沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 6月号

男の妊娠出産

長田信洋

県立南部医療センター
こども医療センター
長田 信洋

手術室のベテランナースが妊娠出産のため休 職することになり、オペ室内でささやかなお別 れパーティーが開かれた。参加者一人一人がお 祝いの言葉を述べ、生まれてくる子の性別や子 育ての苦労にまつわる話など、悲喜こもごもの 話題で盛り上がった。多くは「女性は大変だよ ねー」という視点での話であったが、その中で 男性看護師が、「妊娠出産の気分ってどんなも のかなー」と、経験できるのなら経験してみた いようなことを口走り、皆から「ホントかよー」 と嘲りの眼差しを受けていた。その時「男の妊 娠出産」というテーマの記事を、昔Lancet だ ったと思うが、医学雑誌の中で読んだ時の記憶 がよみがえり、それを皆に振ってみた。

「アンケート調査をすると、米国では20〜30 代の男子の4 割近くが妊娠出産を経験してみたいと答えているらしいよ」。

「へーそうなの」。

「そのため、それを本気で研究している人た ちがいて・・・・・」と、決して夢物語ではな い話を披露した。

研究者たちによると、男性の骨盤は女性と比べて狭いため、骨盤腔内に受精卵を着床させて も満期までは持たないとのこと。そのため考え られている男性妊婦の着床場所がなんと陰嚢。

昭和30 年代の銭湯ではフィラリアに感染し た大きな○○をかかえた人を見る機会があった が、今では知っている人も少ないあれだ。陰嚢 は10 カ月の胎児を抱えるくらいには大きくな るらしい。風呂敷に包んで首にぶら下げると歩 行も可能で、仕事もやれるそうだ。

「え〜っ、わたし妊娠中、陰嚢に向かって話しかけるのっていやだ〜」。

それもそうだ。

「え〜っ、じゃあ緊急陰嚢切開ってオペもあるわけ?」。

さすが手術室ナース、反応が早い。

「生まれた後の伸びきったアレって、たたんでパンツに納まるかな?」。

主婦はたたむのがうまいが、男はどうだろう。

「オレって陰嚢から生まれるのっていやだなー、絶対いじめられるよね」。

完全に引き気味の心臓外科医。

それぞれがあまりの奇想天外さに戸惑いなが らも、オペ室の中は爆笑の渦に包まれた。

「でも生まれてきた子は、生みの親をお父さ んと呼ぶわけ?お母さんと呼ぶわけ?」

「う〜ん、そうだな、とても困るだろうな」。

はたと皆が考え込んだ時、年配ナースの一言。

「お袋さんでいいんじゃない」。

オペ室の中は、いつも非日常的な会話が飛び 交っているのです。

心臓手術風景:小児の心臓にメスが入った、
緊張した瞬間をとらえた絵です(制作者:長田信洋)