながりたい!」とのご家族の要望から、「若 年性認知症の家族の集い」を立ち上げました。 その後、若年性認知症をもつ人本人同士の交流 会も同時開催とし、今では約30 組の家族、50 人以上の専門職サポーターが本会につながって います。
図4 2012 年4 月 沖縄にも若年の集いが!
<医療職の皆様へのお願い>
認知症の人と家族の会では、集い事業のほか、 受診、介護、就労継続についての電話・訪問相談、 講師派遣、講座開会などの事業も行っておりま す。認知症をもつ人やご家族に、家族会の存在 をお伝えください。
琉球大学医学部保健学科精神看護学研究室内
「家族の会」沖縄県支部準備会
(担当:金武(かねたけ))
電話:098-895-3331 (内線2619)
学術的には65 歳以上 を老年期認知症、40 〜 64 歳までを初老期認知 症、18 〜 39 歳の認知症 を若年期認知症と分類 します。しかし40 〜 64 歳というとまだ働き盛 りで元気の方も多いので、18 〜 64 歳を若年性 認知症(または若年認知症)と総称しています。
若年性認知症は昔からある概念です。1906 年 に報告された世界最初のアルツハイマー型認知 症の女性例は46 歳で発病し56 歳で亡くなりま した。この方も若年性認知症です。
若年性認知症が十分知られていないため、家 族も認知症とは思わず、さらに簡易検査では異 常を認めず診断がつくまでに時間がかかること があります。
当院でも10 以上の医療機関を受診してようや く診断にたどり着いた方を経験しています。
若年性認知症の原因にはアルツハイマー型認 知症の他に、脳血管障害も少なくありません。 近年、若い方の心臓脳血管障害が増加傾向にあ ることはみなさんもご存知でしょう。食習慣の 欧米化や運動不足、肥満など生活習慣の問題が 要因の1 つに挙げられます。交通事故や種々の原因による頭部外傷後遺症も認知症を生じる場 合があります。前頭側頭型認知症も少なくあり ません。前頭側頭型認知症は、中等度から重症 にならないと記憶障害が現れず、当初は、性格 変化や行動異常、非道徳的行動が症状の主体に なり、統合失調症や性格障害などと誤解される ことがあります。初期には簡易認知機能検査や 画像検査が正常な事もあり、特異な行動症候が 明確だと診断は容易ですが特徴的症状が乏しい と診断が難しい場合があります。ご家族から生 活の様子を詳しく聴くことが重要です。
認知症は進行性の疾患で、記憶障害と1 つ以 上の認知障害があり、社会生活や職業生活に明 らかに支障がある状態をいいます(図1)。「職 業生活に支障があること」ということは大切な ポイントです。例えばパイロットのように職業 上、きわめて高い認知能力を要求される方が、 軽い脳卒中や交通外傷などで進行性の注意力障 害や短期記憶障害を生じて、仕事に支障が生じ たら、日常生活には支障がなくても、「認知症」 と診断されます。近年、話題になる「高次脳機 能障害」とは、進行性かどうかが認知症との違 いになります。
図1
認知症は予防できないと思われていますが、 脳血管障害による血管性認知症はもちろん、脳 神経に異常がおきるアルツハイマー型認知症も 日常生活習慣がその発病に関係していることが 近年の研究でわかってきました。
メタボリックシンドロームを図式化した、メ タボリック・ドミノを図2 に示しました。生活 習慣から始まり、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病の最後には、糖尿病合併症の透析や失明、 脳卒中、虚血性心疾患とならんで認知症があり ます。これだと脳血管性認知症だけが関連して いるように見えますが、アルツハイマー型認知 症の発病の危険因子に、生活習慣病、運動習慣 が少ないことなどの日常生活習慣が大きく関わ っています。過剰飲酒も認知症の要因になります(図3)。
図2
図3
糖尿病や高血圧と認知症の発病に関する研究 が進んでおり、東京都長寿医療センターの荒木 医師は「認知症は糖尿病の合併症である」と報告しています(図4)。
図4
数年前から問題となっている、沖縄クライシスの状況では、沖縄県民の生活習慣病、長寿の 問題とともに、認知症の増加が懸念されます。
残念ながら認知症は進行性の疾患で薬を使っ ても少しずつ進行します。初期診断の時期から途 中経過も含めて終末期を想定した治療やケアー を考えていく必要があります。
認知症になって記憶は薄れても、感情は残ると いわれています。認知症になっても、できること も多いので、いろいろな事にチャレンジしてほし いと思います。ご家族との楽しい時間、大切な思 い出をできるだけたくさん作ってください。
若年性認知症では、子どもがまだ小さかった り、思春期だったりすることもあります。子どもたちやご家族へのメッセージを手紙やビデオ レターで折に触れて残しておいてほしいと思います(図5)。
図5
質疑応答
○玉井理事
若年性認知症は老齢の方の認知症とは違う事 がわかりました。実際、認知症の治療をして、 若年性認知症の方の特徴的なことや課題などは ございますか。
○城間先生
当院でも若年性認知症の方がいらっしゃいま すが、当初はうつ病と思ったり、物忘れがある が正常範囲と思われたり、同じ専門医同士で紹 介もありますが、なかなか診断が難しいです。
MRI をとって、通常の検査をしても診断がつ かない場合が多いです。丁寧に話を聞いて、詳 しく検査しないと、診断を誤ってしまったりします。
○玉井理事
今は、認知症は治療薬がありますよね。認知 症治療薬は若年性認知症に効くのでしょうか。
○城間先生
今の治療薬は4 種類出ており、若年性認知症 にも効きます。高齢者と同じアルツハイマー病 でも、若年性認知症は進行が早いなど効果や経 過が異なることがあります。
○秋山氏(琉球朝日放送)
脳血管性認知症とは、 病気が引き金となって 起こるものなのでしょ うか。何が原因となって いるのでしょうか。年齢 や性別の偏りはあるのでしょうか。
○金武先生
若年性認知症は性別では、男性の方が多いよ うです。男女とも、年齢が高くなるほど、有病 率が高くなっていきます。
○城間先生
統計では脳血管性認知症が4 割と出ておりま す。実際の内訳は出ていないと思います。推測 で申し上げるのはよくないと思いますが、若い 方の脳血管障害、心血管障害が増えていると思 います。生活習慣の欧米化の問題もあります。 歌手の徳永英明氏のようにもやもや病という脳 血管の先天的な異常で若い方で脳出血を起こし てしまうことがあります。脳出血が重症だと脳 血管性認知症になってしまうことがあります。 40 代前後で脳卒中を起こし若年性認知症となっ てしまいます。
○玉井理事
脳血管性認知症の場合はアルツハイマー病と 違って特徴的なことはありますか。
○城間先生
脳血管性認知症では、感情が不安定になった り、怒りやすかったり、またご自身の病状を理 解しています。そのため、気分が沈んだり、反 動で家族にあたったりするなど症状の違いがあ ります。アルツハイマー病の場合は、物忘れが 先に進行してしまうので、病気のことも早く忘 れてしまって、対応が適切であれば上機嫌で過 ごすことが多いです。脳梗塞を発症したことで、 脳の老化が早く進んで結果としてアルツハイマ ー型認知症を発症することがあります。脳血管 認知症とアルツハイマー型認知症の両方の混合 型認知症を生じる方もいます。
○長濱氏(琉球新報)
40 歳未満の方は、介 護保険さえ使えないと いうことで、障害者手帳 を取得されているとい うことですが、障害の分 類は知的障害に分類さ れるのでしょうか。
○城間先生
認知症による認知機能障害ということで、知 的障害ではなく、精神の障害手帳となります。 障害手帳があるといろいろなサービスを受ける ことができます。そのためには精神科に受診し なくてはなりません。意思をしっかり持ってい る方は、ご自身の障害手帳を発行してサービス を受けましょうと申し上げても精神障害という ことで申請をためらう方もいらっしゃいます。
○長濱氏(琉球新報)
ということは、若年性認知症は精神疾患となるのでしょうか。
○金武先生
障害者手帳は、身体障害か精神障害の2 つで、 おおざっぱに言うと、脳の障害か身体の障害か で分けているだけなのです。
○長濱氏(琉球新報)
県外には認知症コールセンターや認知症の人 の為のハンドブックがあり、県内にはないとい うことですが、沖縄だけないのか、別の地域も 未だ対応されていないのかお聞きしたいです。
○金武先生
正確に把握はしておりませんが、他府県では 半数がハンドブックを発行していると思います。 コールセンターは7 〜 8 割ぐらいではないでしょうか。
○玉井理事
今日は準備会の代表として参加して頂いてお りますけど、認知症の人と家族の会がないのは 沖縄県だけですよね。県も作るつもりで支援し ているのですか。
○金武先生
会員が100 人を超えたら県支部として認めら れるという規定ですが、現在75 人ぐらいです。去年度は県から地域支援体制つくり事業助成金 を600 万円ほど頂いて、若年性認知症のサポー トをしておりますし、離島のご家族ご本人に旅 費を出して、本島での集いに参加頂いています。
○玉井理事
早く家族会が早くできることを願っています。 何かほかにご質問ございますか。
○平良氏(エフエム那覇)
若年性認知症の過去のことを知りたいと思っ ています。今はドラマで 社会化したと思います。 ドラマ「純と愛」のお母 さんもそういう設定だ ったと思います。言葉の 社会化は随分進んでき ており、これが生まれる ことで世の中が問題だと気付いてくれて解決に 向かうことがあると思います。ストーカーとい う言葉は昔はなかったと思いますけど、同じこ とはずっとあったと思います。ドメスティック バイオレンスもそうだと思います。
若年性認知症が最近の病気なのか、過去にも 同数ぐらいの人がいたのか知りたいです。
また、解決に向けて、どういう制度であるべ きなのか、病気になると必ず家族のケアの問題 が出てくると思います。その時に家族会のサポ ートは今までの他の病気の家族会の在り方でい いのか、聞きたいです。
○城間先生
そもそもアルツハイマー病の最初の報告は 1906年です。最初の患者さんは56歳の女性です。 今で言う若年性認知症です。若年性のネーミン グが問題となっていますが、学問的には65 歳以 上を老年期認知症、40 〜 64 歳を初老期認知症、 40 歳未満を若年期認知症と分類していました。 40 〜 64 歳を初老期といっても壮年期に近いの で時代にマッチしない、65 歳以上については啓 発活動が進んで認知症となって、65 歳未満につ いては若年性認知症の一括りになっています。
100 年前に病気が報告されてから研究は進ん でいます。病気自体は前からあるのですが、ま だまだ周知されていません。医療機関を10 件近く回ってやっと診断がついたという事例を経験 しています。
制度の問題は、現状では身体障害と精神障害 で分かれています。脳卒中の中等度以上の後遺 症や麻痺があれば身体障害の手帳を発行できま すが、後遺症が少ない場合は精神障害の手帳を 発行して本人をサポートする。どちらがいいと かではなくて、本人や家族をサポートする手段 として使い分けています。
金武先生
ご家族は、認知症が精神疾患に入るというこ とに違和感をもつことが多いようです。脳の病 気であり、こころの病気ではない。精神科に通 院することが恥ずかしいなどという理由で、精 神科は敷居が高いようです。まずはそれを取っ 払わないと。精神科のイメージを変えるために、 病院やクリニックはもの忘れ外来や脳ドックな どに名前を変えています。いっそ、高次脳機能 障害のような名前を付けてくれると受診しやす いのではないでしょうか。家族は精神障害手帳 にショックを受けられます。
65 歳で分けているのは、国の高齢者の定義も ありますが、もう一つは、年金をもらえる年代 で分けているかとも思います。65 歳以上は、年 金も貰って仕事もリタイヤしていますので、元 気であれば悠々自適な生活だと思います。そう でない若い人の認知症は家族全体に影響します。 私たちがサポートしている方々の中には、小さ い子供がいる方もおられ、養育費や教育費もま だまだお金がかかる時期です。
本来の家族会は、先輩家族が自分の体験を、 今困っている人のために活かしたいという、家 族が中心の会ですが、実は本会の世話人の殆ど が専門職です。沖縄県には公的な若年性認知症 サポートがありませんので、今は家族会がそれ を担っているのです。講演会や6 時間の若年性 認知症サポーター養成講座なども行っておりま すし、受診や介護、就労継続支援のための電話 や訪問での相談も受けております。どのように 会社側と話し合ったらいいかを助言し、時には 人事課との話し合いに同席するなどのサポート もしています。
○島袋氏(琉球放送)
準備会は若年性だけ でなくて、全体の認知 症のサポートですよね。 100 人超えたらというこ とですが、いつ頃を予定 しておりますか。また、 若年性のサポートに対 して先進県はありますか。
○金武先生
沖縄は、「(公益社団法人)認知症の人と家族 の会」の支部がない唯一の県です。現在は設立 準備会であり、来年6 月の全国総会での承認に 向けて体制を整えているところです。
先進県は、若年認知症サポートセンター(東 京都新宿区)、朱雀の会(奈良市)、若年認知症 サポートセンター絆や(奈良市)、NPO 町田 市つながりの開(東京都町田市)空知ひまわり(北 海道)などです。これらは、全国若年認知症家 族会・支援者連絡協議会でつながっており、本 会も連絡会に団体会員として加入しています。
サポートセンター「絆や」、NPO 町田市つ ながりの開は、草刈や庭の手入れ等を請け負っ て給料をもらい、若年性認知症をもつ人が社会 に参画するためのサポートをしています。
○大城氏(エフエム沖縄)
57 歳の方が実例で出 てきたので疑問に感じ たのですが、単純計算で 退職まで3 年近くある 状況で仕事を続けたい という本人の意思があ って、職種を変えてでき たということですが、続けたいと思ってもそれ を理解してくれる職場がどのくらいあるのか教 えてください。
また、認知症として診断されて、自分自身の 意思で決断を下す時(財産の名義変更する場合 等)、銀行とか、生命保険会社がその人の判断か どうかをどういうふうに見極めているのかが気 になりました。つまり認知症の診断を受けて、 銀行や保険会社は判断に悩むと思いますが、そのあたりはどういうふうにされているのか教え てください。
○金武先生
認知症本人の意思であるかどうかの判断につ いてですが、サインできるかできないかが線引 きになっていたりします。厳格にいうと、判断 可能な状況か、検査などをしてということにな るのでしょうが、それはなかなか難しいところ です。
○玉井理事
職場は配置替えなど受け入れてくれますか。交渉はしやすいですか。
○金武先生
若年性認知症についての理解が進んでいませ んので、交渉しにくいと感じています。人事課 との交渉に同席しましたが、国のソフトランデ ィングの方針を伝えたり、家族会も関わってい ることを示すことで、不当な扱いにならないよ う、やんわり圧力をかける場合もあったりします。
もちろん、ずっと本人を抱え込むことは職場 にとっては負担でしょうし、認知症が重度にな ってもということではなく、本人の心の整理が つくまでの一定期間、単純作業や草刈り作業な ど、皆にサポートして貰いながら仕事ができる 期間の雇用継続をお願いしたいのです。雇用保 険でジョブコーチなどの制度が使えますので、 会社の負担を軽減することが可能です。でも公 務員は雇用保険に加入していませんので、ジョ ブコーチは使えません。
労働組合が強い場合はいいのですが、小さい 組織で労働組合組織が弱い場合は、なかなか味 方になってくれず、ご本人と家族が雇用側を相 手に孤軍奮闘するというケースもあります。早 く辞めろと言われるところもあれば、長い付き 合いの人だから定年まで続けさせてあげたいと いうところもあり、ピンきりです。職場に迷惑 をかけられないとご自身から引かれることも多 いようです。
○中野氏
(認知症の人と家族の会沖縄県支部準備会)
労働基準法で不当な 解雇は、法で守られて いるというのは良く知 っていると思いますが、 病気になって医師の診 断書があれば、休暇中に 整理していくなど家族 会としても進めていっています。正直休暇でさ えも難しい、労働基準法で守られていても就業 規則が会社の規則ですので、あなたの勤めてい る会社はどういう規則なのかが問題になってき ます。現在、県内の休暇を頂ける企業がどのぐ らいなのかを調査中で、明らかな数字は持って これませんでしたが、中小企業はやはり厳しい です。退職金があるかと同じぐらい、大規模で あれば、休暇も頂けるし、小規模であれば難し いのを肌で感じています。
○城間先生
認知症になった場合、保険などの名義変更と 就業について聞かれていましたが、大城さんが 質問されたことのバックグラウンドに認知症は 即ち判断能力がないと思っていらっしゃるので はないでしょうか。認知症は徐々に進行してい くので、細かい検査をして認知症と診断されま す。通常の簡易知能検査はほぼ正常です。初期 や軽度の患者さんだと詳しい検査をしてようや く診断がつきます。認知症でも初期や軽度の方 は、皆さんと同じように状況に応じた判断能力 があり、自分の意見を言うことができる方も少 なくないです。海外では半年ごとに検査をして 自動車運転免許証を認めている国もあります。 日本は判断能力があっても認知症ではすぐに運 転停止になり生活上さまざまな支障があります。 判断能力は徐々に落ちていくので、本人の能力 に応じた仕事をして頂く。職種を変えると新し い事を覚えるのが難しいので、同じ業務をする など会社がサポートしてほしいと思います。
○玉井理事
それでは、これにて第1 回マスコミとの懇談 会を終了します。ありがとうございました。