理事 玉井 修
平成24 年3 月22 日(木曜日)沖縄県医師 会館にてマスコミとの懇談会が開催されまし た。今回のテーマは「看護師不足について」と いう事で、那覇市医師会で那覇看護専門学校担 当理事の山城千秋副会長と、同じく那覇看護専 門学校副校長の垣花美智江先生に沖縄県の看 護師需給状況と看護師育成に関わる厳しい環 境を説明して頂きました。
新聞の募集広告は常に半分以上は看護師募 集で占められております。毎年700 名を超え る看護師が県内の各施設で養成されているに も関わらず、慢性的な看護師不足は依然変わり ありません。県行政が七次に及ぶ看護職需給 見通しを掲げて看護師育成に関わりながらも 充分な看護師の育成が達成できないのは何故 なのか?看護師養成に必要な様々な環境整備 が整わないのは何故なのか?看護教員が充分 養成できない理由は何なのか?看護師養成に 関わる臨床実習施設が整わないのは何故なの か?准看護師養成はこのままたち枯れて行く のか?実数の4 割にも達する潜在看護師が存 在する現実をどう対処すれば良いのか?次々に浮かんでくる疑問は限りありません。
毎日の医療を限られたマンパワーで死守し ている現場の医療人にとって看護師不足はと ても深刻な問題です。3K(キツイ・キタナイ・ キケン)と評された看護師業務は個人の大きな 犠牲的精神に依存してきた部分もあると思い ます。しかし、古き良き時代においては現在の ようなヒステリックな権利意識も低かったの ではないでしょうか。現在は僅かなミスにも人 格を否定された様な悪口、雑言を浴びせられる ことも少なくありません。私は傷つき現場を立 ち去っていく医療人を少なからず見てきまし た。今回のマスコミとの懇談会では、単に看護 師の数の事ばかりではなく、看護師を含めた医 療人を取り巻く社会環境を改善する事が何よ りも大切である事を訴えました。医療に関す る社会的な理解を深め拡げる事が看護師を含 めた医療人が現場に居つづける為に必要です。 この様な事を本音で話し合える機会がこのマ スコミとの懇談会で持てるという事はとても 良い事だと思いました。
マスコミとの懇談会出席者
懇談事項
今回のマスコミ懇談 会のテーマである「沖 縄県の看護師不足」に ついて、看護職の需給 バランスの視点から報 告します。
グラフ(1)
グラフ(1)は2 年に一度行われている看護職 従事者の看護師と准看護師の推移を表しており ます。平成22 年度は就業看護師数が11,359 人、 准看護師は4,858 人です。合計すると16,217 人 となります。特徴として看護師の就業者が増え、 准看護師の数は減っています。それは平成14 年 より、看護大学の卒業生が出る一方で、愛楽園 と那覇高校の衛生看護学科が閉じ、准看護師の 養成数が減った事が影響したものと思われます。
県は5 年毎に看護職の需給バランスを発表しております。
平成21 年10 月調査の第7 次看護職需給見通 しでは、向こう5 年間、平成27 年まで毎年530 (需給見通し97.10%)〜 280 名(98.50%)の看 護職者の不足を見込んでおります(表1)。県内の看護職者の養成数は、平成20 年には2 つの大 学と3 つの専門学校の卒業生419 名から、平成 23 年には大学3 校、専門学校5 校の卒業生720 名へと供給数が増加することが見込めます。あ る程度の供給数の確保はできる見通しになりま したが、依然として不足となる原因は離職者が 多い事があげられます。
(表1)
(表2)
離職の理由としては、健康上の問題、出産・ 育児・家族の看護、介護等々…離職して再就業 する分には問題ありませんが、離職した者が再 就業せず潜在看護職者となってしまうことが、 看護師不足の大きな要因の一つです(表2)。
厚労省の積算によると、全国で55 万人、県内では7 千人の潜在看護職者がいるとの推計です。
潜在看護職者をいかに職場復帰させ、再就業 してもらうかが看護師不足解消の有効な手段です。長く現場を離れた者には、琉大のシミュレー ションセンターを活用することで、ブランクに よって生じる現場復帰への不安を埋める方法に なるでしょう。一方で病院・診療所の管理者は 看護業務を継続し、定着してもらう条件として表3 のような対策をとり、職場の働く環境の調 整、支援が必要となります。
(表3)
私は、「看護職の不足 について考える」指標と して、基礎教育の立場か らお話させて頂きます。 日本社会は、超高齢社 会と国民の価値の多様 化、患者の立場に立っ た安全・安心で質の高い医療提供へのニーズを 持っており、人間力を備え、専門職者として能 力の高い看護師の確保が課題となってきていま す。しかし、医療の現場では、新人看護職の離 職や医療事故が問題となっています。その理由 は、基礎教育と現場の乖離が進んでいることと 看護職を目指す者の対人関係形成能力の低下が あげられています。
そこで、看護職の育成に関わる文部科学省と 厚生労働省は、2008 年より「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」の論点整理をす すめて、翌年には看護教育の在り方と 新人看護職員の質向上等について基本 的な方向性を示したカリキュラム改正 を提言しました(図2)。
図1 日本の社会と医療が看護基礎教育へ求めていること
図2 看護基礎教育を取り巻く動き
図3 基礎教育への課題とカリキュラム関連図
この提言の内容を要約すると以下の5 つの項目にまとめることができます。
そして、カリキュラムは、臨床との 乖離を埋める科目の統合分野の新設 と、卒業時の技術到達目標が示され、 看護実践能力の育成を意識したもので した。図3 は、その内容を当校のカリ キュラムへ導入するために作成した関 連図です。
この教育指針に基づいて看護教育 を実践するには、看護教員の資質向 上、即ち、高い看護実践能力と高い 教育実践能力を身につけた教員が必 要となります。しかし、今回のカリ キュラム改正は、科目が増えたにも 関わらず、教員の数は据え置かれ、 県内5 校の専門学校の教員は多く が疲弊しており、退職者も後を絶た ない状況にあります。さらに、看護 教育と学校運営を困難にしているの は、臨地実習施設の確保が難しいこ とです。
看護職の不足を解決するには、新人の離職者 を減らし、潜在看護職を増やさない努力が必要 です。離職率と専門職意識との関連では、専門 職意識が高い人は離職率が低く、再就職率が高 いことが報告されています。この事から、看護 職確保について基礎教育の立場で担えること は、「専門職者としてのやり甲斐や生き甲斐を 持てるよう関わり専門職意識の内面化を図るこ と」「人間力を育てること」併せて、「基礎教育 から臨床現場へとスムースに適応できるよう実 践能力を高め、組織人としての意識を育てる」 ことです。
この教育目標を達成するには、看護教員の数の確保と質の向上への支援は不可欠な条件だと考えます。
質疑応答
○玉井理事 これから質問を受けたいのです が、まず始めに、潜在看護師が全体の約4 割と いう話が山城先生からありましたが、750 名も 看護師を養成しているのに、4 割の方が潜在化 してしまうのはなぜですか。
○垣花先生 それは、仕事に対する考え方の 変化が影響していると思います。最近は、資格 を活かして仕事を続けていこうと努力するので はなく、自分の生活をまず大事にして、次に仕 事を選ぶ傾向にあります。仕事を続けるための ハードルが高くなると、退職して主婦になるこ とが結構あります。
看護職の離職に関する調査や研究では、専門 職意識の高い人は離職率が低いと報告されています。わたしは、その専門職意識を育てること が基礎教育で大事だと思います。
自分のライフスタイルに合わせて仕事を継続 する力はやはり専門意識が高くなければできな いと考えています。
○大城氏(エフエム沖縄放送局)
看護の世界で新人の離職率の高さというのが、懸念材料だとわかりました。
質のいい看護師を養 成するには、教員の人的 なケアが必要とも思い ました。看護学校の教員は元々看護師さんでい らっしゃいますよね?看護師が教員になるため のシステムを教えて頂けますでしょうか。
○垣花先生 看護教員になるには、看護学校 を卒業して5 年間臨床現場で経験を積み、その 内の3 年間を専門の領域(成人看護・老年看護・ 小児看護・精神看護・母性看護・在宅看護等) で働くことが求められます。例えば母性看護学 を担当する場合は、5 年の経験年数の内、産科 で3 年間継続して勤務する必要があります。そ の条件が満たすことが看護教員養成講習を受講 する資格となります。一般的に看護教員養成講 習の期間は8 ヵ月です。
○大城氏(エフエム沖縄放送局) 学校とか があるということですか、大学のような養成コースがあるのですか。
○山城先生 都道府県単位で看護教員養成講 習会が開催されています。九州ブロックでは、 福岡県が毎年開催しており、他の県については 各県持ち回りで開催しています。沖縄県の場合 は、4 〜 5 年に1 度の開催となっています。養 成校は、そこに教員を派遣して資格を取って貰 うのですが、その間、給料の支払いや住居・交 通費やその教員の代わりの非常勤の給料等を負 担しています。金額としては、400 万〜 500 万 必要です。ですから、折角育てた教職員が退職 者すると残念でなりません。
○平良氏(エフエム那覇)
離職率に関する質問 なのですが、平成19 年 〜平成21 年で全国・沖 縄の常勤の離職率が逆 転して沖縄の方がたっ た2 年で高くなってい ますが、これはサンプル の数の誤差でしょうか。
○山城先生 この数字はたまたまということ ですが、潜在看護師が職場に復帰できないとい うのは、1 度現場を離れると怖くてすぐに現場 に戻れないことがあります。それが非常に大き な問題で、沖縄県では潜在看護師の再教育に取 り組んでいますが、応募者は多くありません。
○玉井理事 何が恐いのでしょうか。
○山城先生 我々はいつも現場にいるので、 それほど感じませんが、やはり人と接すること に抵抗感もあるし、看護師自身の責任も重くな っていますので、それも現場に戻れない理由で もあると思います。
○平良氏(エフエム那覇) 人間のコミュニ ケーション能力が重要だと思いました。それを 専門学校や大学だけで引き受けるのは腑に落ち ないところがあります。もっと手前の教育でや ったほうがリーズナブルだと思います。高校と か中学とかと対話をやっていた方がいいと思い ますが、そういった取り組みはありますか。
○垣花先生 私たちは年に1 回、高等学校進 路相談を担当している先生方をお呼びして意見 交換会を持っています。それ以外は、具体的に アクションはおこしていませんが、おっしゃる 通りだと思います。人間のコミュニケーション 能力や社会人としての能力は、専門教育以前の課題です。
私たちは、入学生の個人の性格や社会性の発 達を見るために、入学後、直ぐに集団エンカウ ンターを実施しています。それから入学時と学 年進級時に職業適性自己診断テストを行い、学 生個々の優れたところや弱いところをグラフで 示してそれを基に面接を行っています。そこで、弱点克服の対策を話し合い、卒業までには バランスのとれた結果が得られるよう支援して います。
最近、自分のことを良く知らない学生が増え てきています。看護の仕事は他者のケアを仕事 とするのですから、まず、ケアを提供する自分 自身のについて知る必要があります。そこで、 当校では人間関係論の科目を設けて、コミュニ ケーションや対人関係論だけでなく、学生が自 己と向き合う力・自己を癒す力を養う支援して います。
○平良氏(エフエム那覇) アフターの話し になりますが、逆にキャリアが始まってからの フォローも必要だと思いますが、学校と現場は 切れていることが想像できます。1 年目2 年目 のキャリアの浅い時期とか、中間で1 度テコ入 れするとか中間支援の仕組みは病院や学校で準 備されているのか教えてください。
○垣花先生 全ての学校について話すことが できませんが、当校では技術教育に臨床現場の 指導者をアシスタントとして入ってもらってい ます。そのアシスタントとの会議を調整会議も 含めると年に3 〜 4 回行っています。ですから 病院の状況もよくわかるし、学校での基礎教育 の状況も臨床の指導者に理解してもらえます。 基礎と臨床の双方の理解の基で指導を行うこと は、学生一人ひとりの強さや弱さをみてあげる ことができる教育システムだと思います。卒業 生の半分が実習病院に就職していることから継 続教育にも生かされます。
それから、今年は、おきなわクリニカルシミ ュレーションセンターの阿部先生にお願いして、 卒業前の1 週間、シミュレーション教育を実施 しました。それはたぶん全国でも初めての取り 組みだと思います。設定されたシナリオは、3 から4 人の事例を想定して深夜勤の看護師から 新人である学生が申し送りを聞き検温に入る場 面です。4 人の患者さんの状況を聞き、受け持 ちの看護師として優先順位の決定や時間管理、 先輩看護師に相談や支援を受ける行動がとれる かが試されるのです。学生のなかには真面目に メモをとり、一生懸命考えて、誰から先にバイ タルを測定するかを決定して動く学生もおれば、 考えることなく近くにいる患者から始める学生 もおります。しかし、回数を重ねる中でなぜそ の人から始めたのかを説明できるようになりま す。この教育は、卒業後、臨床現場に立った時 に体験することを時前に知るイメージトレーニ ングになります。それから現場で直ぐに必要な 技術である採血の手技や輸液の準備と点滴速度 の調整をそれぞれ10 回繰り返し体験してもらい ました。学生は「先生!回数を多くこなせば時 間が短縮できます。」とか「要領がわかります。」 等と気づいてくれました。
この教育方法を取り入れたのは、基礎教育と 臨床との乖離を少なくするために取り組んだこ とです。卒業後は、卒業生を学校に集めて、困 っていることはないか、卒業前のシミュレーシ ョン学習は役立ったのか等、評価を受けていき たいと考えています。この方法がうまくいけば、 学校と臨床現場の新人教育とがうまく繋がって いくのではないかと思っています。
○新崎氏(沖縄タイムス)
今日のテーマは看護 師不足ですが、現状で1 番不足しているのは県 立病院なのか病院なの か診療所なのか。深刻さ の度合いはどうなって いますか。
○山城先生 全体が不足しています。診療報酬の点数が看護師の数で差がありますので、病 院は病院なりに看護師の定数を確保しようと頑 張っています。診療所は診療所で大規模病院に は給与面で劣りますので、なかなか応募してく れないのが現状です。やはり新人の看護師は大 規模病院で自分を磨きたいというのもあって実 習病院で働く方が多いです。また、診療所は診 療報酬が変わりませんので待遇面で優遇するこ とはあまりできません。問題だと思いますし、 全体的に不足しております。
○玉井理事 大規模病院は7 対1 看護をとる ために必死に頑張っています。診療所も経営的に 大変ですが必死で運営しています。先ほど怖いと いう話しがありましたが、看護師は患者さんから 浴びせられる言葉に対してとても傷ついているこ ともあります。そういうこともあって、もう現場 に帰りたくない。現場から逃げたい。一旦家庭に 入ると居心地が良くて辛いところには戻りたくな いということもあると思います。是非マスコミの 皆さんに訴えたいのは看護師も人間ですので心な い言葉に傷ついています。これから新人看護師が たくさん出てきますから、社会全体で育てていっ て、辞める人がいないように、そのような環境を つくれたらいいと思います。そうしないと看護師 の需給は充足しません。何百人養成してもドンド ン辞めてしまいます。短い時間でいろんなことは 話せませんでしたが、看護師は闘っています。看 護師を守っていきたいです。
○照屋理事
うちの診療所は1 年 前に1 人辞めて4 人体 制が3 人になりました。 それが元通りになるの は2 年も3 年もかかる のが現実で、そのうちの 2 人がパートになれば1 人のナースで回している状態です。
でも、需給見通しで500 人から200 人足らず になりますとありましたが、とんでもない。現 場は600 〜 800 人ぐらい足りない状態が毎年慢 性的に続いていると感じています。
○平良氏(沖縄テレビ)
需給見通しというこ とで平成23 年度97%と ありますが、正直病院等 を取材していると慢性 的な看護師不足で悩ん でいますという声が返 ってきます。これはあく まで見通しということで実際は潜在的に現場に 出ない人がいるんですよね。
○山城先生 県は5 年ごとに見通しを立てて、 100%近くという発表はしますが、病院は慢性的 に不足しているのが現状です。やはりたくさん 採用しますが、離職者も多くて常に人事の人は 走り回っていると思います。
○宮城会長
医療現場を回ると、看 護師が充足していると は思えません。慢性的 に不足していると思い ます。7 次の需給計画で すが第1 回から必ず5 年後は充足していると いうデータを出していますが、それが合ったた めしがないです。前々回の需給計画で初めて約700 名不足しているというデータを出していま す。ということは5 次に渡ってやった需給計画 は全く合っていません。それはいろんな資料に 基づいてデータを出していますが、離職者、本 土からの帰沖者等データを考慮して5 年後はバ ランスを取れているといってきました。そのデ ータに基づいてコザ看護・那覇看護を閉校した のです。要するにバランスがとれるからと。大 学を造ったときに病院長に大学を造ることに賛 成か反対かアンケートをとったら、ほとんどの 病院長が賛成と出したら、その裏には那覇看護 を無くして大学を造るということがあるのを一 切言わずに実施されました。行政の仕事は看護 師をしっかり養成するのが仕事だと思いますが、 制度も変わってきています。10 対1 看護7 対1 看護場合によっては5 対1 看護になるかもしれ ません。在宅、老健も出てきましたが、需給計 画を立てるときに制度の変更は考慮されていま せん。それから助産師の数が不足しているとい うデータも出て、助産師の養成にも力をいれて います。需給見通しと医療現場とは実際違う気 がします。実際は不足しています。
○玉井理事 これにて第4 回のマスコミとの懇談会を終了します。皆さんありがとうございました。