会員の先生方には、北部地区の保健・医療福祉の向上にご協力をお願いします!
Q1.北部福祉保健所長になられて約1 年にな りますが、北部地域の福祉保健の問題点、 対策、取り組みの状況についてお聞かせく ださい。
はじめに、このような機会を設けていただき 感謝いたします。私が公衆衛生医として最初に 勤務したのが名護保健所でした。当時は、地域 保健法が全面施行される前でしたので、乳幼児 健診や市町村との委託契約による、住民健診の 間接フィルムの読影などもあり、伊是名や伊平 屋への出張となると、船の便の関係から2 泊は 必要でした。
今回の北部での勤務は15 年ぶりになります が、所長としての赴任でしたのでいささか緊張 していたことを覚えています。これまで福祉分 野の経験は殆どありませんでしたので、まず、 所内での決裁文書に丁寧に目を通すことからは じめ、理解できないことは班長に確認すること を心がけました。また、管内市町村をはじめ関 係機関と顔の見える付き合いができるように、 案内のきた会議にはできるだけ参加するように 努めました。
管轄する保健圏域は、1 市1 町7 村、人口は 102,251 人(平成22 年10 月1 日現在)、福祉 圏域は名護市を除く1 町7 村です。ご存知のと おり、北部地域は本島面積のほぼ半分近くを占 め、広大な森林地帯が広がり貴重な動植物が生 息しています。名護市を除くと高齢化率が県平 均より高く、医療機関も少なく交通の便の良く ない地域が多くなっています。
○医師不足について(産婦人科、小児科は厳 しい状況ですが、内科医の不足も問題にな ってきています。)お聞かせ下さい。
全国的に医師の確保が困難になっているとの 報道がなされ、県立北部病院においても最近は 産科、小児科のみならず内科でも確保が困難 で、救急体制の維持に苦慮している状況です。 当直体制を含め勤務医の業務軽減を図ることが 緊急の課題です。県立病院が働きやすく、やり がいのある環境を整えることは当然ですが、離 島、僻地の県立病院に対する応援体制の確立が 望まれます。
北部の市町村では、保健師の確保・定着も大 きな課題です。過疎地域自立促進特別措置法に 基づく市町村のうち、人口1 万未満でかつ地理 的諸条件等により、町村の自助努力では保健師 等の人材確保および定着が困難で、かつ県への 申し出のある町村を特定町村といい、県内に 16 町村あるうち管内に6 村あります。
当所では、「沖縄県保健師等人材確保支援計 画」に基づき、関係機関と連携し必要な専門職 種の確保に努め、保健師に対する現任教育をはじめ各種の事業を実施しています。
○沖縄県の2/3 近くの面積に約10 万人が住む 北部での保健・医療には他の地区にはない 困難さがあると思います。ドクターヘリ、 救急医療、新型インフルエンザ対策等につ いてお聞かせください。
北部は、離島3 村と広範囲な僻地を有するた め、救急医療体制の整備には多くの課題を抱え ています。救急告示病院は、県立北部病院、北 部地区医師会病院の2 箇所しかなく、三次救急 患者は、県立中部病院救命救急センターへ搬送 することになっています。
しかし、距離が遠いので搬送中の急変時の対 応や、他の救急患者搬送が手薄になる恐れもあ ります。離島からの救急搬送は、陸上自衛隊や ドクターヘリおよびMESH による体制で行わ れています。管内の消防による救急搬送は、名 護市消防本部、本部町今帰仁村消防組合、国頭 地区行政事務組合消防本部によって行われ、例 年8 月が最も多くなっています。
急患ヘリの運行形態は3 種類あり、平成元年 から県の事業として行っている、沖縄県ヘリコ プター添乗医師等確保事業として自衛隊機によ り運行しているもの、平成20 年12 月より全国 14 道府県15 機目のドクターヘリとして、県の 補助金を得て運行しているもの、そして平成 19 年6 月、北部地区医師会病院による民間の 緊急ヘリ搬送システムとしてスタートした MESH です。MESH は、平成20 年7 月に財政 的理由により運行中止となりましたが、平成 20 年11 月にNPO 法人として承認され、平成 21 年6 月から運行を再開しています。
昨年12 月の管内救急医療協議会の資料では、 昨年9 月までの緊急空輸件数は119 件あり、内 訳は自衛隊5 件(4.2 %)、ドクターヘリ20 件 (16.8 %)、MESH94 件(79 %)となっていま す。搬送先医療機関の割合は、北部地区医師会 病院64.7 %、県立北部病院16 %、浦添総合病 院7.6 %、県立中部病院4.2 %です。主な傷病 名は、脳卒中17 件、心肺停止8 件、虚血性心 疾患7 件、意識消失3 件、その他(外傷など) です。ちなみに、平成20 年からの急患空輸件 数は295 件あり、MESH が全体の58.3 %を占 め、北部地域における急患空輸の大きな役割を 果たしています。
平成17 年、県立北部病院の産科閉鎖に伴い 異常妊娠、分娩に関しては、他圏域の医療機関 へ紹介又は搬送しなければならなくなり、当所 では平成18 年度から市町村、開業産科助産師、 県立北部病院とで管内助産師連絡会議やハイリ スク妊婦支援会議等によりハイリスク妊婦支援 体制を構築し、健診未受診妊婦減少、飛び込み 産、車内分娩など危険な分娩が減るように取り 組んでいます。
一昨年の新型インフルエンザ発生時には、県 医師会、県立病院をはじめとした医療機関との 連携により、沖縄県の取り組みは全国的に高く 評価されましたことはご存知のとおりです。北 部では幸いなことに発生が中南部圏域とタイム ラグがありましたのと、比較的軽症者が多かっ たこともあり、地区医師会、2 箇所の救急告示 病院との連携で大きなトラブルはありませんで した。しかし、患者の救急病院への集中、医療 機関の役割分担、重症者の増加した場合の対 応、離島からの患者搬送など検討すべき課題等 もありますので医師会の先生方にはこれからも ご協力をお願いいたします。
○増加する生活習慣病(高血圧、糖尿病、高 脂質血症、肥満)、癌、自殺等への北部での 問題点や取り組みについてお聞かせくださ い。(特定健診、連携・歯科医師会・薬剤師 会・経済界)
県民は男女ともに全国一肥満が多いといわれ、 健診の有所見率は高いにもかかわらず、医療機 関受診は低く、重症化して入院することになり、 医療費が高くなるパターンが指摘されています。 北部でもその傾向は強いと思います。管内市町 村の特定健診受診者(平成20 年度)における有 所見率は、男女とも腹囲、BMI、中性脂肪、 GPT、HbA1c で県の割合より高くなっており、 生活習慣病予備軍の多さが伺えます。
3 大死因(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患)について、管内の平成15 年〜平成19 年の 標準化死亡比(SMR)では、男性の悪性新生 物、女性の脳血管疾患が県平均より高くなって います。県の主要ながん検診受診率(平成20 年度)は、子宮がん、乳がんを除き全国より低 くなっています。管内では肺がん検診のみ県や 全国より高く、子宮がん、乳がんの検診受診率 は10 %未満で著しく低くなっています。また、 北部では大腸がん、乳がんなどの二次検診機関 が少ないという課題があります。
市町村健康増進計画の策定は、平成22 年12 月現在5 町村で未策定になっており、管内の健 康づくりを推進するうえで大きな課題です。
当所では、北部地区における「健康おきなわ 21」の推進、地域・職域連携会議をとおしての 働き盛りの健康増進、医療機関・市町村保健師 等との事例検討会などを行い、生活習慣病予防 に取り組んでいますので、これからも先生方の ご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。
自殺者は、13 年連続して全国で3 万名を超 え社会問題化し、国を挙げての取り組みがなさ れていることはご存知のとおりです。2005 年 から2009 年における管内男性の10 万人当たり 年齢別自殺死亡率を見ると、45 歳〜 54 歳にピ ークが見られ、また、1995 年から2009 年まで の15 年分の人口動態統計から、管内男性自殺 者の早世者数(65 歳未満)は、悪性新生物に ついで2 位になっており、保健衛生にとっても 大きな課題です。
当所では、県の自殺総合対策行動計画の推進 にあたり、普及啓発事業、人材育成事業、相談 事業、自殺対策推進体制整備事業を行っていま す。うつ病対策としては、富士モデルを参考に 「うつ病紹介システム」を地区薬剤師会、地区 医師会の協力を得て取り組んでいます。地域で の薬剤師、一般医、精神科医との顔の見える連 携につながることを期待しています。
○現在進行中の地域医療連携体制総合整備事 業の概要、進捗状況についてお聞かせくだ さい。
この事業は、県医師会が地域医療再生基金の 一部(1 億8 千万円)を使って、地域医療支援 センターを設け、北部保健医療圏をモデルに生 活習慣病(糖尿病、脳卒中、急性心筋梗塞等) を中心に、地域医療連携を推進していくための 基盤整備事業です。
県医務課によりますと、平成22 年度は地域 医療IT 連携委員会の準備委員会として3 回ほ ど開催され、県医師会、北部地区医師会、県立 北部病院や民間病院等の関係者が参加して、地 域医療の実態を把握するためのデータの一元 化・管理、地域連携クリテイカルパスの管理・ 運用、転院調整のためのシステム管理・運用な どについて意見交換がなされています。
Q2.本会や日本医師会に対するご意見・ご要望がございましたら、お聞かせください。
医師会の先生方には、診療でお忙しいなか当 所の主催する各種協議会、連絡会議、感染症診 査会の委員をはじめ、嘱託医として生活保護者 の医療扶助に関する審査等で大変お世話になっ ており、改めてお礼を申し上げます。
当所では、平成16年度から北部地区医師会長、 県立北部病院長、北部地区医師会病院長との保 健医療に関する意見交換会が行われています。現 在は定例化され毎月第3 水曜日に開催しており、 議題によっては歯科医師会、薬剤師会にも参加 していただき、管内の保健医療に関する情報の共 有・周知ができて大変助かっています。
Q3.最後に日頃の健康法、趣味、座右の銘等がございましたら、是非お聞かせください。
心がけていることは、適正体重の維持と毎朝 の犬とのウオーキングぐらいです。実は、名護 で単身赴任をしていた平成9 年ごろ痛風発作を 経験しました。その頃からすでに中性脂肪が高 く脂肪肝も指摘されていましたが、最近は加齢 とともにHbA1c も上昇する気配となり、本気 になって食事療法、適度な運動に取り組んでい る次第です。
元来、何かに没頭するタイプではないので趣 味といえるものはありませんが、家内が油絵を描いており画材もあるので、気が向けば身近な 対象物を描くことがあります。
座右の銘というのかわかりませんが、これま で医師として自身への戒めとしてきたことは、 母校の学是である「殉公克己」です。保健所に 勤めるようになって転勤辞令をいただくとき は、医局を辞する際に寄せ書きの色紙に教授が 記してくれた、「到る所、青山あり」の言葉を 思い起こし、新たな気持ちで臨むようにしてい ます。
この度は、インタビューへご回答頂き、誠に有難うございました。
インタビューアー:広報委員 石川清和