1 年が経つのも早いもので、2 回目の編集後 記担当となりました。6 月号は幸か不幸か、1 年で最重量級ものの内容となっています。おの ずと気合も入ろうと言うものです。さて、まず は表紙からです。原国先生の3,000 メートル級 のアルプスをトレッキングした時の一枚で、突 然に天空に現れた雲のショットは見事の一言で す。2 日間の高所トレーニングの前準備が必要 だったということで、厳しさを感じます。絶妙 なタイミングで、世界最高峰エベレスト(8,848 メートル)に80 歳で3 度目の登頂を目指す冒 険家の三浦雄一郎さんが16 日、ベースキャン プ(5,350 メートル)での高所順応を終えてア タック態勢に入るというニュースが飛び込んで きました。こちらは想像をはるかに超える世界 ですね。6 月号が皆さんのお手元に届くころに は、エベレスト征服のニュースが話題になって いると思います。
さて、報告でまず印象的なものは平成24 年 度医療政策シンポジウムです。これからの社 会保障を考えると題して、3 名の経済学者が講 演をされています。金子教授は、TPP 以前に 社会保障制度は問題が発覚した80 年代に将来 的に維持できるように作り変えるべきであった が、問題の先送りの付けが現在である。皆保険 制度が望ましいが、社会保険料の未納者が多い と言うことは、皆保険が崩れつつあるというこ とで、TPP の前に皆保険が崩れることを危惧 された発言です。佐伯教授は、皆保険制度はあ る程度自由を犠牲にする制度であり、混合診療 は利潤追求原理で選択の自由がある制度で、考 え方そのものが違うと述べ、利潤原理を認めて しまうと、結果として皆保険は崩れるとの発言 です。日本は米国の自由選択を超える皆保険制 度の価値観を再認識するべきだと強調されてい ます。医師会も皆保険制度を守るための理論武 装が必要であるとも述べていますが、TPP で 混合診療が解禁され、医療格差が起こる前に、 国民にその違いを示し、皆保険を維持するため には、社会保険料の納付をはじめとした国民の 協力が不可欠であるなどの説明が重要というこ とと理解しました。
報告「沖縄県医師会糖尿病市民公開講座」で は、益崎教授の糖尿病ってどんな病気?は面白 い。人類の祖先は飢餓から身を守るために、栄養を蓄える貯蓄体質を備えてきた。これに対し 現代人は便利な環境(飢餓の期間がない)の中 で貯蓄体質だけを引きついできた、おのずと肥 満が増え糖尿病になるのだという説明はわかり やすく印象的でした。やはり身体を動かすこと、 意識的な運動が必要ということでしょうか。司 会の石川理事は県医師会の全理事に万歩計を持 たせた運動を始めました。その効果が期待され るところです。
報告「クレームマネージメントで患者満足を たかめましょう」では、真栄田常任理事は講師 の井手口先生を絶賛されて、クレームマネージ メントを身に着けることは、患者満足度を高め るのみならず、医療訴訟を減らすことにもつな がると述べました。まさしく、転ばぬ先の杖で しょうか。
マスコミとの懇談会「看取り」は講師の二方(看 取りを実践している)、マスコミ、医療側がそ れぞれの考え方を述べて、印象深い懇談会とな りました。我が国は大家族から核家族になって、 その弊害の最たるものが「看取りの問題です」。 亡くなる人の約80%が病院で死を迎える現状に 皆が疑問を持ちつつも、それを解決できないこ とにいら立つわけですが。子供たちが、人間が 老いて、死を迎える過程を経験できない現代、 死生観を最も手っ取り早く教育できた大家族時 代(形は違う)に戻る必要があるかもしれません。 船越先生の、お年寄りが気楽におしゃべりに来 れる、もっと暇なクリニックがあってもいいの ではという提案に私も賛成です。私の外来に来 られるお年寄りの大半はおしゃべりを目的に来 られていると言っても過言ではありません。私 は田舎の、年寄りの多い環境で育ったから、人 間が老いて亡くなっていく過程を見る中で死生 観は自然に醸成されたように思います。我々の 医学部時代にはあまりありませんでしたが、医 学部の卒前教育の中に、死生観や看取りといっ たノンテクニカルスキル授業をもっと増やす必 要があると考えています。ここまで書いて私に 与えられた文字数が限界にきました。今回は質 量ともに読みごたえのある会報誌となっていま す。文章力がないためにほかの論文のコメント が書けなかったことを陳謝します。
広報委員 本竹 秀光