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「老いの才覚」曽野綾子 著
KK ベストセラーズ ベスト新書

介護老人保健施設桜山荘 石津 靖

最近、私の本棚には見ると老人の生き方に関 する本が増加している。主な本を上げると「お ひとりさまの老後」と「男おひとりさま道」 (上野 千鶴子著)、「八十路から眺めれば」(マ ルコム・カムリー著)、「100 歳までボケない 101 の法則」(白澤 卓二著)、「老年の品格」 (三浦 朱門)などである。

自分自身の最近の精神・肉体の状態を考えて みると、自分勝手で、他人の意見が聞けない頑 固な傾向にまた疲れが一日で戻らないなどの状 態になってきた。先人の言い伝え「60 歳から 年々、70 歳からは月々、80 歳からは日々衰え る」という言葉を実感し始めている。

この本の帯に「年の取り方を知らない老人が 急増してきた」というキャッチコピーに惹かれ て購入したが、内容は以下のとおりである。

第1章 なぜ老人は才覚を失ってしまったのか
第2章 老いの基本は「自立」と「自律」
第3章 人間は死ぬまで働かなくてはいけない
第4章 晩年になったら夫婦や親子の付き合い方も変える
第5章 一文無しになってもお金に困らない生き方
第6章 孤独に付き合い、人生を面白がるコツ
第7章 老い、病気、死と馴れ親しむ
第8章 神様の視点を持てば、人生と世界が理解できる

読了後何か今まで自分が悩んでいた老後の生 き方が解決したような気がした。

皆さんは老化度をどのようにして測っていま すか。六十歳を過ぎてから中学校の同窓会に行 くと先生と生徒の見分けがつきにくくなってい ます。老人と言っても個人差が相当あります。 曽野さんは老化度を測る目安を「くれない指 数」で判断されているそうです。世間には、友 達が「してくれない」、配偶者が「してくれな い」、娘や息子や兄弟やいとこが「してくれな い」、という人が大勢おられます。また「連れ ていってくれない」、「伝えてくれない」、「買っ てきてくれない」と絶えず他人を当てにしている人もいます。

「くれない」を言い出した時が老化の始まり で、「くれない族」ならないように心がけたい ものです。老健に勤務していてよく感じるの は、「ご家族が私たちは今まで面倒を見てきた のだから、今後は介護保険で」とか入所者や利 用者の方々の中にご自分でできることも「して もらって当たり前あるいはされて当然」と思っ ておられる方が少なくないことです。自分でで きることを自分でしようという気力あるいは自 分でするのだという信念を持っておられる方が 減ってきたのです。

戦後の教育思想が貧困な精神を作ったと私は 思います。何かにつけて「人権」、「権利」、「平 等」を主張するようになった結果、モンスター ペアレンツとかモンスターペーシェントなど自 己主張のみをする人が増加しました。昔は「遠 慮」という言葉があったが、「権利」を主張して 「損をすることには黙っていない」という時代に なった。決して良い時代とは私には思えません。

本を読むことが少なくなり、メールで連絡す るようになったためか正しい日本語で文章を書 ける人が減少しています。同時に語彙は貧困に なってきて、発言する際に形容詞の多用が目に つくようになりました。このままでは美しい日 本語が消え去ってしまいます。

昔は無病息災と言われていたが、最近は一病 息災と言われています。常に自分の病気と向き 合って、主治医と良い付き合いをすれば長生き できるということらしい。起床時に前日の疲れ がとりきれておらず、全身のあちこちに痛みが あって少し動いているうちに軽快してくるなど の加齢現象が起こってくる。この状態を受け入 れることが、老後の生活を楽しむためには必要 なことだと思う。いつまでも肉体は青春時代で はないが、精神だけは青春時代のままで保って おきたいものである。

読後感というより、著者の書かれたものをも とにして私の意見を述べた文章になってしまっ たことを読者に心よりお詫びします。